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【#1】子どもと接する職業だからこそDINKsでいたい杏奈さんの場合・後編

#母にならない私たち

月岡ツキ

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施し、「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。

本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。

公立中学校の教員をしている森杏奈さん(仮名/35歳)は、学校で発達障害やいじめといった問題に悩む生徒や保護者と関わるうちに、自分の子どもを持ちたいと思えなくなってしまったという。しかし同い年の夫は「1人くらいは子どもが欲しい」「子育てってメリットしかないでしょ」と楽観的で、話し合いは進まない。

そんな杏奈さんは「既婚子なし」の立場であるがゆえに、職場で居心地の悪さを感じてしまうことがあるという。

前編の記事はこちらから

https://woman.mynavi.jp/article/240924-11_12000673/

出産したら朝礼で拍手+お祝い金

前に働いていた学校では、結婚しているということを伝えると「じゃあ子どもバンバン産まなきゃね!」と言ってくる先生がいました。

今の職場では「子どもはまだ?」などと聞かれることはありませんが、同僚の先生自身やその配偶者が妊娠・出産されると、朝礼で手を挙げて「〇〇先生、第二子ご誕生です!」みたいな感じで教員全員に報告し、全員で拍手するという文化があって、それがすごく嫌です。

報告と拍手にとどまらず、毎月「親睦会費」として徴収されているお金から、結婚や出産した先生(配偶者が出産した男性の先生も含む)にお祝いとしていくらか渡すという決まりもあります。

今の学校は月に5,000円徴収されて、体育祭や文化祭などの教員の打ち上げ費用などにも使われていて、余ったら年度末に戻ってくるのですが、出産や結婚のお祝いが多いとお金が戻ってこない年もあります。

教員同士の親睦会なんて年に何度もあるわけではないのに年間6万円も取られるのは財布に厳しいですし、私は今の学校にいるときに結婚したわけではないので、ずっと払いっぱなしです。

おめでたいことですし、出産に関しては周りが仕事をカバーするために報告は必要だと思いますが、みんなで拍手したりお金を徴収したりすることに、なんだかモヤモヤしてしまいます。人知れず不妊治療をしている先生や、ずっと独身の先生はどんな気持ちなのでしょう。

そもそも、職場が「結婚したら子どもがいるのが当たり前」「子どもが欲しいと思って当たり前」という空気なので、「あえて子どもを持ちたくない」という人の存在は見えていないのかもしれませんが。

子なしは蚊帳の外? 職場に感じる不満

職員室では、私の席の両隣と正面にいる先生全員が子持ちです。お子さんの発熱などで学校を休んだら、私が代わりに授業をしています。やむを得ないことだと思いつつ、それが賃金や評価に反映されることはありません。

言いにくいですが、子なしは蚊帳の外だと感じることもあります。たとえば、子持ちの先生たちは朝からずっと子育て談義に花を咲かせていて、「今朝もご飯を食べてくれなかった」とか「あの育児グッズが良かった」とか、すごく盛り上がっています。でも、挟まれている私は何も言えないし、苦笑いするしかなくて、居づらくなって席を立つことがしょっちゅうです。

でも、そんな先生たちを見ると、やっぱり大変そうだなとは思います。いつも時間に追われて慌てていたり、見るからに疲れ切ってイライラしていたり。自分に時間をかけられなくなるってすごく嫌だなと思ってしまいます。

ショッピングモールなどへ行くと、お子さん連れの方をたくさん見かけますが、「うらやましい」とか「やっぱり子どもが欲しい」と思うことは、正直全く無いんです。むしろ子どもがぐずったりして親が困っているところを見て「私は身軽で良かったな」と内心思ってしまうくらい。

いつも職場で子持ちの同僚に対して、肩身の狭い思いや損な役回りをしているから、反抗心が芽生えてしまうのかもしれませんが。

友達の出産報告を聞いても、もちろん「おめでとう」という気持ちはあるけど、「これから大変なんだな」という気持ちが勝ってしまいます。我ながら嫌な感じですが、「子どもがいる人がうらやましい」という感情が湧かないんです。

「圧倒的マイノリティ」でい続けることへの不安

同い年の夫とは友人の紹介で出会って交際し、大事にしている価値観や倫理観が似ているところに惹かれて結婚しました。前に付き合っていた人がお酒にだらしなかったので、生活習慣が整った暮らしを一緒に作っていける人が良かったんです。

最初は些細なことでケンカもしましたが、結婚して6年も経って、ようやく落ち着いてお互いを受容し合えるようになりました。ここに子どもがいたら、きっと育児のことでまたケンカをするでしょうし、お互い成長しながらまた関係性を築き直さなきゃいけないのかと考えると、気が遠くなります。

