ベンチマークとは。種類別の意味と方法を解説
「ベンチマーク」という言葉を聞いたことはあっても、よく意味が分からないという人も多いのでは? 元外資系会社員・コラムニストのトイアンナさんに、ベンチマークの意味や上手な使い方などについて詳しく教えてもらいました。
会社勤めをしている中で、徐々にカタカナ語が増えてきたな~、って思ったことありません? この10年くらいでミーティング、スケジュール、リストアップなんて単語は業界問わず当たり前に使われるようになりました。
これらは単に「会議」「予定」「並べる」の英語ですが、最近ではさらに考え方そのものを海外から輸入したカタカナ語が増えました。
今回は中でも「ベンチマーク」について触れたいと思います。
ベンチマークとは何か? ベンチマークの意味を解説
ベンチマークを直訳した意味は「指標」や「基準」のこと。元々は建築物の高さで基準を置くことを「ベンチマーク」と呼ぶようになったことが語源です。
しかし、その直訳のままでは通じない意味合いで用いられていることがあります。
IT業界における「ベンチマーク」とは
IT業界では、PCやスマートフォン、タブレットなどの動作速度や性能評価の基準をベンチマークと呼びます。先ほどの直訳である「基準」という意味を超えて、さらに性能評価という意味合いがあります。
例えば、パソコンAとパソコンBを比較してどちらが処理スピードが速いかをテストするときの基準テストを「ベンチマークテスト」と呼びます。
タブレットやPCのようなハードウェアだけでなく、EdgeとChromeのどっちが速くウェブサイトを見られるかなど、ソフトウェアの性能比較テストも、ベンチマークテストです。
経営やマーケティングにおける「ベンチマーク」とは
経営やマーケティングにおける「ベンチマーク」は、他社と自社を比較して分析する時の基準を意味します。
例えば、私がマイクロソフト社の社員だったら、間違いなくアップル社は「ベンチマーク」すべき会社に入ります。競合としてどの国のどの店舗でいくら売れているかを知らなくては、市場を食われてしまうからです。
他社をベンチマークして分析することで、自社の経営方針を見直していくのです。
ベンチマークするメリットとは?
ベンチマークを活用すると、以下のメリットを享受できます。
自社の「負けているポイント」が分かる
自社製品だけを見ていると「井の中の蛙」になり、思わぬ競合に足元をすくわれます。ですが、明確なライバルとなる会社を決め、ベンチマークすることで慢心せず開発を続けられます。
ベンチマークで他社の優れた施策をまねできる
例えば、自社製品はデザイン性が優れていても、1台のトラックに10台しか積載できないとします。これでは、いくら良い製品でも流通でコストがかかり過ぎてしまい、単価を下げられません。
ところが、自社と比べたときにB社の製品は同じサイズでも梱包を工夫して1台のトラックに20台積めるとします。これなら同じ輸送費で倍の製品を出荷できるので、単価を下げられるわけです。
単価を下げられれば、その分お店に置いた時の小売店の利益率を上げられます。小売店ではB社の製品を置いた方がもうかるので、お店でもっとディスプレイしてもらえたり、特売品としてチラシに掲載してもらえたりするかもしれません。
こういった「負け」ポイントがあるなら、A社は真っ先にB社の梱包をまねることで、同等以上の利益率を小売店に提供できます。そして、少なくとも同じくらいはディスプレイしてもらえたり、特売品に並ぶことでB社に負けずに済んだりします。
ベンチマークで他社に勝つ道も見える
先ほどの例のように、他社をベンチマークする際は「デザイン性、価格」といった見かけの部分だけでなく、流通コストや営業戦略などへも目を配ります。
理想的にはベンチマークした企業と「同じ」になるより、さらに優ることで競合より有利に立とうとするのが、ベンチマークの目的です。
ベンチマークする際に欠かせないKPIとは
ここで、ベンチマークをする際に欠かせない「KPI」という単語も頭に入れましょう。KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、ざっくり日本語に訳すと「重要な業績を数字に落とし込んだもの」です。
仮にマイクロソフト社がアップル社をベンチマークするにしても、デザインや販路までまねたらただの「アップルもどき」を作ってしまいます。
それでは競合他社に勝てないので、必ず「このポイントだけを気に掛ける」という指標を決めます。その目標数値をKPIと呼びます。
実際にKPIを設定してベンチマークする方法
実際の例文では「アップル社をベンチマークする際のKPIは配荷店舗数と故障率」なんて風に使います。これは、店舗数と故障率の低さでアップル社に負けないように頑張る、という意味です。
つまり店舗配荷率と故障率で他社をまねしたとしても、デザインや機能面では全く異なるものを作れますから、マイクロソフト社がアップル社もどきと呼ばれることはないわけです。
こんな風に、経営では適切なKPIを設定し、ビジネス上の競合に勝つ戦略を練っていきます。
ベンチマークの上手な使い方とは? その手法
ここまで、ベンチマークを主に使う2種類の方法と、実際に現場で使われる手法をご案内してきました。ここまでで「ベンチマーク」という単語の意味はつかめたと思います……が、どうやってベンチマークを上手に使いこなせばいいでしょうか。
そこで大事なのが「差別化」です。
何でもかんでもまねすると他社と同じ製品ができる
先ほどマイクロソフトとアップルを比較したように、自社と競合が元々持っている差別化(異なる)要素は、そのまま残すべきです。
かつて日本のPCメーカーは「年賀状ソフト、イラストを描くソフト、拡大鏡……」といらない機能をどんどん搭載し、どの会社のPCも最初からいらないアプリだらけの似たり寄ったりの製品になってしまった過去があります。
その時「何も余計なソフトが入っていない」海外のPCメーカーが業績を伸ばし、一気に日本のPCはシェアを落としました。
ベンチマークを使いこなす手法は「差別化を残す」こと
「あの会社の製品が売れてるから、あの会社のやり方を全部ベンチマークしよう!」としてはいけません。それは自社の強みを殺してしまうからです。
ベンチマークする時は、必ず自社の強みを生かしつつ、相手から学べるポイントだけをKPIに落とし込みましょう。それがベンチマークを上手に使いこなすコツです。
(トイアンナ)
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