「自分らしいリーダー像」の見つけ方。日本HPプリンティング事業本部長・沼田綾子さんの素顔
取材・文:ミクニシオリ
撮影:大嶋千尋
編集:中納俊/マイナビウーマン編集部
「飛び込んでみて初めて見える景色がある」。
そう話してくれたのは、日本HPのプリンティング事業本部長で女性リーダーとして活躍する、沼田綾子さん。
二児の子育てと両立しながらキャリアを構築する中、仕事に全力を注ぎきれなかった時期もありましたが、自分自身へのもどかしさや歯がゆさ、コミュニケーションの苦労にも向き合い、逃げずにひとつひとつ問題を解きほぐしたことで活路を見出したそう。現在は国内外の様々なチームと連携してビジネスを推進しています。
2019年から2023年まで 4 年にわたり日経産業新聞「女性管理職が語る」に寄稿するなど、自身の経験をもとにした次世代や女性リーダーの育成に尽力している沼田さんですが、当初は「リーダーとしての自信は全くなかった」のだそう。今はみんなに慕われる女性リーダーである沼田さんに、その半生を振り返っていただきました。
沼田綾子さん
日本HPのプリンティング事業本部長、日本HPリーダーシップチームの一員。2001年に日本HPの前身であるコンパックコンピュータに入社。以降、一貫してマーケティングを担当し、2017年から2023年までパーソナルシステムズ事業本部でコンシューマーPCの責任者を7年間務め、2024年より現職。現職ではインクジェットプリンターおよびレーザープリンター製品を担当し、ビジネス全体の責任を負う。ペーパーレス化が進む世の中で、デジタルとアナログを最適なバランスで組み合わせることを提案。
「ずっと続けられる仕事」を軸に、PC業界へ
Q.1 幼少期はどんな性格でしたか?
外で遊ぶのが好きで、木登りなどやんちゃな遊び方にハマっていた覚えもあるのですが、それと同じくらい読書が好きでした。図書館にもよく籠もっていましたね。裕福な家庭ではありませんでしたが、本は欲しいだけ買ってくれたので、学習雑誌などを毎月買ってもらって読むのが楽しみでした。
Q.2 どのようなご家庭で育ちましたか?
父はサラリーマンで、母は専業主婦の家庭です。だけど母は、本当は仕事を続けたい人だったと思います。小さい頃から「女の子でも、家庭を持っても仕事を続けなさい」と言い聞かされていたので、自分もなんとなく仕事をはじめたら、その生活をずっと続けるのだろうと思っていました。
Q.3 思春期は学校でどんな存在でしたか?
中学校の時に入っていたバスケ部は厳しくて、運動だけでなく成績の維持も求められました。そのおかげもあって、中学校では優等生的な立ち位置だったのですが、高校で進学校に入ると、周囲に優秀な子が増えて。途端に自信をなくしました。勉強も好きではなかったので吹奏楽部に入って、他の子と同じようにただ和気あいあいとしていたと思います。しかし高3になって、母から急きょ「大学は自宅から通える国公立しか行かせられない」と言われ、最後はがむしゃらに勉強に打ち込みました。その時、集中力の高さという自分の強みを発見できました。
Q.4 学生時代に注力したことはなんですか。
なんとか大学には受かったのですが、大学の授業が社会に出てどう役立つのかピンとこず、大学時代はバイトに明け暮れていました。家庭教師や飲食のバイトも楽しかったですが、一番長く続いたのは結婚式場でしたね。チームが一丸となってお客様の人生の大切な一日を作り上げることに、やりがいを感じていました。
Q.5 これまでのキャリア変遷を教えて下さい。
母に言われたことが心に残っていたので、就活の軸は「女性でも活躍でき、長く働ける会社に入ること」でした。最初に入社したのがソフトウェア関係の会社で、4年営業を経験した後、マーケティング職を志して転職活動を行い、PCメーカーであるコンパックコンピュータに転職しました。ECチームに配属され、広告戦略や販促など、幅広く携わることができました。途中で現在の日本HPと合併しましたが、そのままPC関係の事業に長く関わり、今年の1月にプリント事業部に異動しました。
リーダーとして目指すのは「対話重視のマネジメント」
Q.6 リーダー職に就いた時の心境を教えてください。
最初に部下を持ったのは2017年頃だったのですが、その頃には、上の子の受験も考えていたので、両立できる自信は全くなかったです。現に一度は、昇進をお断りしていました。子供の体調で急に休むこともありましたし、一日一日が精いっぱいで正直自分のキャリアなんて考えていられなかったんです。頭の片隅にはずっと、無理だったら辞めようという選択肢もありました。
ですが、その頃たまたま女性向けのキャリアトレーニングを受講していて、社外の女性管理職の方とお話する機会をいただきました。その方が「できると思って声をかけられたのだから、完璧に出来なくてもあなたのせいじゃないよ」と背中を押してくれて、マネージャー職も無理だったらその時にまた考えればいいと気楽に捉えることにしたんです。ですが、最初は本当に自信がなかったですね。
Q.7 リーダー職についてから大変だったことは?
