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プレッシャーなんて、どうでもいい。水川あさみ34歳のラフ思考 

あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部が「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載【Lifeview(ライフビュー)】。

私にとって、働き続けることは武装だ。年齢を重ねるごとに責任やプレッシャーがどんどん乗っかって、何をするにも身軽ではなくなる。だから、いつしか年を取ることが億劫になった。何十年も働いているわけじゃないのに「こんなんで私、大丈夫?」ってときどき不安にもなる。

適当に働いて、適当に遊んで。本心をぶっちゃければ、仕事のレベルなんて一生上がらなくていい。だって、どうせ大変になるだけでしょ? そんな風に斜に構えてしまう自分がいた。水川あさみというひとりの女性に出会う前までは。

きっかけは「テレビの中のあの子になりたい」

「小さいころ、『家なき子』がとにかく流行っていたんです。放送の翌日に学校へ行くと、みんなその話で盛り上がってた。私も同じようにドラマを観て、『画面の中で怒ったり泣いたり、笑ったりしているあの子になりたい』と口にしたのがはじまりでした。でも、それを女優だとかお芝居だとかって概念では捉えていなかったんです。なんのことかさっぱり、という感じ」

それは、水川さんが小学生のころに受けた衝撃。同世代の女の子がテレビの中で喜怒哀楽を表現する姿に、彼女はわけもわからず夢中になったと言う。それから13歳でデビューするまでの気持ちを聞けば、「何もわかってなかったかな」と無邪気に微笑んだ。

「学校が終わって、オーディションを受けて、次の日また学校に向かって。それの繰り返し。部活みたいな感覚ですね。オーディションにはたくさん落ちたけど、当時は悔しいって感情がいまいちわからなかった。なかなか作品に出られない時期も含めて、楽しかった記憶だけがあるんです」

失うものもなければ、守るものもない。まだ何も手にしていない瞬間のほうが、よっぽど人間は強くいられるのかもしれない。自分の好きなように考えて、行動して。わからないからこその強気が、彼女のなかに「楽しい」という感情だけを残したのだろうか。

20年のキャリアとはじめての挑戦。そして不安

今年で35歳。大人の女性になった彼女は、とある挑戦に出会った。それは、性の快楽に溺れるひとりの女性を描いたドラマ『ダブル・ファンタジー』。原作は、あの村山由佳さんだ。その中で、同年齢の主人公・高遠奈津という大胆かつセンセーショナルな難役を演じる。水川さん自身「彼女を演じることはチャレンジだった」とポツリ。

「もちろん、今までも性の描写がある役を演じることはありました。それは作品や役において、必要があれば当たり前のこと。でも、『ダブル・ファンタジー』は性描写があるからこそ成り立つ作品という意味でほかとはちがう。ここまで女性の本能や欲をむきだしに描いた作品は出会ったことがないんです。だから、女優人生におけるはじめてのチャレンジだった」

その挑戦は、彼女の中にひとつの不安を生んだ。

「奈津というひとりの女性が『私はまちがいなく淫乱です』と劇中でこぼすんです。そして、彼女はその欲を満たすためにどうすればいいのか思い悩む。そんな難しい一面を自分が演じきれるのかって考えると、ものすごく不安な気持ちになりました」

自分に演じられるのか。それは、約20年のキャリアで多くのものを掴んできた彼女だからこそ抱く不安なのだと私は思う。キャリアを積めば積むほど押しつぶされそうになるこの感情は、誰の中にだってきっとある。

「どうでもいいや」って思えるようになった

「年齢を重ねるごとに、『水川あさみ』という存在をたくさんの人に知ってもらえるようになりました。いただける役の重要度も上がって、それに伴う責任が増していったのも事実ですね」

生きているだけで、私たちはたくさんのものを背負っていく。期待も評価も責任も。きっとそれが働く醍醐味で、誇らしいことのはずなのに。一方で、「望んでないのに」と弱気な言葉を吐き出しそうな自分がいる。そして、それをぐっと我慢しながら今日も働く。

「20代後半のころかな。私が演じる作品を『おもしろいと思ってもらえなかったらどうしよう』と悩む時期がありました。期待に応えられないプレッシャーから、押しつぶされそうになったことも。いろいろな役に挑戦させてもらって、目の前にあるものをとにかくお芝居して。楽しいはずなのに、そう感じられない自分がいた」

水川さんがこぼした本音は、今の私がぶつかっている壁そのものだ。働き続けるうちに「知らない」「わからない」では済まされなくなっていく。そのたび、楽しいって感情だけではやっていけないのだと思い知らされる。女優としてキャリアを積み、何万歩も先を行く彼女はどう乗り越えてきたのか。その考え方は、想像よりもラフなものだった。

「でも、いつしかそれを『どうでもいいや』って思えるようになりましたね。だって期待に応えられるか、応えられないかはやってみないとわからない。やる前から悩んでも仕方ないし、やってダメだったら次がんばればいいだけ」

向けられたのは、彼女らしい余裕と意志が織り交ざったまっすぐな視線だった。

「この瞬間、ちゃんと自分の足で立って、楽しんで生きている。大事なのはそんな実感が得られるかどうかだと思うから」

何もわからなかった10代。プレッシャーに押しつぶされそうになった20代。自分らしく生きられるようになった30代。女性が年齢を重ねていく過程は、どこまでも強くて美しい。それは、水川さんの生き方が教えてくれたこと。

プレッシャーも不安も。それがまったくのゼロだなんて人間はきっといない。迫ってくるすべてと正面から戦おうとして、私はがちがちの鎧を着ようとしていた。だけど、戦うだけじゃなくてそれをうまくかわしていくのも術。ああ、彼女みたいに余裕のある女性になれたら。

そういえば、不安でいっぱいだったという今回の難役とはどう向き合ったのか。尋ねると、なんともシンプルな答えが返ってきた。

「だって、やると決めたらやるしかないから」

彼女のようにすべてをどうでもいい、って跳ね返せるほどの強さも経験もまだないけれど。あこがれの女優さんに話を聞いて、なんとなく大人になった気分の帰り道。私の中の不安が、ひとつ形を変えた気がした。

難しく考えることはない。そう、「こんなんで私、大丈夫」だって。

『連続ドラマW ダブル・ファンタジー』全5話

放送日程:6月16日から毎週土曜夜10時

監督:御法川修
原作:村山由佳『ダブル・ファンタジー』(文春文庫 刊)
脚本:阿相クミコ/御法川修
製作著作:WOWOW
出演:水川あさみ 田中 圭 眞島秀和 栁 俊太郎 篠原ゆき子/多岐川裕美/村上弘明

(取材・文:井田愛莉寿/マイナビウーマン編集部、撮影:masaco)

※この記事は2018年06月15日に公開されたものです

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