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じわじわ話題の「婚前契約」。方法や手続きを専門家に聞いてきた!

近年、メディアで見聞きする機会が増えた「婚前契約書」。女優の遠野なぎこさんや歌手のSILVAさんなどが作成したことも話題を集めました。とはいえ、4組に1組のカップルが作成するといわれる欧米と比べると、日本ではまだまだ認知度の低い婚前契約書。どのような内容が盛り込まれ、それくらい効力を持つものなのか、どうすれば作成できるのかなど、婚前契約書の基礎知識について、一般社団法人 プリナップ協会 理事で行政書士の多田ゆり子さんに教えていただきました。

婚前契約書はハッピーな結婚生活を目指して作るもの

そもそも婚前契約書とは、「人生を添い遂げる二人が、幸せな結婚生活を送るために決意表明し、形に残すためのもの。法的効力のある公正証書として作成します」(多田さん、以下同)。契約書に盛り込む内容や分量に決まりはないものの、何もかも入れておけば安心、というわけでもないそう。

「入れたい内容を伺った上で、実際に記載する項目は厳選しています。軽い約束から重たい約束まで同列に並べると、大事な項目の効力が薄れてしまいます。基本的には『絶対入れたい!』といった強い思いのある項目に絞っていただくようにしていますね」。

一般的には、夫婦生活/仕事/子ども/育児/住環境/お金/親/万一の場合/契約不履行などの項目を盛り込みますが、大半のカップルが入れるのは「財産」や「慰謝料」など、お金に関する項目。その前提がベースにありながら、男性と女性とでは顕著な差もあるのだとか。

女性は不倫抑止、男性は資産防衛が目的

「女性は男性の不倫を抑止するために作る方が多いです。婚約期間中彼に浮気され、それでも結婚したい女性からの依頼が目立ちます。慰謝料の金額は相手の年収によってバラバラですが、相手が医師や経営者などの富裕層だと『慰謝料1億円』と設定するケースもあります。『慰謝料は年収分』とする方は優しいほうだと思います(笑)」。

一方、婚前契約書作成を依頼する男性は、経営者を中心とした富裕層が多く、結婚前から保有する資産を守ることに、力を入れているのだとか。

「結婚後に得た財産と、それ以前に築いた資産とを一緒にしたくない方が多いですね。このほか、慰謝料についても『上限は500万円』などと決めたり、多く払わないで済むよう備えておきたいようです」。

婚前契約書を作っておけば、相場よりも多い慰謝料を得られる

なんともシビアな数字が記載される婚前契約書。でも「慰謝料1億円」とした契約書を作成したからには、本当に1億円を払わなければいけないのでしょうか。

「公正証書には法的強制力があるので、基本的には払う必要があります。しかし、婚前契約は結婚に向けて行う約束で、離婚を前提とした約束ではありません。そのため、離婚時に作成する公正証書とは異なり、執行認諾文言(※1)を付けることはできず、支払いが終わるまで給料を差し押さえるなどの強制執行はできません」。

つまり、「慰謝料1億円」と記載していても相手にぴったり1億円を払わせることはできない可能性もある、ということ。「それでは作成した意味がないのでは?」と感じる人がいるかもしれませんが、わざわざ作るからには意味があります。

「公正証書は裁判の判決と同じ効力があります。原本は最低20年に渡って保管され、ずっと効力を持ち、裁判になった際に有力な証拠として提出できるのです。そのときの状況で相手が1億円を支払えなかったとしても、契約内容にできるだけ近い額を支払ってもらうことになります」。

婚前契約書がなければ、いくら相手が資産を持っていても通常の離婚における相場の慰謝料(数百万円)に収まりますが、婚前契約書があれば相場をはるかに超える額を得ることができるのです。

こういった夫婦間での「お金のトラブル」を解決するのに、メリットの多い婚前契約書。ただし、本来の目的はお互いの価値観を共有し、性格の不一致による離婚を防ぎ、幸せな結婚生活を築く指針の策定だと多田さんは話します。

「その目的が正しく認知されれば、婚約指輪や結納などと同じく、婚前契約書も結婚というプロセスに自然と組み込まれるのではないかなと思います」

「幸せを買う」と思えば安い!? 作成費用は約10万円

では、実際に婚前契約書を作成するにはどうすれば良いのでしょうか。法的な内容を含み公証役場とのやりとりも必要になるため、多田さんをはじめとする行政書士などの専門家に依頼するのがベストな選択です。

その上で、専門家との初回打ち合わせの前には、契約書に記載したい項目を婚約者とふたりで話し合って合意しておくことが必要だと多田さんは話します。箇条書きなど簡単な形で良いので書き出しておきましょう。

「特にどちらかが主体的に作成するケースだと、相手に内容を確認しないまま一方的ともとれる項目を盛り込む人もいます。あまりにも片方に不利な内容だと法的に問題になるので、お互いにとってできるだけ良い形になるよう、私のほうでアレンジさせていただきます」。

こうして専門家がカップルから受け取った内容を文章化した後は、専門家またはカップル本人らが公証役場へ出向いて公証人と打ち合わせを行います。なお、その際に2人の顔写真付きの身分証明書と印鑑が必要です。

「公証役場での手数料は安くて1万5000円、高くて6〜7万円と、契約書に記載された所有財産や慰謝料、養育費などの金額に比例して上がります。それに加え、私など専門家に依頼する場合の作成料金もかかります。私は6万3000円+消費税で対応しています。トータル10万円程度で作成できる場合がほとんどです」。

提出した契約書は1週間で公正証書になります。完成した公正証書は原則本人立会いのもと署名・捺印が必要。ただし、公証役場は平日昼間しか空いていないため、会社を休んだり早退したりするのが難しい場合は代理人を立てることも可能です。ちなみに、依頼〜完成までは余裕を持って1カ月みておくと安心です。

「婚前契約は、結婚前に一度冷静になり、良いことも悪いことも含めて全て受け入れる覚悟があるか、ふたりで確認し合うためのものだと私は考えています。たとえば悪いことの中には離婚などが含まれるかもしれません。3組に1組が離婚する時代ですから、どんなカップルにも離婚の可能性はあります。『ただ好きだから結婚する』というのは悪いことではありませんが、結婚の先に起こり得る様々な問題をお互いが覚悟した上で、乗り越えていくことが必要です」。

結婚はゴールではなくスタートです。幸せあふれる結婚生活を送りたい方は、彼と話し合って婚前契約書の作成を検討してみては?

※1 契約書の通り支払わなければ、強制執行をされても異議は唱えないとの旨の文言

【多田ゆりこさんプロフィール】
2005年に行政書士開業。開業当初より離婚業務を中心に男女間のトラブルを専門に扱う。たくさんの離婚相談を受ける中で、婚前契約書の必要性を感じ、2014年6月に一般社団法人プリナップ協会を設立。婚前契約書の普及活動に取り組む。多田ゆり子行政書士事務所

(池田園子)

※この記事は2015年10月07日に公開されたものです

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