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恋がしたくなる。読書の秋に読みたい「純愛」を描いた作品3選

#本が教える恋のお話

森本木林(きりん:読書研究家)

社会人として経験を積み、自分の仕事はもちろん、後輩のサポートも行う中堅社員として活躍しているマイナビウーマン世代の女性たち。慌ただしい毎日の中で、情報収集はほとんどスマホ経由という人も多いはず。たまには肩の力を抜いて、読書してみるのはいかがでしょうか。「読書の秋」と言われるこの季節に、本だからこそ出会える「恋のお話」として、第1回は「純愛」をテーマにした作品を紹介します。

はじめまして、読書研究家として活動している、きりんです。幼い頃から読書が好きで、毎日1冊の本を読んでいます。現在はSNSを中心に「私らしく生きていくための読書案内」を日々発信しています。

さて、街の景色もだんだんと色づき、なんだか人恋しくなる季節になってきました。みなさんは、どんな秋を過ごしていますか。

私がぜひおすすめしたいのが、読書の秋。おうちで過ごす時間も多い今、ゆっくりと読書して、物語の世界に浸ってみるのはいかがでしょう。

この連載では、「本が教える恋のお話」というテーマで、これから3回に渡って、恋愛にまつわる本を紹介していきます。

今好きな人がいるという方には、恋の処方箋となるような本を。これからすてきな恋を始めてみたいという方には、心がときめくような本との出会いになればうれしいです。

第1回のテーマは「純愛」

「純愛」と聞いたら、あなたはどんな恋を思い浮かべますか? 自分の想いを貫き、たった1人を愛し抜くことでしょうか。

もちろんそれだけに限ったことではなく、片思いで切なく散った恋も、悩んだ末に終わってしまった恋も、周りに反対されてかなわなかった恋も、そのどれもが美しく輝く「純愛」には変わりありません。

今回は、そんなさまざまな形が存在する「純愛」にまつわる小説を3冊ご紹介します。みなさんが気になる作品が見つかりますように。

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子(講談社)

仕事は好きだけど、自分に自信を持てなくて、人付き合いはニガテ。恋からもすっかり遠ざかっている。

そんな主人公の入江冬子に感情移入して、気づいたらスルスルと読み終えてしまうほどハマったのが本作。不器用でうまく進まない「純愛」が描かれているのですが、久しぶりに恋する気持ちを思い起こさせてくれました。

冬子は、校閲者として働く独身女性。会社勤めをしていたものの、周囲との人間関係に馴染めず退職し、フリーランスとして生計を立てています。そして、高校時代のある出来事が心の傷となり、恋愛からも遠ざかってしまいます。

しかし、ある1人の男性と過ごした日々をきっかけに、冬子は恋に目覚め、自分の生き方を見つめていくようになります。

その男性とは、冬子がフリーランスになってから、お酒の失敗をきっかけに出会った三束(みつつか)さん。会う回数を重ねるごとに、年の離れた物静かな三束さんと過ごすひとときが、冬子にとってかけがえのない時間になっていきます。

高校で物理を教えている三束さんが「光」のしくみについて語るシーンでは、変化のない日常にきらきらとした美しい世界をもたらしてくれるかのように、三束さんの言葉が冬子の心に響いていく様子が描かれます。

冬子が三束さんのしぐさや特徴を近くから眺める描写は、恋を知ったばかりの少女のように初々しく感じられて、ドキドキしました。

もっと三束さんのことを知りたい、もっと近づきたい。臆病だった冬子の心にも、人を好きになる感情が芽生えます。それは美しいだけではなく、時には激しくドロドロと渦巻きます。

そうした1つの感情だけでは収まらない冬子の「好き」という素直な気持ちに、まさに「純愛」を感じました。

人と距離をとっていれば、自分は傷つかなくて済む。それは冬子が望んだはずの、気楽な生き方。しかし、冬子は同時に「なのになんで私、こんなに寂しいんだろう?」と悩み苦しんでいました。

冬子にとって三束さんは、長く閉ざしてきた心を少しずつ解き放ってくれる、唯一の存在だったのではないでしょうか。冬子の変化を見ているうちに、読者である私は、冬子と全く違う性格の人間のはずなのに、いつの間にか冬子に共感していました。

誰しもが悩む、1人でいることの気楽さと、孤独との葛藤。でも、きっと冬子の心は、「純愛」を知って息を吹き返すでしょう。

愛を求めれば、傷ついてしまうかもしれない。けれど、やっぱり人は1人では生きられません。恋に踏み出せないと思っていても、なんでもない日常に恋は舞い降りてくる。「純愛」の奇跡を、大人になっても信じたいと思える物語です。

『ストーリー・セラー』有川浩(幻冬舎)

結婚しても「純愛」は貫き通せるものなのか?

誰もが夢見る究極の「純愛」のカタチではありますが、それは理想なのか、現実に起こりえることなのか、いつも考えてしまいます。

本作は、物語にさまざまな仕掛けを散りばめながら、恋愛、結婚、そして愛する人の死に直面するまでを通して、「純愛」とは何かを語りかけます。

「Side:A」「Side:B」という対となる2つの小説から成り立っており、Side:Aは妻が逝く物語、Side:Bは夫の余命があとわずか、という真逆のシチュエーションで構成されています。

冒頭はSide:Aの妻が、難病の告知を受けるシーンから始まります。病名は「致死性脳劣化症候群」。それは、脳を思考に使えば使うほど生命を維持する機能が落ちてしまい、死に至るという病でした。作家をしている妻にとって、その宣告はこの上なく残酷なものでした。

