クリティカルシンキングとは? 簡単な鍛え方2ステップ
「クリティカルシンキング」という言葉を聞いたことはありますか? よく耳にする「ロジカルシンキング」とは、似ているようで全く違う考え方だとコラムニストのトイアンナさんは言います。身に付けると仕事でも恋愛でも役に立つという「クリティカルシンキング」とは一体どういうものなのでしょうか?
最近よく耳にする「ロジカルシンキング」。ビジネスでは大事なスキルだといわれていますが、私はイギリスに6年住んでいて「ロジカルシンキング」って、あんまり聞いたことがありませんでした。
Wikipediaを見てもらうと、ロジカルシンキングの項目には英語のページすらなさそう(※2020年9月11日現在)。
それもそのはず、ロジカルシンキングは、外資系コンサルティング企業などで使う専門用語だからです。ところが日本では、「ロジカルシンキング=なんかカッコいい!」って感じで、広まったのではないかと考えています。
ですが、私はロジカルシンキングよりも世間を生き抜くうえで本質的に必要なのは、クリティカルシンキング(Critical Thinking)ではないかと思います。
クリティカルシンキングとは?
クリティカルシンキングは直訳すると「批判的思考」のこと。ざっくり定義すると「変な思い込みを防ぐ考え方」です。
クリティカルシンキングの定義
例題を出しましょう。
「犯罪者は、100%全員がパンを食べたことがある。だから、パンには何かしら犯罪を増やす効果がある」と聞いたら、「それはさすがにおかしい」と思いますよね。
例えがパンだから分かりやすかったかもしれませんが、これが「犯罪者は小麦を多く食べる。だから小麦には攻撃性を増やすリスクがあるので、グルテンフリー食を選ぼう」と言われたらどうでしょうか。
表現は違えど意味はほぼ同じはずなのに「そうかも」と信じてしまう人も、出てくるんじゃないでしょうか?
クリティカルシンキングとは、こういう「変な思い込み」を防ぐために、適切なタイミングで「それ、ほんと?」と疑うスキルのことです。
このクリティカルシンキングは、イギリスでは中学校の選択科目にあるくらい、重要視されているものなのです。
ロジカルシンキングとの違い
ロジカルシンキングは、「一貫して筋が通っている考え方・話し方」のことです。ですから、たとえ意見が少しおかしい部分があったとしても主張が一貫していればロジカルシンキングにはなります。
つまり、極端な例ですが「日本人は全員悪人だ。だから全員罰されても仕方ない」という主張があったとして、その考え方や話し方に一貫して筋が通ってさえいればロジカルシンキングといえるのです。
一方、クリティカルシンキングは「それ、ほんと?」と適切に疑うスキル。クリティカルシンキングでは、ロジカル(一貫した)な考えでなくても、バランスの取れた意見を採用します。
クリティカルシンキングが苦手な人の特徴
日本では一般的にクリティカルシンキングを鍛える教育を受けないため、クリティカルシンキングが苦手と言われても当たり前です。ですが、特に苦手な人にはこんな特徴があります。
(1)数字に裏付けられたら全部信じる
さっきの「犯罪者は100%全員がパンを食べたことがある。だから、パンには何かしら犯罪を増やす効果がある」論は、数字で裏付けられていますが、正しくはないですよね。
ですが、数字さえあれば信頼できると思っている人は、コロっとだまされます。これが、クリティカルシンキングが苦手な人が陥るミスです。
(2)1つのエピソードで結論を出す
例えば、「アフリカで飢えて死ぬ子がいる」という物語があったとして、それにより、人々は「アフリカの人=貧しい」というイメージを持つかもしれません。
ですが、アフリカには54もの国があります。アフリカの島国・セーシェル共和国は、国民1人当たりGDPランキング世界53位(※IMF統計)。ハンガリーやポーランドなど、ヨーロッパの国より実は上位なのです。
また、アフリカは貧富の差が激しい地域も多く、大富豪3人の資産がアフリカ大陸全体の半分以上を占めるともいわれています。
クリティカルシンキングで物事が考えられない場合、「アフリカの人たちを貧困から救いたい」と思って、何の疑いも持たずにこの大富豪たちに渡るような基金に寄付してしまう可能性だってあります。
こんなふうに、1つのエピソードを見たら「ほんとかな?」「全員そうなのかな?」と疑う考えを持たないと、助けたい人を助けることもできないのです。
