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専門家 生活

幕府の接待先が吉原見学ツアー!? 江戸幕府と吉原のイケない密接な関係

堀江 宏樹

着物みなさまごきげんよう、歴史エッセイストの堀江宏樹です。吉原には大歓楽街のイメージがあります。でも、それだけの街というわけでもありませんでした。もともと吉原は上流武士でも遊べる、格式高い色街でした。しかし、物価は上昇しても武士のサラリーは江戸時代初期に決まった金額に固定され、武士は必然的に貧しくなっていきました。その一方、自分の才覚一つでいくらでも儲けられた商人たちが吉原の上客になっていったのです。ところが、そうなってもやはり江戸城関係者はステイタスの高さから、吉原ではモテました。

江戸城関係者と吉原の関係は、そういうお客様とお店の関係だけに終わりません。実は江戸城内の「御煤払(おすすばらい、つまり大掃除のこと)」や「御畳替」に例年、吉原は専属の畳職人を提供していたのですね。また、1639年、第三代将軍・徳川家光の娘が尾張藩主に嫁ぐ際にも吉原はスタッフを100人派遣、嫁入り道具を運ばせてもいます

江戸時代、町人たちにとっては幕府の課す労役をすることが、今日の税金のかわりだったわけですが、現金を幕府に奉納することも当然ながら(?)行われていたんですねえ。いわばこれは、江戸に暮らす市民としての「義務」です。

しかし、それ「以上」の、現在でいう収賄みたいなことも吉原から幕府に対しては行われていました。「御年頭献上(ごねんとうけんじょう)」がそれです。その名のとおり、毎年の一月にはけっこうな額の献金までしていました(現代ではアウトな行為です)。吉原内で多少、アレなコトがあっても御役人を踏み込ませたりせず、目を瞑っていてくださいましね、という約束がわりの献金でした。

幕府と吉原の密接すぎる関係はそれだけに終わりません。「暴れん坊将軍」こと徳川吉宗(八代将軍)の息子・家重(九代将軍)は、吉原の名門遊郭「三浦屋」の経営の娘・お千瀬の方(おちせのかた)を、なんと信頼していた家臣の勧めで側室として大奥に迎え入れているのです。

お千瀬の方自身、やはり遊郭で育った女だけあって、男をコントロールする技術に長けていたようです。あまりにお千瀬の方だけがベタ惚れされ、愛されていることに激怒した別の側室が、ついにお千瀬と家重が愛し合っている所に押しかける事件を起こすなど、すったもんだも起きました(その側室は、座敷牢に幽閉されてしまいました)。それでも、お千瀬の方は、趣味の歌などを詠んで涼しい顔で大奥ですごし続けたわけです。

また吉原には、高貴な女性も足を踏み入れることはあったようですよ。ビックリしてしまうのは、天璋院こと篤姫の時代のできごと。薩摩(鹿児島県)出身の篤姫ですが、京都の近衛家という最高のステイタスを持つ公家の養女となった上で、第十三代将軍・徳川家定と結婚しました。徳川時代の将軍は皇族か、五摂家といわれる、特に高い身分の公家の娘としか結婚しないという慣例があったからです。そういう縁があり、江戸城の篤姫の元を、近衛家からある女性が尋ねてやってきます。

村岡局(むらおかのつぼね)という人ですが、彼女の江戸滞在中の接待先のひとつとして幕府が用意したのが、なんと! 吉原見学ツアーだったのですね。この記述、村岡局本人の旅行日記にあるので間違いありません。

ちなみに、リッチな商家の有閑マダムが情緒を楽しみに吉原を訪れるというようなことも、絵巻物などを見ている限り、なかったとはいえないようです。そもそも桜が満開になる季節となると、吉原の目抜き通りには桜の木が移植されてきました。基本的には吉原の門はひとつだけで、遊女が変装して逃げ出すことを警戒するため、女性の出入りには厳しめのチェックがなされていましたが、この春の時期を中心とする年に何回かは、一般女性たちも吉原を比較的自由に散策することができたのです。

しかし……もっとも権威ある公家に仕える、高貴な女性である村岡局が、いったい何を吉原でしたのか……というと、それは「大食い」なんですね!

村岡局は、豪快に飲み食いするのが特技でした。自分をもてなしてくれた人に対して、できるかぎりの礼を尽くそうとしたゆえの行為でしょうが、複数の遊郭をめぐった時も、高位の遊女たちを前に大食いしてみせたのだそうです(笑)。遊女たちの反応は村岡局の日記には書かれてはいませんが、おそらく圧倒されてしまったのではないでしょうか。

あるいは「美しさを売る女」である遊女たちを目にした、「知恵で生きたキャリア女」村岡局は、熾烈なマウンティングバトルを仕掛けたのかもしれませんよね……。

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著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
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※写真と本文は関係ありません

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