衝撃的なシーンから始まるSide:Aは、時が戻り、2人の出会いから結婚生活までを描きます。

2人は、同じデザイン事務所で働いていたことで出会います。ある時、彼は彼女がとてつもなく面白い小説の書き手であることを知ります。もともと読書好きだった彼は、雷に打たれたかのように、彼女に恋をします。私も読書が好きだからこそ、このシチュエーションはとてもドキドキしました。

2人はやがて夫婦になり、夫というたった1人の読者のためだけに小説を書き続けた妻は、遂に作家デビューを果たします。しかし、妻は作家としてさまざまな困難にぶつかりながら、実家のトラブルなど家庭内の問題が重なって心を病んだ末に、物語の冒頭にあった残酷な病の宣告を受けます。

結婚すると、独身時代の恋愛とは異なり、考え方や習慣の違いなど些細なことから、病気やお互いの実家のことに至るまで、一緒に生活するからこそ乗り越えなくてはいけないことも多くなります。

妻の仕事や病気、面倒ごとも、丸ごと愛し抜くひたむきな夫の愛と、絶筆する瞬間まで夫のために小説を書き続けた妻の愛。愛情表現の仕方は違っても、この夫婦の核には、最後まで「純愛」があります。結婚ってやっぱり尊いものだなぁ、と思わせてくれます。

続いてSide:Bは、2人の出会いから結婚に至るまでの関係性はSide:Aと同じですが、夫のすい臓に腫瘍が見つかり、妻が夫の余命がわずかだと知るという、2人の立場がSide:A とは逆の境遇になっています。

もし俺が死んだら、書いてくれよ。俺が死んだことを君がどう書くか知りたい。(P.261)

辛い現実を逆夢にしようと、妻は必死に小説を書きます。

伴侶としても、作家と読者としても、お互いがなくてはならないソウルメイトの2人。どちらかが先に死ぬことがあっても、これほどまでに愛されたら本望でしょう。

Side:AとSide:B 、2つの異なる結末の「純愛」に、ぜひ浸ってみてください。

『私という運命について』白石一文(KADOKAWA/角川文庫)

キャリア、恋愛と結婚、出産、愛する人の死など、女性には人生の分岐点が幾度となく訪れます。そのたびに、私たちは何かを選び、何かを捨てながら「運命」を切り開いてきたのではないでしょうか。

3冊目は、女性の運命ともいえる節目の10年を描き切った壮大な「純愛小説」をご紹介します。

大手メーカーで総合職として勤務していた冬木亜紀は、佐藤康という恋人がいました。2年の交際を経て、康は彼女にプロポーズをします。

「あなたのことは好きだったけど、でも、結婚するほど好きではなかった、と気づいたの」(P.19)

亜紀は康と結婚する人生を選ばず、別々の道を歩み、仕事に邁進していきます。

そして、2年後に康から結婚式の招待状が届いた時、亜紀は自分の選択が間違っていなかったかと、今さらながら自問自答します。

選んだ人生と、選ばなかった人生。あなたにも、自分で決めて歩んできた道なのに、ふとしたきっかけにグラグラと足元が揺らぐように思えた経験はありませんか?

前を向いて歩んでいたとしても、全く悔いのない人生なんてないのかもしれないと、読みながらふと思いました。

物語は、30代になった亜紀へと移ります。亜紀は、新しくできた恋人、純平との結婚が自然な運命だと受け入れようとしていました。

しかし、彼は飲酒運転による交通事故を起こし、2人は別れることになります。実は、純平が起こした事故の被害者は、亜紀が仲良くしていた受験生の少女の明日香だったのです。

事故後、明日香が亜紀に宛てて書いた手紙には、自分の人生に降りかかる「運命」について、どう向き合うべきなのかがしたためられていました。

冬姉ちゃん、人と人とのあいだには、きっと取返しのつかないことばかり起きるけれど、それを取り返そうとするのは無理なのだから、取り返そうなんてしない方がいいんだと私は思います。大切なのは、その悲しい出来事を乗り越えて、そんな出来事なんかよりもっともっと大きな運命みたいなものを受け入れることなんだと思います。(P.207)

自分の運命に迷う亜紀はもちろん、私たち読者にも刺さる明日香の言葉は、この物語における「運命」をさらに印象づけます。

また、別の人と結婚して幸せな生活を送っていたかと思われた康も、離婚を経験し、さらに癌に侵されていました。

一度は他人となった2人は、その後、過酷な運命に翻弄されながらも再び出会い、本物の「純愛」に辿りつきます。「純愛」は回り道をしてつかむこともあるのだということを、私はこの小説から教えられました。

あなたには別れてからも、ずっと忘れられない人はいますか?

この小説のように再び巡り合うことはなくても、思い出の中の「純愛」は決して色あせることはありません。この物語は、そうした自分の運命について考え、本当の「純愛」に気づかせてくれる作品です。

それぞれの「純愛」の形を教えてくれる物語

第1回では、恋に臆病になっている女性や、恋愛を超えた夫婦の愛、そして、1人の女性の運命を描いた作品を紹介しました。みなさんが少しでも読んでみたいと思った作品があれば幸いです。

次回のテーマは「失恋」。冬が近づき肌寒くなった今こそ読みたくなる作品をご紹介したいと思います。お楽しみに!

(きりん)

※この記事は2021年10月28日に公開されたものです

森本木林(きりん:読書研究家)

読書研究家、本スタグラマー。
4歳から読書を始めた、無類の本好き。
「私らしく生きていくための読書案内」をInstagramを中心に行っている。

本業は睡眠分野の講師活動の他、オンラインサロン運営、ライター、記事監修などを行っている。

Instagramアカウント:@morimoto_kirin

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