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「ご武運を祈る」とは? 本来の意味と注意点(例文付き)

松岡友子(コミュニケーションマナーアドバイザー)

「ご武運を」という言葉をご存じですか? アニメや時代劇などで耳にしたことがある人もいるでしょう。しかし、この言葉は現代において注意が必要なんだそう。今回はコミュニケーションアドバイザー®の松岡友子さんに、「ご武運を」の本来の意味と注意点について教えてもらいます。

アニメ『鬼滅の刃』が空前のブームになって以降、「ご武運を」や「武運長久」という言葉が注目されています。

作中の印象的なシーンで使われているため、興味を持ち、日常生活でも使おうとしている方がいるようです。

しかし、果たしてその使われ方は適切なのでしょうか。

ここでは「ご武運を」や「武運長久」が持つ言葉の意味について考えてみたいと思います。

「ご武運を」とは?

「武運」は「ぶうん」と読みます。まず「武運」について、辞書から意味を確認してみましょう。

ぶうん【武運】

武士としての運命。戦いでの勝敗の運。

(『広辞苑 第七版』岩波書店)

また「武運」を用いた言葉である「武運長久」(ぶうんちょうきゅう)については「武運が長く続くこと」と記載されています。

さらに『大辞林 第四版』(三省堂)では「戦いにおける勝敗の運。また、武人、軍人としての運命」とあり、「武運長久」については「戦場で、武人としての運が長く続くこと」と説明されています。

つまり、「武運」はその漢字の意味の通り、「武士や軍人としての運」を指す言葉。

「ご武運を」と声を掛ける場合には「武士、軍人として戦場での幸運を祈る=生きて帰って来てほしい」という無事を祈る言葉だということが分かります。

ですから、私たちはこの「ご武運を」という言葉を、時代劇や古い時代を舞台にしたアニメ・マンガ、戦闘系のゲームなどで見聞きすることはあっても、本来の意味として使う場面はありません。

なぜなら、現代日本に生きる私たちの毎日は、幸せなことに戦争状態にないからです。

「ご武運を」の使い方

「ご武運を」という言葉は、かつての日本において、戦(いくさ)に向かう武士や戦争へ向かう兵士の、出陣の際に使われていました。

映画やアニメの中では、例えば夫や息子が戦地へ出陣していく時に「ご武運をお祈りしています。どうぞご無事でお帰りください」と妻や母親が声を掛けます。

そして戦で負けると、「武運つたなく敗れた」と言って嘆き悲しむのです。

また、「武運長久」については、出征する兵士の壮行会などで、「○○君の武運長久を祈って、万歳三唱!」と、若者を戦地へ送り出す時に使われていたようです。

「ご武運を」を使う上での注意点

正直に言うと、筆者は「ご武運を」という言葉を実生活で使ったことはありません。この言葉は、アニメやマンガを含む、時代劇や戦争映画の中でしか聞いたことがないのです。

そこで、周囲の人々に「ご武運を」についてリサーチしてみました。

まず、学生たちに聞いたところ『鬼滅の刃』や戦闘系ゲームで使われているので「ご武運を」という言葉は知っているという声があり、中には就活面接に向かう友人に言うことがあると教えてくれた学生もいました。

一方、ビジネスパーソンに聞いてみたところ、全員が即座に「使わない」「聞いたことがない」との答えでした。

そして、例えば自分が大切なプレゼンに向かう時、部下に「ご武運を」と言われたらどう思うかと聞いてみたところ、「なんでそんな言葉を使うのかと思う」「言葉の使い方を知らないのかと思う」という意見が多くありました。

中には「よほど戦闘系ゲームが好きなのだなと考えて一応理解に努める」と話してくれた人もいました。

ここで私たちが考えなければならないのは、この「ご武運を」という言葉が、本来は武士・軍人・戦場という、戦争のない平和な現代日本に住む私たちとは、およそ縁のない人々やシーンに向けられる言葉であるということです。

もちろん就活生やビジネスパーソンにとって、面接やプレゼンの場がある種の戦いであるということも分かります。

ですが、面接やプレゼンに失敗しても、その場で相手に命を奪われることはありません。そこは戦争の場ではなく、競いの場です。

本来「ご武運を」という言葉は、比喩としてではなく、殺さなければ殺され、負けはすなわち死を意味する、そんな戦場へ赴く人に掛けるとても重い言葉なのです。

「ご武運を」という言葉の本来の意味や使われた方が、現代日本においては経験することのない、壮絶で悲壮なものであることを理解すれば、軽々しく使うべき言葉ではないということが分かります。

少なくとも、上司年代の方たちは使わない言葉であると言って差し支えないでしょう。

相手にエールを送りたい時に使える言葉は?

では、相手を励ましたい、エールを送りたいという気持ちの時、どのような言葉があるでしょうか。

例えば、災害現場に向かう救助隊やエベレスト登頂を目指す登山隊など、現代において危険な任務へ臨む方たちには、以下のような声掛けが適切です。

・危険なことも多いでしょうから、どうぞくれぐれもお気をつけて。

・天候に恵まれますように。どうぞ道中ご無事で。

また、就活やプレゼンという大きな舞台へ挑む人に掛ける言葉としては、以下のような例が挙げられます。

・応援しています。

・一生懸命準備していたのですから、きっと大丈夫!

・自分を信じて!

・きっと成功すると信じています。

・堂々と胸を張って行ってらっしゃい!

・吉報をお待ちしております。

あなたが思うシンプルかつ素直な表現で十分ではないでしょうか。

これらの言葉に、「頑張ってください」という言葉に添えると、より気持ちが伝わるでしょう。

「ご武運を」は今後の使われ方に期待したい言葉

映画やアニメで使われる言葉の影響はとても大きく、私たちをその世界観に誘ってくれます。

その言葉を、現代の私たちが同じように感じるシチュエーションに置き換えて、古き良き時代の言葉をよみがえらせる効果があることも事実です。

ですが、そこで使われる言葉を「はやっているから」「かっこいいから」といって、安易に現代の日常生活へ持ち込むことには、無理が生じる場合もあります。相手にも誤解を与えかねません。

もちろん、言葉は生き物で変化していきますから、いずれ「ご武運を」が「必勝祈願」のように、現代でも違和感なく使われるようになっていくかもしれません。

今後の使われ方に注目していきたい言葉の1つです。

(松岡友子)

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※画像はイメージです

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