【File23】電気屋の店員への恋に暴走した話
今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回はイッヌさんのイタい恋。
私の恋愛はイタい。
誰でも今振り返ってみると「あの時の自分よくあんなことできたな……イタすぎるだろ……」なんて思うような恋愛をしたことがあるだろうが、私の恋愛はレベルが違う。レベチなのである。
ギャルの友達に私の恋愛を相談すると、大体「あんたサイコパスじゃん!」というありがたいお言葉を頂戴する(やかましいわ! 誰がサイコパスやねん!)。
今日はそんな私の数々のイタい恋愛経験の中から、味わい深いエピソードを1つ紹介したいと思う。心して聞いてほしい。
家電量販店の店員に取った奇行とは……
今から数年前、私のiPhoneの画面はバキバキに割れていた。それもちょっとやそっとではない。スクロールする指がズタズタに切り裂かれるほど割れていたのである。
購入時に万が一の時のために、数千円払っておけば保険で直してくれるというサービスもあったのだが、ハイパーケチである私は「は? そーやってオプションでちょっとずつお金をだまし取ろうって作戦だろ! だまされねーし! ってかそもそも落とさねーし! 落としたとしても私のに限って割れたりしねーし!」と加入しなかったため、購入の翌日に落としてソッコーで割れたiPhoneをずっと直せずに放置していたのである。
割れたままのiPhoneを4年使った私は、さすがに元はとっただろということで思い切って機種変して新調するために、家から一番近い某家電量販店に行くことにした。
機械音痴で、ズラリと並ぶiPhoneコーナーでどれがいいのかサッパリ分からず途方に暮れていると、一人の店員さんが話しかけてきた。
「何かお探しですか?」と声のする方に目をやると、なんとまあその店員、好みドンピシャの顔面をしてらっしゃるではないか!
電気屋の店員さんといえば全員オタクみたいな人しかいないと思っていたのは大誤算だった。
寝巻きに毛が生えたような服にサンダルという、ダル着姿で来ていたことを一瞬で後悔した私はここで奇行に出る。
「すみません。一旦抜けます」とリモート会議中に退出する奴ばりの「一旦抜けます」を言い放ち、着替えに帰ったのである。
着替えて戻った後、店員さんの反応は?
この時点でだいぶイタいっていうかヤバい行動だが、ここから私の行動はエスカレートしていく。
一張羅に着替えて再度電気屋に向かう私。明らかに「何でコイツ着替えてんだ?」と言わんばかりの顔をしている店員さんにひるむことなく、「お待たせしました!」と謎の発言をした(誰も待っていないだろ)。
サンドウィッチマンの富澤さんよりも「ちょっと何言っているか分からない」状態の私であるが、なんとその店員さんはむちゃくちゃ優しく対応してくれた。
「お洋服すてきですね!」の会話から始まり、話を一から聞いてくれて、動画はどれくらい見るのか? 写真はどれくらい重要視しているのか? など、手とり足とり教えてくれたのである。
なんて優しいんだ! 何この空間? 行きすぎない接客の優しさが心地良い。例えるなら白湯。人は優しくされるとすぐに好きになると相場が決まっているが、私はこの時点でちょっと好きになっていた。
しかし、この反応を見た店員さんがここでたたみかけてくる。
「外で動画を見られるようでしたら、お客さまの使用スタイル的にこちらのポケットWi-Fiもあった方がいいですがいかがですか?」
あっぶねー! だまされるとこだった! こいつ色仕かけでWi-Fi買わせよーとしてんじゃん! 外で動画なんて見ねーよ! いいかよく聞け私! 別料金払うくらいならコンビ二の微弱な電波拾って見ればいい! 必要ない必要ない! さらっと断るんだぞ! 分かってる! 分かってるよ! さすがに私だってそこまで馬鹿じゃない! OK! 大丈夫! 断る! 私はだまされたりしない!
「じゃあ、それもください!」
買った。
買ったよね。呆れるほどに。
いや、ちげーんだって! 「お洋服すてきですね」が思いの他効いちゃったんだって! 心は「NO!」って言ったんだけど口が「YES!」って言っちゃったんだって!
まあまあそんな焦んなよ! すぐ解約すっから!
