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「自制心」は今からでも鍛えられるの? 大人のセルフコントロール術

平松隆円(化粧心理学者)

感情や欲望などをうまく抑えたり、コントロールする精神力、“自制心”。この自制心というのは、持って生まれた性格なのでしょうか。あるいは、しつけや教育の中で育まれるものでしょうか。ダイエット中に食べ放題に行く、誘惑されたらホイホイ浮気……そんな自制心の弱い人が、今から自制心を鍛えることはできるのでしょうか。化粧心理学者の平松隆円さんに教えていただきます。

「明日は大事な会議だから、すぐに帰るよ」と言って参加した飲み会は、気づいたら終電。「夏までにダイエット!」と決意した矢先に、ケーキ食べ放題の誘いに乗ってしまう。タバコやめる宣言の直後にプカプカ……。そんな人は、めずらしくありません。そういう人のことを、「自制心がない」といったりします。

ですが、自制心とはそもそもなんなのでしょうか。また、一体どうやったら身につくのでしょうか。

「自制心」ってどんなもの?

自制心
そもそも、この自制心(self-control)とは一体なんなのでしょうか。

自制とは、「自分の感情や欲望を抑えること」(『デジタル大辞泉』小学館)。“自分がこうと決めたら、それをやり遂げられる”という、「意志の強さ」の意味で使っているかもしれませんね。

「夏までにやせる」と決めたら間食しないとか、タバコをやめると決めたら決して吸わないというのは、“それをしたい”という誘惑に勝つ、意志の強さが重要です。

ちなみに、自制心のことを、専門的には自己調整機能(self-regulation)といったりします。

“マシュマロ・テスト”。誘惑をがまんできた子どもは……

自制心
ところで、今から50年以上も前に、「マシュマロ・テスト」とよばれる実験が、心理学者のウォルター・ミシェル(Walter Mischel)によっておこなわれました。

この実験では、子どもの目の前に1つのお菓子(マシュマロ)を置き、少しのあいだガマンすれば2つのお菓子がもらえる、という状況を設定します。子どもが誘惑(=お菓子が1つ)をガマンし、将来の大きな報酬(=お菓子が2つ)を待つことができるかを観察するというもので、実験に参加した子どもが大人になってから、追跡調査もおこなわれました。

すると、誘惑をガマンできた子ども、つまり自制心がある子どもほど学力も高く、社会的に成功する、と発表されたのです(ただし最近になって、別の研究者が追試をおこなったところ、“この実験の結果は限定的である”という発表もなされました)。

たしかに、自制心のある・なしで将来的な学力や社会的な成功に差がでるというのは、言いすぎのような気もしますが、でもまあ、「夏までにダイエット!」という身近な例で考えれば、自制心のある人のほうがダイエットに成功しそうではありますよね。

「自制心」はしつけのたまもの? 持って生まれた性格?

自制心は、行動や思考を制御する能力(=実行機能)の存在が前提となってきます。

実行機能というのは、自分の欲求をがまんしたり、考え方を切り替えたりするなど、私たちの自制心の前提となる能力です。

自制心は脳の機能と関係する

自制心
この実行機能は、育ってきた家庭の経済状態や、幼少期の育て方(=しつけ)も影響するのですが、脳の発達や“遺伝的な要因”が大きく影響していることも、近年の研究でわかっています。

つまり、自制心のある・なしは、感情や欲望を抑えるように子どもの頃にしつけられたかどうかで変わるものではなく、生まれつき自制が得意な人とそうではない人がいる、ということになります。

また脳の発達とも関係しているので、自制心がある人でも、脳がストレスを感じると、自制心に影響を与えることも知られています。

ストレスは、感情や衝動を抑制している前頭前野の働きを弱め、視床下部などの脳領域の働きが強くなった状態になります。そんな状態になると、不安を感じやすくなったり、いつもは抑え込んでいる欲望にまかせた行動、たとえば暴飲暴食、浪費、場合によっては犯罪に関係するような行動への誘惑に負けたりしてしまうんです。まさに、自制心がない状態ですね。

自制心は鍛えられないの?

自制心
自制心が脳の機能と関係しているのだとしたら、自制心を鍛えることはできないのでしょうか。

自制心(自己調整機能・実行機能)に関する研究は、ほとんどが乳幼児や児童を対象におこなわれたもので、成人を対象にしたものは見つけられませんでした。そのため、自制心を鍛えられるかどうか、鍛えるにはどうしたらいいかを、エビデンスを持って説明することはできません。

とはいえ、幼少期の育ってきた家庭の育て方(=しつけ)も大きく影響するという前提に立てば、大人をしつけることはなかなか難しいのですが、ガマンする(=自制する)努力を積み重ねていくことで、ガマン強くなる、誘惑に負けにくくなるということはあると思います。

ストレス解消が“自制”の近道かも!?

自制心
先ほどお話したように、ストレスが前頭前野の働きを弱くさせ、自制心がない状態にさせるということで考えれば、自制心をはたらかせるためには、できるだけストレスを感じない生活を心がけることも大事でしょう。もしもストレスを感じたときには、できるだけ早く解消するのがいいでしょうね。

自制心が遺伝やストレスも関係するというと、「私がダイエットに成功しないのは、遺伝やストレスのせいなんじゃん」と開き直る人があらわれそうですね。そう思った人は、すでにストレスのせいで自制心を失っている、意志の弱い状態かもしれません。まずはさっそく、ストレス解消からはじめてみましょう。

(平松隆円)

※画像はイメージです

※この記事は2019年07月10日に公開されたものです

平松隆円(化粧心理学者) (化粧心理学者)

1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、タイ国立チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。日本やタイを拠点に、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。

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