お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

好きなものを好きと言いたい。苔さんの場合

#コスメアカの履歴書

ひらりさ

コスメを偏愛するコスメオタクが増えている。中でもTwitterの「コスメアカ」は、よりディープな情報発信の場として話題。この連載では「劇団雌猫」所属のライターひらりささんが、今気になるTwitterコスメアカにインタビュー。おすすめアイテムや美容愛、さらには人生までをも覗き見ます。

取材・文:ひらりさ
編集:照井絵梨奈/マイナビウーマン編集部

同人サークル「劇団雌猫」所属の美容オタクライターひらりささんが、今気になるTwitterコスメアカの実態を探る連載「コスメアカの履歴書(https://woman.mynavi.jp/tag/rensai_cosme-account/)」。

今回は、苔さん(@KOKE_1515)にインタビューしました。

――2020年にセルフネイルにハマり、今ではご友人の指にネイルを施しているという苔さん。「男なのに」というためらいを乗り越えるまでのエッセイ記事を過去に読んで、すっかりファンになりました。「苔」という名前も印象的で。

僕、森の中にあるような高校に通っていたんです。学校の周囲に苔がいっぱい生えていたのがキラキラしていてきれいだったので、「苔」という名前で今のアカウントを作りました。完全に思いつきなんですけど、ここまできてしまいました(笑)。

――bioに「クィアギャル見込み」と書いて、セクシュアリティのことも発信してますよね。

そうですね。僕は男性のことを好きになるので、日頃いろいろな大変なことを経験したりすることも多くて、たまにボヤいたり、あとは純粋に好きなタイプの男の話とかをしてますね(笑)。「クィア」という言葉には様々な意味合いがありますが、僕個人は性的マイノリティをくくる、性的マイノリティを包括的に表す言葉として使うことが多いです。

――セルフネイルには、以前から興味があったんですか?

「爪の形がきれい」と言ってもらえることは多かったのと、同居している姉が美容に詳しくて、いつも爪をキラキラにしているので、意識はしていました。コロナ禍のまま社会人生活が始まった2020年のゴールデンウィークに、気分転換がしたくなってふと「爪やってみたくなっちゃったな」と呟いたら、姉が即塗ってくれて。嬉しくて見せびらかしたくなって、ツイートしました。

――紫と銀の組み合わせが最高に良いですよね。ついているリプライも、とても幸せな気持ちになりました。

それまでは、「髪の毛染めた」とか文言だけでツイートしていたこともあったんですが、自分の体の一部を写真で出すようになったのは、ネイルが最初でした。

反応も嬉しかったですし、初めて爪に色をのせて気づいたのは、「こんな簡単に塗れるんだ!」ということでした。塗ったらどうなるんだろうとか、最初は分からないじゃないですか。でも塗ったら色がついて、それがきれい、というごく簡単な話でした。

塗る前は「ネイルをしている男性」って自分の中で異世界というか、自分と離れた世界の住民みたいに大げさに感じて身構えていたんですが、やろうと思えばこんなするっとその世界の国境を飛び越えられるんだという点でも驚きました。「ネイルをしている男性」って、この筆でこの爪に色塗るだけでなれるんだ〜! と。

はじめから異世界なんて無かったんですね。僕が勝手に国境を引いてただけで。

――自分で塗り始めたのはいつ頃ですか?

ゴールデンウィークの時は会社もあったので塗ってすぐ落としちゃったんですけど、8月にふと時間ができたタイミングがあって、塗るぞ! と自分で塗りました。ネイルって見るのも好きだけど、自分は塗るのも好きなんだとその時気づきました。

普段、自分の体のパーツを目を凝らして見つめる時間ってなかなかないじゃないですか。スキンケアは、どうしても義務感、身だしなみの一部としてやっている感覚もあり……。

自分の考えを見つめ直す時間はこれまでも持っていたけれど、自分の体を見つめ直してケアするって純粋に楽しいなあと知って、ネイルがどんどん楽しくなりました。ひとまずは姉のネイルをもらって、自分でもアイテムをそろえ始めました。

――初めて買ったネイルはどこのブランドでしたか?

SHIROでした。友達と一緒にデパコスを買いに行った日に見つけて。「7B14 イエロー(※)」というカラーなのですが、色がすごく良いんですよね。

※編集部注:現在はリニューアル済み

――たしかに! かなりビビッドな黄色だけどちょっとくすみ感もあって、面白いですね。デパコスフロアも初めてでしたか?

