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推し活に命を懸けた5年間と、感じる「推しとの別れ」……推し活と恋愛は両立できない?

#わたしだけの愛のカタチ

久留米あぽろ

それぞれの生き方が尊重される現代、恋愛の進め方も、パートナーシップの持ち方も十人十色です。どうするべき、という正解や定番もなくなってきているものの、だからこそ「これって普通?」と悩むことも多いもの。自分らしい愛のカタチを模索しながら“それぞれの恋と愛”を再考する連載です。

今、日本の経済を支える一つの柱とも言われるほど、社会的にも大きな意味を持つようになった「推し活」。推しから受ける影響力の強さは人それぞれですが、SNSを覗いてみると、自身のプロフィールに“推しのために生きています”、“推しなしの人生は考えられません”など、推しの存在が自分の存在意義だと感じている人もいるようです。

ブームを越えて、もはや私たちの暮らしの中で定番化しつつある推し活。中には、自分の今後の人生と推し活、そのバランスに悩む人もいるようで……?

推し活と恋愛の両立に難しさに悩んだ経験

今回お話をお伺いしたのは、関東圏で推し活関係の会社で働く28歳の会社員・ユメノさん。もともとはテレビ関係の企業で働いていましたが、好きが高じて現在は、推し活関係のグッズの企画・生産などを行う会社に転職したばかり。

そんな彼女の「推し」は、主に漫画・アニメ作品のキャラクターたち。特に応援しているのは、世界中で大ブームとなった少年漫画の登場人物。彼女は5年ほど前から推しキャラに傾倒するようになり、公式のグッズやコラボカフェ、イベントがある度に、できる範囲で課金を続けてきたといいます。

「家の中はもう、溢れんばかりのグッズで埋めつくされています。アニメや漫画全般が好きなので、他作品に二推し、三推しもいます。どの作品も、グッズやイベントの供給があれば、可能な限り課金をしています。

非オタの地元の友人には、よく“どこからそのお金が出てくるのか”と聞かれますが……多分、世の中の女の子がコスメや美容、飲み会やデートに使うお金を、私は推し活に使っているだけだと思います。最低限必要なコスメや洋服などは、セールを狙ったり海外通販を利用したりしながら、なるべく節約しています」

ユメノさんの給料の手取りは現在、残業代を含めて月30万円程度。休日はオタク友達とイベントに参加したり、好きな作品の鑑賞会などを行ったしして過ごすことが多いそうで、過処分時間の多くを推し活に費やしているのだそう。

そんなユメノさんですが、推し活が本格化した5年前以前は、自身のことを「そこらへんにいる普通の女の子だった」とも話します。

「小さい頃から女性アイドルなどを応援してはいましたが、推しにハマる前は、もっと普通の生活をしていたと思います。大学時代は彼氏が欲しくて相席屋に行ったこともあったし、実際サークル内で交際していた男性とは、6年ほど交際していました。しかし、私の推し活が原因でその彼と別れてからは、恋愛からは距離を置いています。

彼からは主にグッズで収納が圧迫されていること、彼とのデートに行く時にも、SNSを見る時間が長くなってしまったことなどを叱られ、推し活にかける時間やお金をセーブするように言われました。結局折り合いがつかず、同棲も解消して別れることになりました。付き合った当初は推し活をしていなかったので、私の急激な変化に耐えられなかったのかもしれません」

推しの供給「いつかなくなる」。将来に不安を抱えるも……

多様性が尊重される現代、28歳のユメノさんに彼氏がいないことは、そこまで珍しいこととは言えないでしょう。しかしユメノさん自身、最近は自分の推し活と、将来の過ごし方とのバランスに悩んでいるのだそうです。

「オタ友の中には私のように、リアルの恋愛からは離れているという人も多く、彼氏がいないからといって、ひとりぼっちの孤独感を覚えることはありません。だけど、私には7歳上の姉がおり、現在地元で婚活を行っているんです。実家に帰る度に、姉や母には“相手がいないなら、20代のうちに婚活してみてもいいんじゃないか”と言われて、ウンザリしているんです」

ユメノさんの悩みは、家族からのおせっかいなコメントに限りません。

「だけど……今一番の悩みは、いつまで推しの供給があるか分からないな、と感じていることです。漫画はとっくに連載を終了していて、まだ公式からの供給が尽きているわけではないものの、やっぱり全盛期と比べれば、新しいグッズやイベントの頻度も限られてきています。数年前は一緒にイベントに行っていた友人の中には“オタ卒”してグッズを全て処分した、という子も。

