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「天才」の特徴と正体。天才になる方法とは

尾池哲郎(工学博士)

天才が見ている風景

天才に会ったといっても、私から見て天才に見えただけで、本人は自分を天才とは思っていないでしょう。しかし大学で出会った時、私はたしかに彼を天才だと感じました。

それは大学3年生の時、物理化学Ⅲという講義を受けていた時期です。まさにファインマンが登場する量子力学の授業でした。

出てくる波動関数が、私にはどうにも理解できない。そこでその友人に説明を求めました。するとすらすらと説明してくれるので、彼が理解しているということは理解できましたが、ある瞬間についていけなくなり、やはり私は理解できませんでした。

私は理解することをあきらめて、話を変えました。

「理解するための何かもっと根本的なコツでもあるのか?」

すると彼は意外なことを教えてくれました。

「2つしかない。簡単な例に置き換えるか、図や絵にするか。幼稚園の時からこの2つしかしてない」

彼から聞いた具体的な話はこうでした。すこし数字が並びますが、簡単な計算です。

たとえば「時速100kmで7分走ると何km進むか?」という問題があるとします。

普通の計算では、60分で100km進むわけなので、まず100を60で割り、1分当たりに進む距離を出して、それに7を掛けると答えがでます。しかし電卓が必要です。

ところが彼は頭の中ですぐに簡単な例に置き換えます。

この問題が分かりにくいのは時速100kmの部分ですので「時速60km」を使います。時速60kmなら1分に1kmですから、7分なら7km進むとすぐに分かります。

時速100kmは時速60kmのだいたい2倍の速さだから7kmの倍なら14km。

しかし実際の2倍である時速120kmよりも少しだけ遅いから「12kmくらいかな?」とつぶやきます。彼によるとここまで3秒かかりません。

実際に電卓を叩くと11.6で約12kmです。電卓の答えを見た周りの人は驚きます。

たとえここで13kmと答えたとしても、やはり周りはすごいと感じるし、本人も「ちょっと外したか」と思うだけで、次のために頭を微調整するでしょう。彼の能力はさらに向上します。

彼によると、どんな問題にどんな種類の例が当てはまりやすいかの判断は、スポーツに近く、長年の練習で積み上げてきた無数の「簡単な例」の中から直感的に拾い上げるイメージだそうです。

幼児期からずっと毎日、それを繰り返してきたというのです。勉強にかぎらず、日常生活でも。毎分毎秒全てがこのような「イメージ先行型」で、簡単な例に置き換えるスキルはめきめき上達します。

天才の幼児期を辿ると、そうした独特なイメージ先行の風景が見えてきます。彼らの世界に漂っているのは数式や文章よりも、もっと抽象的に漂う数字や音の風景なのではないでしょうか。

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