30歳までに追納すべき? 学生時代に猶予を受けた「国民年金の支払い」への考え方
働き方も、恋愛も、生活様式も、全てのあり方が少し前とは違う令和の今。数えきれない変化の裏にある「新マネーハック」を、さまざまな分野の専門家たちが回答します。今回の回答者は、丸山晴美さん。
今回のお悩み「学生時代に猶予してもらった国民年金の支払い、30歳までに追納すべき?」
大学生の頃、国民年金は「学生納付特例制度」を利用して支払いの猶予を受けていました。しかし、猶予期間は10年で、それまでに追納しないと将来もらえる年金の額も減ってしまうことを知りました。20歳の時の分は30歳のうちに追納しないといけないのですが、支払った方がいいのでしょうか?(20代後半・技術職)
そもそも「学生納付特例制度」って何?
20歳以上の方は、原則として毎月、国民年金保険料を納めることが義務となります。現時点(令和5年度)だと月に1万6,590円、年間で19万9,080円を支払う必要があるのです。
ただし、働いていないもしくは前年の所得が一定以下の学生の方(家族の方の所得は問いません)の場合、学生の間は「学生納付特例制度」を申請することで、在学中の保険料の納付が猶予されます。学生納付特例の承認を受けた期間は年金の受給取得期間として扱われますが、年金額には反映されないため保険料を納付した場合より将来の老齢基礎年金額は少なくなります。そのため年金額を増やす手段として、猶予を受けてから10年以内であれば保険料を追納することができるのです。
また、「学生納付特例制度」を利用せずに支払わないと、それは未納の扱いになります。受給取得期間としては認められません。
そして、相談者さんのように「学生納付特例制度」を利用すると、大学卒業から10年以内の追納を促すハガキが毎年届くようになります。
3年分の追納をする場合、金額はトータル55万円ほど。アラサーで収入も増えてきたので追納できないわけではないけれど、そもそも追納するべきなのか? 追納しないとどうなるのか? 追納せずにiDeCoやNISAなどで投資を始めたほうが得なのではないか? など悩んでしまいますよね。
10年以内に追納する・しないとどうなるの?
10年以内に追納した場合
追納は社会保険料控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。年収が300万円の新卒時代に40万円追納をした場合、所得税・住民税が最大約8年軽減されますが、年収が600万円になった10年後に55万円まとめて追納すればさらに節税効果が高くなります。タイミングを見てもいいかもしれません。
追納の注意事項としては、「学生納付特例制度」の承認を受けた期間の翌年度から数えて、3年度目以降に保険料を追納する場合は、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされてしまうので気をつけましょう。
10年以内に追納しなかった場合
追納しないと、その分の老齢基礎年金部分の年金額が少なくなります。だいたいの人は20〜22歳までの3年間分だと思いますが、大学院に進学した方はさらに少なくなります。
将来の基礎年金額を減らしたくないのであれば、追納した方がいいでしょう。
今、追納することが本当に得なのか?
ハガキが届くと追納を催促されている気持ちになりますが、急ぐ必要はありません。昇給して年収が上がり、生活に余裕ができたらでもいいと思います。
もちろん将来の年金額も大切ですが、まとまった金額を追納することで、家計が立ちいかなくなるのであれば、身も蓋もありませんので、その場合は今の生活を優先しましょう。
年金を損得で考えるものではありませんが、追納しないからといって、罰則等があるわけではありません。
あくまでも追納をすると基礎年金部分の減額部分がなくなるという話であって、それ以外にiDeCo(個人型確定拠出年金)で年金を自分で運用する方法もあります。iDeCoは全額所得控除ですので、所得税・住民税が軽減されるのもメリットと言えます。他にも運用益は非課税で再投資されるため利益が出やすいですし、年金受け取り時にも税制優遇を受けることができます。
NISAは、NISA口座内で投資をして得た利益に対する税金が非課税となるので、長期・積立・分散投資に向いています。iDeCoとは違い、全額所得控除にはなりませんが、保有資産を売却することで、現金化が可能です。
年齢的に若く年金に上乗せさせたいのであれば、iDeCoがおすすめです。ただし、iDeCoは、原則60歳まで資産を引き出すことができない点に注意しましょう。追納をすることは望ましいことですが、それだけが減額分の年金を補う方法というわけではありません。いろんな選択肢から選んでみましょう。
令和のマネーハック93
追納はタイミングやメリットを考えて。 iDeCoなどいろんな選択肢を比較して、自分に合った将来資金設計をしよう
(監修:丸山晴美、取材・文:高橋千里、イラスト:itabamoe)
※この記事は2024年02月19日に公開されたものです