職場でも「仕事が忙しくて子どもとの時間が作れず、妻の気持ちが離れてしまい、離婚寸前」という男性同僚の話を聞きました。子どもを作ることって果たして夫婦にとって良いことなんだろうか? 子どもが原因で悪化する夫婦仲もあるのでは? などと考えてしまいます。

私は今の安定した夫との関係に満足していて、このままで良いと思うのですが、この安定感が夫にはちょっと物足りないのかもしれませんが……。

ただ、私も「子どもを持った方が良いのではないか」と思う瞬間が無いわけではありません。このまま既婚子なしという「圧倒的マイノリティ」でい続けることが本当に良いのか? 身体的に出産が難しい年齢になったとき、産まなかったことを後悔しないのか? と考えてしまう日もあります。

そんなときは、50代のDINKsの方のブログを読んだり、関連する本で情報収集したりして不安を抑えていますが、完璧に割り切れたわけではありません。

もし夫が「やっぱり絶対に子どもが欲しい」と強く望むようになったら、実際に授かれるかは分かりませんが、たくさん話し合った上でそういう方向で動くかもしれません。

逆に、夫が「やっぱり子どもはいらない」と言ってくれたら、私は正直安心する気がします。もう子どもの話をしなくて済むから。

私は夫と2人で過ごしたり、おしゃべりしているのが楽しくて、今の暮らしに心から満足しているんです。

私たち夫婦の共通の趣味は旅行で、年に1回は海外旅行をしたり、連休があれば国内もあちこち行ったりしてとても楽しいです。子どもができても旅行にたくさん行っている人はいますが、子どもが小さいうちは目的地や移動手段に制約ができて、大人が100%楽しむ旅行はできなくなるでしょう。

旅行以外でも、休日は2人でゆっくりNetflixを見たり、1人で気ままにショッピングしたり、夫はバスケの試合に行ったりと、お金と行動の面で自由度高く過ごせるのが、子なしの良いところです。

どうしたら夫との話し合いが着地するのか、どうしたら「後悔すること」への不安が解消されるのかはまだわかりませんが、もっと「子なし」を望む人の存在が世の中に受け入れられるようになったら、今より生きやすくなるのではないかと思います。

インタビュー後記(文:月岡ツキ)

子どもや保護者と関わる機会が多い人ほど、子育てのネガティブな面がよく見えてしまい、親になることを躊躇する、というのはしばしば聞く話である。しかし職業柄、そういった思いは吐露しにくいとも。

杏奈さんの夫が「生活に変化が欲しいから子どもが欲しい」「メリットしかない」と言えるのは、そういったネガティブな面に遭遇するシーンがあまりなかったからなのかもしれない。

以前と比べれば男性の育児参加は進んできているけれど、出産・育児で心身ともにダメージを受けたり、仕事や私生活に影響が出たりという「デメリット」を受け入れているのは、やはりまだまだ母親だ。

そして、そういったデメリットは「母親が働く職場」も受け入れざるを得なくなる。子どもの用事で仕事を休む役割が母親側に偏れば、その職場の誰かがいつもカバーに回る必要が出てくる(おそらく、そのほとんどが無給で)。

誰かにとっての「メリットしかない」育児は、他の誰かが代わりにデメリットを担い、偏った負担をしているからそう見えているに過ぎないのではないか。そして、“負担を受け入れる側”は透明化されやすい。

杏奈さんの夫が子育てに「メリットしかない」と言えてしまうことと、杏奈さんが職場でいつも損な役回りをしていることは、問題の根は同じであるような気がした。

子どもが嫌いなわけでも、子どもを育てている人が嫌いなわけでもない。それでも、「自分のような生き方が想定されていない」と感じる場所に身を置くことはつらいし、マジョリティに対して嫌な気持ちを抱くこともあるだろう。

杏奈さんは「子なしを選択した人と話したい。周りにあまり話せる人がいない」とインタビューに応じてくれた。「子どもを持たない選択」についてはまだまだ口にしづらい空気があるし、人に話せないからより孤立感を抱いてしまう。

結婚する・しない、子どもを持つ・持たない。人生の選択において優劣は無いのであれば、なぜ一方は肩身が狭くなるのか。そうさせるものは何か。そんな視点を忘れないでいたい。

(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)

※この記事は2024年09月25日に公開されたものです

月岡ツキ

1993年生まれ。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在は都内のベンチャー企業で働きつつ、ライター・コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。 プライベートではコロナ禍を機に長野県にUターン移住し、東京と行き来する生活に。
執筆業では働き方、移住、2拠点生活などのテーマのほか、既婚・DINKs(仮)として子供を持たない生き方について発信している。
X:@olunnun
Instagram:@tsukky_dayo
note:https://note.com/getsumen/

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