「気にしないでください」の敬語と使い方【メール例文】
よく使う「気にしないでください」という表現。これを上司に使うのは失礼? 「気にしないで」というニュアンスを伝えるビジネスシーンでの敬語を、マナー講師の川道映里さんが解説します。
「気にしないでください」は普段からよく使う言葉のひとつ。
丁寧な言い回しのように聞こえますが、目上の方に対しては軽く聞こえてしまうケースがあるため注意が必要な言葉です。
少し言葉を変えるだけで、相手への印象は大きく変わっていくもの。今回は「気にしないでください」を伝える正しい敬語表現と使い方のポイントについて解説します。
「気にしないでください」の敬語表現
「気にしないでください」は丁寧語に分類されます。
丁寧語は「です」や「ます」といった言い方で、この場合「する」の丁寧語である「します」を否定形の「しない」としています。
例えば、レストランでお店の人がテーブルにお水をこぼしてしまった場面を想像してみてください。お店の人が申し訳なさそうに謝ってきたら、「気にしないでください」と返すことがあると思います。
それでは、ビジネスシーンにおいてはどのような敬語表現になるのでしょうか。
尊敬語は「お気になさらないでください」
尊敬語では「気になさらないでください」や「お気になさらないでください」と言い換えることができます。「する」の尊敬語である「なさる」を用いることにより、相手への敬意を表すことができます。
例えば、ビジネスシーンにおいて上司と打ち合わせをしている最中、上司あてに急な来客があり、打ち合わせが中断してしまったケースなどに有効な言い回し。
この場合、上司に対して「お気になさらないでください」と伝えるとベター。さらに「どうぞ」を加えると、相手のことを思いやった丁寧な印象になります。
「気にしないで」のニュアンスを伝える代わりの敬語は?
前述の通り、「気にしないでください」という表現は、場面によって少々ラフな印象を与えてしまうこともあります。
同じニュアンスを伝える丁寧な敬語にはどんな表現があるのでしょうか。
(1)「お気に留められませんよう」
「お気に留められませんように」は、相手の謝罪などに対して「もう気にしなくてもいいので、安心してください」という意味が込められています。
この場合も「どうか(どうぞ)、お気に留められませんように」と伝えると、柔らかい表現になります。
使用が好ましい相手
目上の人、上司、先輩、クライアント等
(2)「お気遣いなく」
「お気遣いなく」は、「お気遣いなさらないでください」を省略した言い方です。「心配しないでください」や「あれこれと気を遣わないでください」という意味を表します。
例えば、訪問先でお茶やお菓子を出してくれたシーンなどで、「(どうぞ)お気遣いなく」と伝えます。相手(親しい間柄)や状況によっては「お構いなく」を使っても問題ありませんが、「お気遣いなく」のほうが丁寧な表現になるため、おすすめです。
使用が好ましい相手
同僚、部下等
(3)「結構です」
「結構です」は、「必要ありません」のように断る意味で用いることができます。
例えば、自分は残業をしなければならず、後輩には先に帰るようにと伝える場合を考えてみましょう。
「あと1時間くらいかかりそうなので、先に帰って結構ですよ」と言い換えると◎。ただ、冷たく聞こえる場合もあるので、「結構です」は目上の人に対しては避けたほうがいい言葉でしょう。
使用が好ましい相手
同僚、部下等
※ただ、状況や相手との間柄によっては、「愛想がないな」と思われることもあるので、言い換えることをお勧めします
場面別「気にしないでください」の正しい使い方
上司やクライアントからのお詫びの言葉に戸惑ったことはありませんか。そのような場合は、相手への配慮を表した「気にしないで」の表現が必要です。
ここでは、具体的にどんな敬語を使うべきか、シーン別に解説をしていきます。
ケース1:相手がミスをしてしまった
(例)上司の不手際でミスがあり、謝罪してきた場合
「いいえ、私の確認ミスでもあります。どうぞ、お気になさらないでください」
