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今も昔も悩まされていた! 江戸時代の嫁姑問題を解決する秘策とは?

堀江 宏樹

着物の女性嫁と姑は、日本の歴史を通じ、ビミョーな関係でした。主婦の座を奪い合うわけですから当然といえば当然。女性特有の?なわばり意識?は、男性以上だと筆者は思いますし。しかし、かしこい昔の日本人は身分の高低をとわず、争いの種を取り除くことに成功していたようですよ。その秘訣を江戸時代に探ってみましょうか。まず庶民の場合をお話しましょう。

江戸時代の庶民は、家が狭いので(とくに都会では夫婦&子ども1人くらいなら1DK程度で暮らすのがフツー)、広大な屋敷に住む上流階級のように嫁と姑が居住スペースを分け、顔もあまり会わせない……なんてことができません。

これを解決したのが、意外にも「ワーキングホリデー」だったのです。

実は……、江戸時代には東北地方を除いた、多くのエリアの農村部で、10代から20代前半くらいの男女が生まれた村を離れて奉公にでるという風習がありました。目的も見聞を広めると同時に、田舎の村の訛った言葉を都会風に矯正し、都会的な言葉で理路整然と自己主張が出来る人こそ立派なのだというような価値観も、実はあったようですよ。
それゆえ、彼らの初婚平均年齢は20代前半(女性)~20代後半(男性)とされています。意外と遅いでしょ? 基本的に現在とあまり変わらない年齢層かもしれません。

「ワーホリ」の後に、20代前半で結婚し、すぐ長男を生んだという江戸時代の農村部の女性A子さんがいるとします。彼女の長男がB子という嫁と結婚したのが20代後半だとすると、その時、母親であるA子さんは50歳前後です。

60代中盤が平均寿命だった当時、長男の嫁B子とA子さんの同居期間はあまり、長くはない……ということに。家が狭く、嫁と姑が額を付き合わせて住まねばならない場合ですら、嫁がネコを被っていられるうちに、姑はいなくなることが多かったのですねぇ。

それでは中流家庭の場合ではどうでしょうか。江戸時代の加賀藩(現在の石川県)に仕える猪山家の記録では嫁になる予定の女性が、嫁ぐ家に迎えられ、1カ月ほど「お試し同居」をする話が出てきます。これは猪山家だけの習慣ではなく、加賀藩の武士社会の常識でした。同棲じゃなくて、あくまで夫の実家での「お試し婚」なのが新しい! 家の都合が最優先で結婚させられる夫婦も多かったぶん、江戸時代の武士の離婚率は全国平均で1割以上もありました。「お試し婚」は合理的な風習ですよね(ちなみに2013年の日本の全国調査で離婚する夫婦は2%弱)。

それでは日本の上流階級における嫁姑関係は……というと、これも地味にいがみ合いはあったようですよ。基本的に大名家はよく離婚しますしね。江戸時代におおっぴらに離婚できないのは、天皇家と将軍家くらいのものです。

大名のような上流武士は嫁姑といっても広い広いスペースを住み分けており、あまり顔を合わせる必要はありません。たまに嫁と姑が同席するとき、姑よりも名門から来た嫁の場合、厄介でした。嫁と姑どちらを上座に座らせるかで揉めたりしたんですね(笑)。

嫁姑戦争も、江戸時代というある意味、封建時代では、実家の身分が勝敗を決めちゃったのは事実のようです。実家の身分が高いから、「嫁のほうがえらい」場合も十分にありえた、と。

では、日本の最上流階級、たとえば日本でいちばん偉い方である天皇の娘が、嫁と姑として出会ったりしたらどうなったんですかね……というと、以下のようなケースがありました!

江戸時代初期の帝・後水尾天皇の第15皇女の常子内親王(つねこないしんのう)は、公家・近衛基熙(このえもとひろ)に嫁ぎました。彼女の姑になったのは、実は異母姉にあたる、後水尾天皇の第3皇女、通称・女二宮(本名不明)。

この姑に対しても、父・後水尾天皇に溺愛されていた常子内親王は、強気に振る舞うことができたようです。こういう場合の嫁姑バトルの勝敗は、父親の愛情の強弱で決まったようです。

常子内親王が嫁いだ後の7年間、2人は直接の挨拶はおろか対面もせず。初対面した時のことを綴った日記の中でも、常子内親王は姑について「おふくろ」とだけ表現。様付けもなにもない呼び方で、敬意がないとはいいませんが、かなりカジュアル!

最上流階級の方々を「雲の上人(くものうえびと)」などと表現しますが、彼らの嫁姑関係は、われわれ庶民の推測をはるかに超えていたのですね~。


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著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
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※写真と本文は関係ありません

※この記事は2014年11月29日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


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