「インスピレーション」とは? 得るための10の方法
提案書を作らなければいけないのに、何も思い浮かばず「インスピレーションを得るにはどうすればいいんだろう……」と悩んだことはありませんか? 工学博士の尾池哲郎さんは、インスピレーションを得るには10の方法があると語ります。詳しく解説してもらいましょう。
インスピレーションを得る方法は、ネット上にたくさん紹介されています。
リラックスする。先入観を捨てる。好きな音楽を聴く。瞑想する。好きなことを書き出す。対話する。趣味を楽しむ。自然の中で遊ぶ。新しいことに挑戦する。旅行する。無茶をしてみる……。
しかし、私たちはいつまでも「インスピレーションを得るコツ」を探し続けています。
なぜなら、おそらくこれらのコツには根本的な“何か”が足りないからだと思います。
インスピレーションが得られない理由
誰もが指摘する通り、私たちはトイレやベッドの中といったリラックスした環境で何かを思い付きます。ささいなアイデアでしたら、特別なことをしなくても日常的に思い付いているでしょう。
どこでも音楽が聴けるプレーヤー。落としても壊れない時計。補聴器になるイヤホン。私たちの身の回りの画期的なアイデアは、どれも日常的に誰しもが「こうだったらいいな」という思い付きで生まれたものばかりです。
しかし、私たちは思い付いたアイデアの多くを忘れ去っています。仮にメモを取ったとしても、いざ提案書に向かうとそのアイデアが急にくだらなく思えてきて、「きっとバカにされる」と尻込みしてしまうのです。
では、どうすれば恐れを跳ね除け、自信を持って提案することができるのでしょうか。
インスピレーションとは何なのか?
インスピレーションがどんどん湧いてくるような人のことを、私たちは「天才だ」ということがあります。
私は、その天才とは「誰も見たことがない風景を見てしまい強烈に感動している人」だと思っています。彼らは思い付いたささいなアイデアの先に足を踏み入れ、誰も見たことが無い景色を見ているのです。
そして、彼らはその景色の中にゴールまでの道のりをぼんやりと見ていて、そこにたどり着くことにしか興味が無く、誰かの評価を期待していません。
そんな彼らが教えてくれることは、私たちが思い付くアイデアはその向こうに広がる広大な景色のほんの1ピースにすぎないということです。
これは私の仮説ですが、記憶とは私たちが見た景色を脳内にコピーしたものだと考えています。脳の神経細胞は数百兆個のシナプスでつながっていますが、それらが脳内に蓄積された景色や知識のコピーを無意識下に引き出し、組み換えて、自分だけの風景として「インスピレーション」を生み出していると想像しています。
インスピレーションには、英語で「霊感」や「啓示を受ける」といった意味もありますが、そうした短絡的なものではなく、間違いなく自分自身の中にあるイメージであるはずです。
つまり、私たちはインスピレーションを得るためにリラックスするのではなく、さまざまな景色を見る必要があると私は考えます。
インスピレーションを得る10の方法
では、ここからは脳内のイメージをつかむ(インスピレーションを得る)ための10の方法を紹介します。
(1)日常生活で思い付くアイデアを必ずメモる
ささいなアイデアは日常生活に散りばめられています。普段の生活をリラックスして楽しみ、思い付きをすぐメモできるように、メモ帳やスマートフォンを持ち歩きましょう。
(2)気付きを得る行動を取る
(1)でメモをしたアイデアについて、人と話してみたり、ネットで検索したり、SNSでつぶやいてみましょう。ささいなアイデアについて想像を膨らませて掘り下げていくのです。
(3)趣味を楽しんで新しいことに挑戦する
小さなアイデアのタネがあるなら、それを頭の片隅において、楽しい趣味や新しいことに没頭します。そうすると、頭の片隅のアイデアと何かがつながったり、意外な発見を得ることができたりします。
(4)外出する(物理的な世界を広げる)
アイデアをさらに広げるためは、行動範囲を物理的に広げましょう。外に出てアイデアの向こうの景色をのぞくように、意識的に視野を広げます。
(5)音楽を聴く、瞑想する(精神的な世界を広げる)
物理的な世界と同じように、脳内の視野も広げます。音楽や瞑想で想像の世界を広げ、自分だけの世界を作って遊んでみるといいでしょう。
(6)風景の中に住んでみる
少しでも何かアイデアが見えてきたら、そのアイデアがある世界の中で生活をする想像をしてみてください。違和感を感じることもあるので、しっくりくる風景が見つかるまで、想像の中を歩き回ってください。
(7)イメージを形にしてみる
アイデアを具体的に絵で描いてみます。画用紙などで簡単な試作品を作ってみてもいいでしょう。
(8)殻を破る
風景が見えてくると、常識が邪魔をすることがあります。時には積極的にふざけてみたり、無茶をしてみたり、常識を排除することで新たな発想が生まれる可能性があります。
(9)初心に戻る
時おりアイデアが生まれた原点に戻ってみましょう。小さなアイデアが生まれた時に感じた興奮が、新しい風景の1ピースであることは間違いないからです。
(10)サイクルを繰り返し、確信を得る
(1)〜(9)を繰り返し、自分だけの新しい風景を冒険し続けます。もし鳥肌が立つような風景にたどり着いたら、それがインスピレーションだといえるでしょう。
誰にも理解できない世界を旅しよう!
あなたのインスピレーションから生まれた提案は、「くだらない」「具体的でない」「利幅が取れない」「実現可能性が低い」と言われることもあるでしょう。自分自身がのぞいた風景は誰にも理解できない世界ですから、当然です。
そもそも誰もが理解できる程度のアイデアであれば、すでに誰かが実行しているはずです。なのに、人は前例が大好きで、見たことの無い風景は理解できないどころか、嫌悪感さえ覚える人が大勢います。
その反感を乗り越え、インスピレーションを現実に押し上げるには、自分以外にもアイデアの向こう側の風景を見せ、感動を与えるしかありません。
アイスのガリガリ君だって、コーンポタージュ味やナポリタン味を展開するなんて最初からイメージしていたわけではないと思います。最初はたぶん「美味しいソーダ味が欲しい」くらいだったと思います(勝手な想像ですが)。
その提案に対し「そんなこと誰だって思い付く」「それができれば苦労しない」という声が起きたはずです。しかし、提案者が想像している世界はそんな単純な世界ではなかったのでしょう。今まで経験したことがない幸せが、口いっぱいに広がる世界です。
それが存在する世界を想像し感動してしまったからこそ、奇抜な味にもチャレンジできたのだと思います。むしろ理解されないことは、誰にも想像できない新しい世界をのぞいてしまった証拠でもあります。その時生まれた感動だけが、ささいな思い付きをインスピレーションに変え、新しい世界を現実に導いてくれるのです。
(尾池哲郎)
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