「いいえ」を最初に伝えることで、「上司だけの責任ではない。心配しなくてもよい」という意味が込められ、相手の気持ちが和らぎます。さらに、「お気になさらないでください」のように、尊敬語の「なさる」に置き換えることで、上司を高めることができます。
また、ビジネスシーンで覚えておきたい言葉のひとつに「ご放念ください」があります。
「放念」の意味は「忘れる」「心配しない」「気にかけない」です。上司や目上の人に対しても使用できます。
ケース2:同僚に「気を遣わないで」と伝えたい
(例)出張にいく同僚が「お土産を買ってきますね」と言った場合
「ありがとうございます。お気遣いなく」
この場合「私のことは気にしないでくださいね」の意味合いがあります。ただ、素直に感謝の気持ちを述べたほうがいい場面も。
今回の同僚が親しい間柄であれば、「わあ! いつもありがとう。お土産楽しみにしていますね」などと返事をするのがベストです。
ケース3:部下、後輩に「気にしないで」と伝えたい
お互いが気持ちよく仕事をするために、部下や後輩に対しての言い方は、注意しなければなりません。「気にしないでください」は冷めた印象を受けることもありますので、「気にしないで構いませんよ」などと言い方を工夫することをおすすめします。
(例)体調不良のため、部下が早退を申し出た場合
「気にしないで構いませんよ。病院へ行って、ゆっくり休んでくださいね。お大事に」
「気にしないで構いませんよ」は「心配しないで大丈夫ですよ」という意味です。「構いませんよ」を追加することで、やんわりとした印象を与えることができます。
「気にしないで」を伝えるメール例文
続いて、メールでのシチュエーションを例に「気にしないでください」の使い方を見ていきましょう。
メールを通じて、取引先から謝罪の言葉をもらった経験はありませんか?
文字として残ってしまうメール。必要以上に気遣いや心配をさせないためには、どのような返信が適切なのでしょうか。ここでは、管理業務で間違いをしてしまった取引先を例に、「気にしないでください」といった旨を伝えるビジネスメールのポイントを紹介します。
A商事株式会社
○○様
○○様、平素より大変お世話になっております。
マナー株式会社の△△でございます。
この度は、新企画の管理業務につきまして早急にご対応、ご連絡くださり誠にありがとうございます。
弊社でも、期日までに間に合うよう受け入れ態勢を整え尽力してまいりますので、どうかお気に留められませんようお願い申し上げます。
引き続き、貴社と共に新企画を成功したく存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
マナー株式会社
△△ ××子
「お気に留められませんように」が◎
取引先のミスに対して「気にしないでください」と伝える際は、「どうか、お気になさらないでくださいませ」や「お気に留められませんようにお願い申し上げます」を使うと丁寧です。
メールだけなく電話も使う
また、メールで「気にしないでください」と伝える場合は、「こちらは気にしていないので、あなたも気にしないで」という思いが届くように返信しましょう。加えて、相手との間柄によってはメールだけでなく電話でも伝えると、さらに気持ちが通じますね。
「気にしないで」を上手に伝えるコツは?
「気にしないで」を上手に伝えるコツは、繰り返しになりますが「どうぞ(どうか)」を添えることです。相手にとって、優しく、やんわりとした印象を与えることができるでしょう。
そして、最初に「ありがとうございます。どうぞ、お気になさらないでください」とお礼をプラスするのがおすすめです。まず、自分のことを気にしてくれている(心配してくれている)ことにお礼を述べる、相手の立場を考えた言い方ですね。
「気にしないで」の敬語表現は、相手や状況に応じて変化します。大切なのは、
「TPPPO(※)」……Time(時)、Place(場所)、Person(人・相手)、Position(立場)、Occasion(機会・場合)」に応じて言葉を使い分けることです。
言葉を使い分け、選ぶことで、相手との人間関係がより円滑になることを願っております。
※「TPPPO」はヒロコマナーグループ代表西出ひろ子氏の登録商標です
(川道映里)
※画像はイメージです