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【少女マンガに学ぶ不倫】第10回『愛人たち』

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子が不倫を扱った少女(女性向け)マンガを毎週1冊ピックアップ! そこに描かれた男女の姿から、不倫の哀しさ恐ろしさを学んでいく連載です。美しく描かれることも多いけど、不倫はダメ、絶対!

こんにちは、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子です。
去年のことですが、「元カレ元カノフリマ」というイベントに行ってきました。
元カレ元カノにまつわる物品って残ってたりしますよね。そういうものをきれいさっぱり売り飛ばしちゃおうというイベントでした。出品されていたのは、プレゼントでもらったCDやマスコットのほか、婚約指輪、日本酒、楽器や美顔器とさまざま。中には「彼女にささげたマイソング」みたいなオリジナル曲までありました。

元カレ元カノにまつわる物品には、それぞれに事情があって、怒濤のように恋愛ドラマの数々を目の当たりにする時間でした。
さてみなさんは、元カレ元カノとの思い出の品、どうしてますか?

私はけっこうバッサリで、別れようと決めたらまず連絡先を消します。別れた直後は寂しくなって連絡してしまい、そこからズルズルと引きずってしまいそうだからです。連絡先がわからなければ、前を向くしかないですから。思い出の品っぽいものも全部捨てます。そうして今、振り返ってみると、大半の彼氏は名前が思い出せません。

今はSNSがあるので、いやでも別れた後に情報が入ってきそうですよね。
怖いなあ。

今週の教科書『愛人たち』

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女の重苦しい人生を描かせたら天下一品、大河ドラマ的少女マンガ家と言えば里中満智子先生ですよね(あと津雲むつみ先生)。
『愛人たち』も、ウンザリするほど重苦しい話です。

五月(と書いてメイと読む)は、女性誌の編集者。そこで担当になった作家の三枝を「いいな~」と思っていたのですが、過去に三枝の不倫で苦しんだ三枝の妻から猛烈なヤキモチを焼かれます。あれこれ妻の行動に疑問を持ち五月は「こんな奥さんじゃ三枝さんが可愛そうだわ!」と正義の気持ちに火がつきます。三枝は三枝で「結婚しよう」だの甘い言葉をたらふく吐き、五月はまんまと彼の誘いに乗って不倫をはじめます。

五月は三枝の借りたマンションに住み、愛人生活をはじめます。そのマンションは、議員の妻と不倫する青年、自分を捨てた恋人と不倫をしているイラストレーターが住んでいるという、「ザ・不倫ハウス」でした。五月は彼らと意気投合し、それぞれの不倫のカタチを目の当たりにしていくことになります。

もう最後の最後まで重たくて苦しい話なのですが、その理由は「ザ・不倫ハウス」の住人たちの自問自答です。自分が不倫を続けている理由、相手を許してしまう心理が延々と描かれます。これが真理を突いていてとても考えさせられます。

不倫を含め恋愛に悩んでいる人は、『愛人たち』を読んでみると、いろいろ発見があることでしょう。

五月に学ぶ「不倫で幸せになれない理由」

三枝の愛人になって五月が幸せだったのは、最初の一瞬だけ。
携帯電話や留守電のない時代なので、自宅にいないと連絡がつきません。いつやってくるかわからない三枝を待つだけの日々になっていきます。「今日は来なかったから明日は来るはず」と料理を作って待っていても、自宅から「原稿が終わらないので待っていただけますか」などと編集者宛てにかけたように装った偽装電話がかかってきて来なかったり。

三枝は、五月に対して来る来る言って来ない「来る来る詐欺」の上に、「離婚するする詐欺」「結婚するする詐欺」を連発します。一方五月は、三枝に言いたいことは山ほどあるのに、「こんなことを言ったら嫌われてしまう」と思い、言えません。「自分は三枝の癒やしにならなければいけない」と思うからです。

そして五月は妊娠。三枝に「堕ろしてくれ」と言われます。しかし同時期に妻も妊娠、その幸せそうな姿に、五月の怒りは爆発します。「なんで私だけがこらえてなくちゃいけないのよ」「なんで私だけが堕ろさなきゃいけないのよ! 奥さんにも『堕ろせ』っていいなさいよ」

もう、どう考えても幸せな恋じゃないです。
どうして五月は三枝と別れないのでしょう。まあそもそも不倫が始まらなければ単行本1巻にもならない短編にしかならないし、子どもを堕ろしたところで別れを決めていたら2巻で終了です。5巻分、たっぷり五月は悩み抜いて、とある境地にたどり着きます。

ラストは少女漫画王道の展開ですが、実際にたどり着ける人は少数かもしれないですね。作品からは、里中先生からのメッセージがビンビン伝わってきます。さまざまな不倫の形を通して、どんな状況でも、不倫には自分の甘さや弱さがあることを伝えてくれます
私たちは5巻分も不倫を続けていてはいけません。さっさと結論を出してしまうべきですよ。

まとめ

過去に不倫の経験がある人は、信用ならんと思っておいたほうがよさそうです。
子どもを堕ろせとかいう輩はクソ野郎だからすぐさまやめておきましょう
そして、「一緒にいて安らげない相手とは付き合わない」これに限ります。

自分の思っていることを素直に言えない相手とつき合っていたって楽しくないでしょう。パートナーは「気が楽」な相手が一番じゃないですか。

ところで、この作品は第三者視点では描かれません。シーンごとに主観が変わり、心の中のセリフが順番に描かれていきます。なのに三枝と五月の不倫が始まったところで、いきなり「そう決意して愛に飛び込んだ五月だったが……予想もつかない愛の展開が、五月の人生を大きく変えていくのだったーーーーさまざまな不倫の愛の行方がどうなるのか?」とナレーションが入ります。全5巻を通してどこの誰が話しているのかわからんナレーションはここだけ。「さまざまな不倫の行方」を描きたい里中先生の脳みそがダダ漏れたってことでいいんですかね。ちょっと謎の一コマです。

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(文・イラスト 和久井香菜子)

★次回の『少女マンガに学ぶ不倫の実態』は12月17日(土)掲載予定です、お楽しみに!

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※この記事は2016年12月10日に公開されたものです

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室 室長(http://kanako-wakui.net/index/)、編集・ライター。卒業論文で『少女マンガの女性像』と題して、女性の社会進出と少女マンガの主人公の描かれ方がどうリンクしているかを研究。以後、各種少女マンガレビューの執筆を始める。著書に『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)がある。

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