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ジェーン・スー「自分が身につけている甲冑を、きちんと精査していくことが大事」

ジェーン・スー

働く女性は、毎日が「戦い」のようなもの。生き抜くために、さまざまな武装をして、日常生活を過ごしている人も少なくないのでは? でも、自分をより強固なものとするために纏っているものが、ときに重く感じてしまうこともあるようで……。そこで今回は、働く女性の気持ちをザワつかせるものを「甲冑」とたとえたエッセイ『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋刊)を刊行したジェーン・スーさんに、世の女性が身につけている「甲冑」にまつわることや、都会で働く女性が抱えがちな問題について、お話を伺いました。

■ありとあらゆる「甲冑」をつけることで、自分を引き上げる

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』でキーワードとなる「甲冑」。これは、現代で一生懸命働く女性なら、誰しもがひとつやふたつ持っているものだとジェーンさんは言います。そもそも、この甲冑とは、どんな意味合いがあるのでしょうか。

「甲冑は、理想の自分と今の自分の間を埋めるためのものです。たとえば私なら『自称、都会で働く大人の女(43歳にしては若々しい)』という風に見られたいのですが(笑)、起き抜けボサボサ頭の状態では身も心も理想からは程遠い。そこに視覚的、精神的な甲冑を付けてシャキっとするわけです。若い女性なら大人っぽく見せたいからと赤い口紅を引いてみたり、舐められないように黒いジャケットを羽織ったり。そうやって現実と理想の隙間を甲冑で防御する。

でも、はたから見てそれが似合っているかと言えば、そうでもない時もあるんですよね。ふとした瞬間それに気付いて自分にゲンナリしちゃう。たとえば前髪のスタイルとか。甲冑は女性たちの心を守ると同時に、ザワつかせるものです」

ジェーンさんは本来なら自分を守り、かつ引き上げるための甲冑だったはずなのに、いつのまにか甲冑の存在自体が女性を悩ませる要素となってしまっているとも語ります。

「ファッションやメイクなど見た目にまつわるものだけでなく、『こう思われたい』などの自意識にまつわる甲冑もあります。たとえば『頭がとく見られたい』とか『ナチュラル志向のライフスタイルだと思われたい』とか。どちらも自分にとって無理のない範囲であればいいのですが、どうなりたいかとどう見られたいかのイメージがブレるたびに、心のクローゼットがいろんな種類の甲冑でパンパンになってしまうんですよ。ファッションだけの話ではありません。」

だからこそ、自分が今どんな「甲冑」を装備しているのかをきちんと精査していくことが大事なんだとか。

「女の甲冑は、つけるのも自由だし、外すのも自由。似合うかどうか、しっくりくるかをこの目でたしかめるためにも、『この甲冑は私には似合わない』みたいな思い込みは捨て、なんでもトライしてみるのが一番です。試してみたら意外としっくりくることもあるし、自分にはこれしかないと思っていたものが、実は一番イケたなかった、なんてこともあるはず。そのためには自分が甲冑をつけているということに『自覚的』になっていることが大事。自覚しないままでいると、甲冑の上に甲冑を重ねるような的外れなことをしてしまうから」

■女の20代は「楽しそう」30代は「幸せそう」40代は「疲れてなさそう」に見えるかが大事!?

ジェーンさんは、年代によって、身につける甲冑のポイントがちがうとも言います。

「自分を振り返ると、20代は同年代の人よりも人生を『楽しんでいる』ように見せるための甲冑を身につけていることが多かったですね。私が今20代だったら、盛った内容をSNSにアップして、いかに毎日が充実しているのかをアピールするのに一生懸命だったと思います。20代後半~30代になってくると、周囲に『幸せそう』に見えているかを何よりも気にしていたかなぁ」

ただ、世間一般で言われる『幸せ』の形が、結婚しているかとか子どもがいるかとか、いまだに旧型で時代に即していないこともあって、これが『幸せ』だと思われるような甲冑を身につけるのは意外と大変だとジェーンさんは話します。

「たとえば、自分ではまだ結婚のヴィジョンがないのにもかかわらず、年配者から『いい人いないの?』のようなことを言われたとき。それに対して、『私、あんまり結婚に興味がないんですよね』と正直に言えばいいものの、それを言っちゃうと”結婚したいと思えない可哀想な女”に見られてしまう。だから、『出会いがないんですよ~』と答えてしまったり。そんな『幸せ甲冑』は、意外と本人にとって負担になることもあります」

そして、40代になると「疲れてなさそう」かどうかが大事なのだそう。「40代になると、無理したら本当に体に支障が出てくる。自分の体を守るための甲冑が必要になってきます(笑)」とジェーンさん。

また、40代になるとこれまでの「幸せ競争」がひと段落つくこともあり、周囲から「落ちついているね」と思われることが大切になってくることも。ただ、年齢を重ねても「子どもっぽさ」を持つ人がいてもよいのに、世間から「落ちつき」を求められてくることもあってか、落ちついているように見える「重し甲冑」を身につける人も意外と多いのだそう。

「流行モノに興味がない素振りを見せたり、世の中のことをわかっているようなことを言ってみたり。立ち位置で言えば、自分よりも若い女性がガヤガヤ騒いでいる様子を、2階のバルコニーからながめているようなマインド。私もまだまだ一緒に騒ぎたい気持ちがあるのに、年齢を考えて『重し甲冑』を身につけてしまうことがあります」

■働く女の「大丈夫です」甲冑とは

年代ごとに、身につける甲冑のタイプがちがうことがわかりました。では、世代問わずに働いている女性であれば「身につけている」甲冑はどんなものがあると思いますか?

「『大丈夫です甲冑』は、仕事をある程度がんばりたいと思っている人なら身につけているのでは? 社会で一生懸命活躍していきたいと思っている女性は、つい弱音が吐けなくなってしまいがちですが、何でもがんばりすぎると当然肉体的にも精神的にもすり減っていくわけで。まわりの人が大変そうだと思って声をかけても『大丈夫です』の一点張り。尋ねられた時点で、周囲の人はその甲冑に気づいてしまっているんですよね。本人は無自覚だけど」

ジェーンさんによれば、「大丈夫です甲冑」は、ときどき外すようにするのがオススメなんだとか。

「自分が『無理かも』と思ったときは『無理!』と言っても問題ないと思います。自分は傷つかないと思いがちな人が多いけど、本当は想像以上に傷ついているはずです。理想の自分と今の自分を埋めるために『大丈夫です甲冑』を身につけると思いますが、今の自分を守るためにも、ときには外すようにしてみてください」

■働く女性へメッセージ

「男性でなく女性も、ぼんやりと『定年まで働き続けること』について心にとどめておかなければならない時代になってきました。だからこそ、自分のプライオリティがどこにあるのかを考えてみてもいいんじゃないかな。自分の思考のクセや、『私はどんな甲冑を身につけているんだろう』と考えるきっかけとして、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』を読んでいただければと思います」

ジェーン・スーさん、ありがとうございました!

●『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』発売中
著者:ジェーン・スー
出版社:文藝春秋
定価:1,300円(税抜)

(マイナビウーマン編集部)

※この記事は2016年10月31日に公開されたものです

ジェーン・スー

東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、ラジオ番組、テレビ番組など幅広く活動中。TBSラジオ「週末お悩み解消系ラジオ ジェーン・スー 相談は踊る」が現在毎週土曜、生放送中。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社刊)、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎刊)、ラジオ『相談は踊る』の書籍版『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社刊)。

『ジェーン・スー 相談は踊る』
http://www.tbsradio.jp/sd/

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