色々ありますが、当初は女性リーダーも少なくて、ロールモデルがおらず悩むことが多かったです。周りで活躍しているのは強いリーダーシップを持っている方や、自分とはタイプが違う方ばかり。尊敬できる部分はあっても、自分からは遠すぎて……。肩の力が入りすぎていて、自分ひとりで抱え込んでしまって爆発したこともありました。
しかし、キャリアトレーニングを通じて他企業で活躍する女性リーダーに話を聞くうちに「どんなスーパーウーマンにも迷いはあるし、飛び込んでみて初めて見える景色がある」ことを知ったんです。だから、これからの日本を作っていく方々には、大変なことは色々あっても、やってみればなんとかなるよと伝えたいです。
Q.8 リーダー職として気をつけていることはありますか。
自分は「みんな私について来て!」と先頭に立って引っ張るタイプではないので、メンバーとの対話を重要視しています。なるべくみんなが納得感を持って前に進めるよう、自分の中で決めていることも、みんなと話し合ってチームの目標として共有するようにしています。
あとは、トラブルでしんどい時や大変な時ほど逃げ出さずに向き合うこと。そうした経験を経て、リーダーとしての胆力や自信が培われるし、周りからの信頼を得ることができると感じます。
それと、メンバーのやっていることに手を出しすぎないことも気をつけています。一応バックアッププランも考えておいて、間に合わなかった時だけサポートできるよう意識しています。
Q.9 仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?
マネージャーとしては、自分のチームメンバーの成長の瞬間を感じる時に、やりがいを感じます。目標は低すぎると成長している感じがしないし、高すぎる目標だと心が折れてしまうので、つま先立ちしたら手が届くくらいに設定するのがコツだと思っています。そうすると、もうちょっと高いところにも手が届く気がしますし、新しい景色を見たくて頑張っているメンバーを応援したくなるんですよね。
Q.10 仕事終わりやお休みの日は何をされていますか?
プレイヤー時代も長かったので、マネージャーになってすぐは抱え込みすぎて、必然的に働く時間も長くなってしまっていたのですが、今はメンバーのみんなにもしっかり頼りながら、上手に働けるよう工夫しています。自宅ではPodcastなどでラジオを楽しみながら、家事をこなしています。仕事と子育ての両立には体力も重要なので、数年前からパーソナルトレーニングにも通っています。
家庭用プリンターで「アナログとデジタル」2つの選択肢を持つ暮らしを実現する
Q.11 メンバーとはどんな関係ですか?
リモートワークが中心ですが、週に1日はメンバー全員で出社する日を決めて、リアルでもコミュニケーションするようにしています。会社としても全体で集まる機会を定期的に作ってくれているので、働きやすさと交流量のバランスがちょうどいいです。
Q.12 ストレス発散の方法を教えてください。
子育て中心できたので趣味らしい趣味はないのですが、映画を見るのが好きで、子育て中もよく映画館には行っていました。最近は毎週1本は気になるものを観に行きますね。配信サービスもよく利用するのですが、色々入りすぎているのでちょっともったいない気もしています……(笑)。
Q.13 どんなところに住んでいますか?
子育てと仕事の両立ができることを軸に家を購入したので、狭くても便のいい土地を選びました。学校や学童が近く、図書館や公園もあって子育て中も助けられました。
Q.14 マイブームはありますか?
プリンティング事業本部に来てからは、自宅でプリンターを使うのにハマっています。HP Smart Tankというシリーズを使っているのですが、ボトルでインクを補充できるので、カラープリントも気兼ねなく楽しめますし、写真もキレイに印刷できるので、アルバムを作って楽しんでいます。子供たちも学校でもらってくるスケジュール表などをプリントして、上手く利用しています。
Q.15 今後の展望を教えてください。
チームに来て間もないですが、生活の中でその便利さを思い知っています。自宅にプリンターがあることで暮らしがどう変わるのか、もっと積極的に発信していきたいと思っています。タンク型のプリンターが世の中にもっと広まれば、仕事もプライベートもさらに便利で豊かになると思っています。
世の中はデジタル化が進んでいますが、これからの時代は「アナログとデジタルの共存」が求められていくと思います。アナログとデジタルには別の利点がありますし、両方の良さを活かしながら、アウトプットの方法を考えることができるのがベストです。そんな世の中を実現できるよう、これからも尽力していきたいです。
※この記事は2024年09月30日に公開されたものです