そうなんです。女友達と行ったのでまだ気楽でしたけど、やはりどういう反応されるのかは不安でしたね。でもすごく優しくて「爪の形きれいですね」と褒めてくれたりとか、「彼女さんにですか?」ではなくて「ご自身用ですか?」と聞いてもらえたりとか。

こちらがすんなり「はい」と答えられるコミュニケーションをしてもらえて、身近な場所、自分がいても良いと思える場所だと感じられました。

――ネイルの情報はどうやって仕入れていますか?

ポリッシュの情報はSNSで追いかけるくらいです。一方でケアにはこだわりたいので、ケアの方法はかなり検索して調べていますね。ネイルオイルなんてものがあるんだ、調べるとukaが良いらしい、とどんどん学んで、買いに行くと「ネイル美容液もおすすめです」と言われて全部買う、みたいな(笑)。

今本当に、ukaが多いですね。未来を犠牲にしてするおしゃれはあまり好ましくないなと思って、爪に負担をかけないようなケアとアイテム選びを心がけています。リムーバーだったら、ADDICTIONのノンアセトンのものとか。

あとハンドクリームは、僕がネイル好きって知ってる友達からプレゼントしてもらうこともあって、今もそれを使っています。

ネイルケアアイテム(撮影/苔)

――今、ネイルはどれくらいの本数持っているんでしょうか。

30本くらいですね。そこまでどんどん買っているわけではないです。というのも、ブランドによっては、いわゆる「女性らしさ」を意識したカラーバリエーションなのか、僕にはちょっと使いづらいところもあり……。

もちろん僕が使ったって良いんですけど、好みの色に出会えることが少ないんです。SHIROの黄色ネイルは、かゆいところに手が届いた色味でした。

ルナソル、THREE、SHIROは色もそれぞれのブランドならではですし、ブランドコンセプト的にも手に取りやすいです。最近新しくルナソルのベースコートを買ったんですけど、ベースコートなのにラメが入ってて最高でした!

ルナソル ネイルプライマー(撮影/苔)

――セルフネイルはどれくらいの頻度で行っているんですか? 

今は、週に一度はやりたいなと思っています。ただ若干爪が傷んでるなと思うとおやすみしますね。

ネイルケアでいうと、毎日ハンドクリームをこまめに塗るのを大事にしてます。1日に3回は塗ってる。その度にネイルオイル、ネイルセラムも爪の表面に塗ります。あとこの間、ukaのネイルサロンでケアしてもらいました

――おお。初ネイルサロンどうでした?

緊張しましたよね。デパコス売り場と違って、同じ場所に長い時間とどまるじゃないですか。周りの人にキョロキョロ見られる可能性もあるんじゃないかなと思ったり。

でもukaはメンズ用コースがあったのでその点少しハードルが低かったのと、実際に施術してもらったらだんだんそんなこと気にならなくなって。爪の汚れも取れて本当にきれいになったし、ケアしてもらううちに、爪って単なる体のパーツのはずだし、男女関係なくあるしなあ、と開き直れるようになりました。爪の汚れだって男女関係なく溜まっていくわけで。

――一度、「男なのに……」という周囲の声が気になって、慌ててネイルを落とした経験があると伺いました。

友達とみかん狩り旅行に行った時ですね。イベントに合わせて前日にオレンジのネイルを買って、わくわくしながら塗って、現地に行ったんです。そうしたら超でかい声で「あの人男なのに爪塗ってるよ」と子どもが言ってるのが聞こえちゃって。子どもが悪いわけじゃないんですけどね。

――あ〜……。

それまでは幸いそういう目に遭ってなかったんですが、一気に『裸の王様』みたいな気分になりました。周りが褒めてくれるからこれで良いと思っていたけど、世間的には男のネイルってやっぱり変だよな、みんな気を使ってくれてたんだろうなって。

その後も旅行中ずっと早くネイルとりたいな、リムーバーないかなってことに気を取られていて、帰宅してネイルを落としてやっとホッとした自分がいました。

当日の様子(撮影/苔)

――子どもに悪気はないにしても、しんどい出来事ですよね。

親御さんがもしかしたら「ああいうのもかっこいいじゃん」と言ってくれていたかもしれないんだけど、自分は胸を張れずにその場を逃げるように去ってしまったんですよね。それが悔しかった。僕自身も僕自身の爪のことを本当に好きって思ってなかったのかもしれないなと。

一週間くらい過去の写真すら見たくなくなっちゃったんですけど、友達といろいろ話すうちにだんだん写真を見れるようになって、「やっぱカッコよくね」ともう一度思いました。