最近は二推し、三推しの作品の方が盛り上がってきていて、そっちで繋がった友達もいるのですが、なんとなく将来に不安を感じます。大好きな推しがいても、永遠にその子を応援できるわけじゃないし、次にまた同じくらい愛を持てる推しが見つかるかも分からない」

ユメノさんは今、推し活に軽い燃え尽き症候群のような症状を感じているのです。

推しに多額のお金や時間を費やしてきたユメノさんですが、推しに抱く感情は「恋愛とは違う」とも語ります。

「私の推しが二次元のキャラクターだから、よりそう思うのかもしれません。やっぱり彼は架空のキャラクターだし、私自身も彼が二次元のキャラだから好きだと思える部分があります。

彼氏がいた時には1年間同棲もしていたのですが、その時に抱いていた彼への思いは、推しへの気持ちとは全く違いますね。愛自体は推しへの愛の方が大きいですが、彼氏との日々には自分が愛されていると思える瞬間もあったので、そこが大きな差です」

彼氏との別れの原因は、彼に推し活を制限されそうになったこと。推しか彼氏かの選択を迫られる中で「推しを選んだことに後悔はない」とも語ってくれたユメノさんですが、自身が今選択している“恋愛断ち”の状況に関しては、苦悩も感じています。

「推しのために過ごしている時間が楽しいので、これまでは彼氏がいなくても、推し活やオタ友と過ごす時間だけで充実感がありました。明確に恋愛断ちしているというか、特別自分から求めていなかったというだけで、恋愛したくないと、断食しているわけではないんです。

だけど、元カレに推し活に苦言を呈されたことも、トラウマにはなっています。男性には理解されづらい趣味だろうとは思っていますし、自分を理解してくれる人が見つかると、ポジティブに考えられない」

「20代だと婚活には有利」と言われても……推しの最後を見届けたい

現在28歳のユメノさん。いわゆる「30歳の壁問題」の適齢期でもありますが、そのことが関係しているのかも聞いてみました。

「30歳を迎えることそのものはあまり気になっていないのですが、家族や地元の友人から“20代の婚活と30代の婚活は大違い”と言われることに、揺さぶられています。今は恋愛しなくても楽しく暮らしているけれど、自分が結婚しなくてもいいかと聞かれれば、正直なところいつかできたらいいなとは思っています。

20〜30代はいいとして、40代以降の自分が、推し活だけの人生に孤独を感じないで済むのかに、自信がありません。オタ友とは、一緒にオタク向けのシェアハウスに引越せばいい、なんて話していましたが、不確定な話だと分かっています。結局、ずっと1人で暮らすことは寂しいので、このままだといつか恋活や婚活をしなくてはいけないのではないかと考えています」

ユメノさんはお姉さんが婚活に難航していることもあり、現在お母さんからは「オタク向けの結婚相談所」への入会を進められているそう。しかし、いくらオタク向けとはいえ、婚活そのものには不安があり、入会金やお見合い代などに、費用が発生することも事実です。今の自分の状況には不安を感じていながらも、生きがいでもある推し活がしづらくなるような出費に、尻込みしてしまっています。

「やっぱり、今の自分にとっては推し活が一番大切だから。一推しだけでなく二推し、三推しの作品の熱が落ち着くまで、まだこのままでいたいと思ってしまいます。というより、今急に推し活を辞めて婚活したところで、リアルの男性に興味を持って、時間をかけて関係を構築していける自信がないです」

ユメノさんのような理由ではないにしろ、将来の自分に不安は感じていながらも、30代を前に、恋愛や結婚に向けて「今すぐに行動に移せるか」と聞かれれば、ためらいを感じてしまう人もいるのではないでしょうか。

推しを愛する暮らしに今満足しているものの、数十年先の自分の生活に不安を感じながら、行動や決断を先延ばしにしてしまっているユメノさん。

あなたはユメノさんの「愛のカタチ」を、どう考えますか?

(取材・文 久留米あぽろ)

※この記事は2025年06月24日に公開されたものです

久留米あぽろ (ライター・コラムニスト)

セクシャルウェルネス、ジェンダーなどに関心を持つライター・コラムニスト。女性向けの恋愛・婚活コラムの執筆、シナリオライターとしても活動。シズル感のある取材執筆も得意。日々気になるスポットに突撃し、個人的にレポートを溜め込んでいる。

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