(3)疑う=悪いことだと思っている
クリティカルシンキングは「それって、ほんとかな?」と疑う気持ちから生まれています。ですが、クリティカルシンキングが苦手な人は、そもそも疑うことを悪いことだと思いがちです。
クリティカルシンキングがもし、他人だけを疑う気持ちなら、確かに悪いことかもしれません。ですが、クリティカルシンキングのメリットは「自分の意見が正しいか、思い込む前に疑える」ことです。
私は、ロジカルシンキング(一貫した考え)よりクリティカルシンキングの方が、ずっと重要だと思っています。
ですので、かつて自分が書いた記事の内容でも「これって、ほんとかな?」と疑ったらアッサリ撤回したり、謝罪したりします。その方が、誤りに固執するよりずっと気持ちが良いからです。
クリティカルシンキングが苦手な人も、「自分を適切に疑うスキル」だと思ったら鍛えたいと思うのではないでしょうか。
クリティカルシンキングの鍛え方
ここからは、クリティカルシンキングの鍛え方を2ステップでお伝えしていきます。
ステップ1:PESTLE分析を知る
クリティカルシンキングとは「これってほんとかな?」と適切に疑うスキル。そして、疑うにも作法があります。そこで使うのがPESTLE分析(ペステル分析)です。
PESTLE分析とは、下記の言葉の頭文字を取っています。
・Political(政治的)
・Economic(経済的)
・Sociological(社会的)
・Technological(技術的)
・Legal(法的)
・Environmental(環境的)
ある人が何かについて発言した時、そこにはPESTLEが指す言葉の影響を受けていることが多いのです。
どういうことか具体的に見ていきましょう。例えば「私、トイアンナが男女平等を推す」のは……
・Political(政治的)にリベラルよりで
・Economic(経済的)には裕福な国の生まれで
・Sociological(社会的)に周りも働く女性が多い環境に生きていて
・Technological(技術的)に女性でも働きやすい頭脳労働を選べて
・Legal(法的)に女性でも労働できる法律の元に暮らしていて
・Environmental(環境的)に女性の活躍が推進されている
という社会に生きているという背景や考えがあるからです。
クリティカルシンキングを鍛えるには、まずこういった考え方があるということを知ることから始めましょう。
ステップ2:PESTLE分析で物事を考え、意見を持つ
PESTLE分析について理解したら、次は人の発言を(自分の発言も!)PESTLEの枠に当てはめて考えてみましょう。
この世に偏っていない人なんていないことが分かってくると思います。
例えば、「幼い女性と恋愛したがる成人男性」をロリコンと呼ぶのは、日本では女性の成人年齢が20歳(2022年からは18歳)で、そもそも違法だし、社会的にも批判されるから……なんて考えがありますよね。
ですが、対象の少女が13歳で、13歳が成人年齢の国だったら?
たとえ13歳でも、法で認められていて、さらに双方が結婚したいと心の底から願っていたらダメなのでしょうか?
なんてふうに、自分の頭に元々セットされている枠組みを取っ払って考えるのが、クリティカルシンキングです。
その上で「やっぱり、13歳の女性が結婚できる仕組みはおかしい」という意見を持つのもOK。ただし、その理由は「それが社会的にも認められている国」に住んでいる人も説得できる内容にした方がいいでしょう。
クリティカルシンキングを身に付けると、生きるのがラクになる
正直、日本でクリティカルシンキングが広まるのはまだ先だと思っています(この記事の参考にするため、いくつかクリティカルシンキングに関する記事を読みましたが、どれもロジカルシンキングについて書かれた記事ばかりでした……)。
ですが、クリティカルシンキングを身に付けると、生きるのはきっとラクになります。
相性が悪い上司であっても「こういう思いがあって発言しているんだな」と一歩引いて考えられますし、自分の意見にも固執しないからです。
クリティカルシンキングに興味が湧いた方は、ぜひ本なら『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング』を読むか、クリティカルシンキングを学べる研修を受けてみてください。
ビジネスでも、恋愛でも、きっとクリティカルシンキングがあなたの役に立つはずです
(トイアンナ)
※画像はイメージです