数週間後に再開してみたら、やっぱり「こんな簡単に塗れるんだ」という気持ちになって。爪の先にポリッシュを乗せた瞬間に色がついて、ああこれ楽しいしきれいだ、そんな難しく考えなくて良い、難しく考えざるをえない社会なのは知ってるけれど、でも、楽しいしきれいだしこれが僕の中の「普通」じゃない? と断言できました

――良かった。ここ最近のネイルはデザイン性も高くて、さらにネイルを楽しんでらっしゃるなと思っています。

時間が経つにつれて、ネイルすること自体が目的というよりも、ネイルをするのは当たり前で、どうやるか、という考え方に変わっていきました。それで例えば、デザインにこだわるようになったり、他の人と自分をつなぐコミュニケーションとしてのネイルを楽しんでいくようになりました。

今僕は会社員なんですけど、僕が今やっている仕事って、自分がなんの役に立っているか分かりにくいこともあって。でも、ネイルはやってあげると、すぐ喜んでもらえるし、「きれい!」って言ってもらえる。自分の仕事だって回り回って人を幸せにしているかもしれないけれど、ネイルはダイレクトに反応があるのが嬉しいです。

友人カップルにネイルをしました(撮影/苔)

――反応が増えて、届く範囲が広がったことでの変化はありますか?

はじめは単純に自分が楽しくてツイートしていたんですが、反応が大きくなるにつれ、男の自分がネイルを楽しむ姿をいろいろな人に見てもらう、「可視化」されることって大事だなと思ってきました

「ネイルしてみたいけど男だし……」とか、「女だからネイルしないといけない……」と思っている人の気持ちが少しでも軽くなるんじゃないかなと。
実際、DMやリプライでもそういう声をいただくようになりました。自分のためでもあるけど誰かのためでもある。巡り巡ってそういう誰かに届くと良いな、と願っています。

女性として生きる/生きたい人も、男性として生きる/生きたい人も、そんな男女二分法にとらわれずに生きる/生きたい人もみんな、好きにネイルをして、好きにネイルをしないでいられるような世の中になるといいなと心から思います。

――ネイルで人生、変わりましたか?

変わりました! もしかしたらネイルじゃなくても良かったかもしれないけど、好きなものを好きと言うことの尊さと楽しさを教えてくれたのは、僕の場合やはりネイルでした

僕がネイルを好きなのと、同性を好きというセクシュアリティは連動しているものでは必ずしもありません。でも、人に「好き」と話すのは抵抗があったというのは共通していた。どちらも、好きなものを好きと言いたい、ただそれだけ。

特にセクシュアリティに関しては、20年以上人に言えませんでした。そんな時にネイルに出会い、紆余曲折を経て堂々と「ネイルが好き」と言えるようになれた。そこから、ネイルが自分の中で「好きなものを好きと言える自分」を証明してくれるお守りというか、僕が僕である上での大きな要素に変わりました

そしてその後、「自分は男が好きである」ということも開示するようになりました。ネイルを始めたことが、自分のセクシュアリティを人前で話せるようになったことにも繋がったと、今振り返ると思います。

ちなみに好きなことを好きって言える人のことを僕は「ギャル」だと思ってて。“クィアギャル”としての自分の発信が、少しでも誰かを励ませたら嬉しいです。

友達にネイルしに行くとき用のポーチ(撮影/苔)

――ありがとうございました!

コスメアカ「苔」さんの履歴書

※写真のコスメはすべて本人私物です

INFORMATION

『だから私はメイクする』漫画:シバタヒカリ、原案:劇団雌猫

『浪費図鑑』の劇団雌猫が贈る話題書をコミック化!

メイク道を爆進するうちにあだ名が「マリー・アントワネット」になった女、“推しネイル?にハマって猛練習する女、仕事場での“アドバイス?にうんざりしている女など、メイクを通して見えてくる、「社会」や「自意識」と戦う女たちの悲喜こもごも。

「自分がどうありたいか」と向き合う、共感必至のオムニバス・ストーリー!

※この記事は2021年12月25日に公開されたものです

ひらりさ

1989年生まれ、東京都出身。ライター・編集者。女性・お金・BLなどに関わるインタビュー記事やコラムを手掛けるほか、オタク女性4人によるサークル「劇団雌猫」のメンバーとしても活動。主な編著書に『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

ブログ:It all depends on the liver.
Twitter:@sarirahira

この著者の記事一覧 

SHARE