結局、本体代が実質2万円引きになるという怪しいオプションまでフルでつけて帰宅したのだが、夜になるとさっきの店員さんのことを思い出して頭がいっぱいになってしまうのだった。
また会いたいな。
新しいスマホを買った後も奇行は続く……
それからというもの、毎日その店員さんのことを考えるようになっていた。
夢に出てくるという禁断症状にまでみまわれて、いてもたってもいられなくなった私は、気がつくと翌週の休みに再び電気屋を訪れていた。
「この間はどうも! 今日はどうされたんですか?」私に気がついた顔面どタイプの店員さんが駆け寄ってきた。
覚えてる! 覚えてんじゃん! 私のこと! 普通覚えてないよ! だって毎日100人くらいは接客するじゃん! これって向こうも私のこと気になってんじゃん! そーゆーことじゃん! めでたい私はそのように思った。
「あ、覚えててくれたんですね……Apple Watch買おうかなーって思ってて……」
時計なんてiPhoneの画面でいいじゃねーか! と思っている派だったが、店員さんと話したくてついつい口から出まかせを言っていた。
たくさん話をして気分が良くなった私は、ご丁寧に別売りのリストバンドまで購入して帰宅したのだった。ここまでくるともう病気である。
一歩前進したと勘違いした私の行動はさらにエスカレートしていく。
またあの店員さんに会いたいがためにその翌週にまた電気屋を訪れ、今度はiPadとApple Pencilを購入したのだ。
さすがにお金のことが気になり始めていた私は頭を使った。
待てよ、今日はiPadとApple Pencilのどちらか1つにしておけば、次回もう一度会いに来る理由になるぞ! よし! ひとまずiPadだけにして次回の来店で連絡先を聞こう!
と、ここでミラクルが起きる! なんとその店員さんが「いつもありがとうございます!何か困ったことがあったら言ってくださいね!」と言って名刺を渡してきたのである!
帰宅した私は大興奮! 名刺渡してきたよ! もうこれって実質OKってことじゃん! うれしさのあまり渡された名刺を食べそうになった。というか食った。
名刺をゲット! ついに迎える最終決戦
迎える最終決戦の日!
今日、勝負を決める! 意気込んで電気屋へと向かう私!
毎週毎週電気屋に来る私は、もはやザキヤマよりも「来る〜」状態。iPhone・Apple Watch・iPadと立て続けに購入しApple社製品で身を固めた私は、店員さんたちの間ですっかり有名になり「スティーブ!」と呼ばれるまでになっていた。
おいおいちょっと待て! せめて「ジョブス」だろ! ルイ・ヴィトンだったら「ルイ」って呼ばれてるよーなもんだろ! 花沢じゃないんだから! ヴィトンだろ!
もう自分でも何を言ってるのか分からないが、まあそんなことはどうでもいい。目的は別のところにあるからな。
お店をウロウロしていると、今日は別の店員が駆け寄ってきたので、いやいやお前ではない……私は「チェンジで!」という旨を伝えた。
「ちょっと聞きたいことがあるので、この間の店員さんいらっしゃいますか?」と聞くと、まさかの返答に耳を疑った。
なんとあの店員さん、昨日づけで退職したと言うのだ。
え? 嘘だろ? だって名刺くれたよ? 何でも聞いてって言ってたよ?
舞い上がって確認していなかったが、急いで名刺を見ると、そこに書いてあった電話番号は「03」から始まる店の固定電話の番号だった……。
え? じゃあ、これまで数十万円使ってきたのどうなんの? クーリングオフきく? いろんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
イタい私はここでようやく気づくのである。そうか、私はただの客だったのか、客だから優しく接してくれていたのか……ただの太客だったんだな……太いのは腹回りだけにしたかった……。
こうして私の恋はあっけなく散ったのだった。
イタい恋から得た教訓「どんなにイタくても恋することはやめるな」
皆さんいかがでしたか?
皆さんにも似たような経験がございますよね? ってゆーかあるよな?
あれよ!
まとめといってはなんですが、読者の皆さんの中には失恋の苦しみから立ち直れず次に進めないでいる方もいらっしゃるかもしれません。そんな方に私から一言言わせてください!
「恋することをやめないでください! 諦めないでください!」
もちろん失恋した時はつらいです。私もあまりのショックにしばらくご飯しか喉を通らなかったし、夜しか寝られませんでした。つらい思いもしたし、カードの請求にも苦しみました。
だけど、だけどね、恋をしている間はすごくドキドキできたし、とっても楽しかった。間違いなくあの時私は輝いていたんです! 散々お金を使って、勘違いして、浮かれて、結果は告白する前にフラれるという残念なものだったけど、ダサくてカッコ悪くて一生懸命な自分ってとっても愛らしいじゃないですか! すてきじゃないですか!
私は持ち前のIQの低さで何度も同じような失敗をしましたが、決して諦めず、その度に立ち直りそのおかげですてきな恋を何度もしました!
どんなにイタい恋をしても、恋することをやめなければ最後には必ずハッピーエンドが待ってます! 必ずです! 皆さんにもとってもすてきな恋が訪れますように、心から祈っております!
P.S.
最後にギャルの友達が私を元気づけようとして言い放った言葉を残しておきます。
「いやー、ドンマイドンマイ! たくさん金使ったけど“縁”がなかったんだよ! “円”だけに!」
やかましいわ! おしまい。
(文・イッヌ、イラスト・菜々子)
※この記事は2021年10月24日に公開されたものです