【第4話】一人の女の子を苦しめた毒親の呪縛と、ちょっとした一言に出る人柄の違い
恋愛・婚活コラムニストのやまとなでし子さんが、フジテレビ木曜ドラマ『いちばんすきな花』を毎週考察&展開予想するコラムです。“男女の間に友情は成立するのか?”をテーマに、違う人生を歩んできた4人の男女が紡ぎ出す“友情”と“恋愛”を描く同作。それぞれの価値観を持つ4人が考える“本当に大切なもの”とは――。
※このコラムは『いちばんすきな花』4話までのネタバレを含んでいます。
美人や娘というパッケージばかり見られてきた夜々
美人だというだけで、周りに勝手に偏見を持たれて辛い思いをしてきた夜々(今田美桜)。
中身を見ようとしてくれないのは、周囲の人間だけではありません。1番身近な存在であるはずの夜々の母親(斉藤由貴)までもが、夜々に理想を押しつけていました。
女の子が欲しかった母は、4人兄弟の中でも優劣をつけ、唯一の女子である夜々を1番大切に扱ってきました。「理想の女の子」としての役目を夜々に求め、かわいい服を着せ、お人形で遊ばせ、好きな色はピンクと決めつける。
加えて極度の過干渉。勝手に夜々のLINEを覗き、友人関係を全て把握したがったり、グループに男性がいないかを確認したりするなど、26歳の女性に対する接し方とは思えない過保護っぷりです。
そして、自分の“理想の夜々”から外れる言動があれば、それは周囲のせい。それが本当の夜々の姿であるとは微塵も思わないよう。
周囲の人間どころか、一番の理解者であるはずの母までが夜々の中身を見ることなく、役割や理想を決めつけ、それに応えようと生きる夜々はさぞ息苦しかったことでしょう。
女でいたいけど、女であることに辛くなる瞬間
そんな中で出会った、それぞれ人間関係に悩みを抱えるあの3人の友人達。
彼らは自分の辛さを抱えている分、人の辛さもよく分かる。夜々の中身を知ろうと努力し、寄り添ってくれる彼らとの出会いをきっかけに、母親への不満や辛さが爆発します。
母の元から逃げるように立ち去る夜々。向かう先は4人の部室、椿(松下洸平)の家。椿は空気を読み、紅葉(神尾楓珠)を連れ出し、ゆくえ(多部未華子)と二人きりにします。
「女でいたいけど、女として生きることが辛くなることがある」という悩みを吐露する夜々。きっと彼女には、今までこんなふうに本音を言える相手もいなかったのでしょう。
女でいたいし、男になりたいわけじゃないのだけれど、女という役割を勝手に決めつけられ、求められる辛さって、私たちの日常でもあること。
当てはめることでコミュニケーションをサボってはいけない
「当てはまらないものって不安なんだろうね」という、ゆくえの言葉もありましたが、当てはめることって楽なんですよね。答えが1つなら、それに従えばいいだけだから。
例えば性別が女ならこうあるべき、という画一的な古い価値観にとらわれることって、接する側は何も考えなくていいから楽なのでしょうけど、受け手側はたまったものではありません。実際に夜々は行く先々で、美人、女性、娘と言ったさまざまなカテゴライズから、勝手に役割を期待され、偏見に苦しんでいました。
個を見る多様性の時代。何事も決められたことってなくて、性も、感情も、個性も人それぞれ。その人を知って、認めて、接していくことが大切なのだと、私達自身にもグッとくるものがありました。
愛情の押しつけは愛ではない
これをきっかけに、ずっと抱え続けてきた自分の気持ちを母親にハッキリと伝えることができた夜々。母親が嫌いなわけじゃない。大好きだけど、嫌いなところがある、と、人間性を否定するのではなく、言動だけを否定する伝え方も素晴らしかった。
ふたを開ければ、母親の言動の理由は「自分が昔、女の子として親にしてほしかったことを夜々にしてあげていた」というもの。これは純粋に夜々への愛情からなのか、それともその先にある、過去の自分を慰めるための自己愛なのか。
受け手がどう思うのかが全てではありますが、母はよかれと思ってやっていたことが、実は相手を苦しめていたというのは皮肉なものです。自分の愛情を押しつけることは決して愛ではなく、相手が求めているものを知ろうと努力し、与えることが本当の愛。
本当の自分をやっと伝えることができた夜々。母娘の本当の関係構築はここからです。
始まる恋の予感! カップリングはここだったか!
夜々の元に髪を切りに来た椿。そこには、“2度目以降の二人きり”が苦手とは思えない、とても饒舌な本来の椿の姿がありました。
本当の自分を全く見せられなかった元婚約者・純恋(臼田あさ美)相手とは対照的な姿。饒舌さに突っ込む夜々に対し、「初対面の時からこうでしょ」と返す椿のセリフがありましたが、これは初対面だけ自分を出せる椿が、今も継続して本当の自分を見せることができている証。今後二人の仲が接近する予感です。
そして、夜々の「もしうちの母に会う機会があったら、26歳女子の椿ちゃんてことで押し通してください」というやりとりがありました。これは過干渉の母から男性の影を隠すためのうそからでた冗談ですが、これは夜々母と椿が今後会うことになるフラグなのでは?
夜々に刺さった? 椿の言葉
軽快に話題がはずむ椿と夜々。椿の好きな花の話題になると、「(実家が花屋で花に囲まれていたから)1番とかはないかな。1番て決めちゃうのが申し訳なくて」と椿らしい回答をしていました。
見た目から、勝手にクラスの中心人物や1番として決めつけられ、嫌な思いをしてきた夜々。彼女にとってこの言葉は、それぞれの個性を認めて、勝手な順列をつけない椿の人柄を魅力的に感じるのに十分なものだったのではないでしょうか。
しかし、もし椿とくっつくことがあれば、夜々の美容室の同僚で「客である椿を狙ってるのか? 既婚だぞ」と決めつけてきたあの女が黙ってなさそうですね。「客の男を嫁から略奪した!」とかあらぬ噂が立てられそうで少し心配です。
温厚になった神尾楓珠
もう一方でもひっそりと恋が始まっていました。
「椿が(人として)好き」というゆくえの言葉に紅葉が過剰反応したり、「今度はどっか(ご飯を)食べに行こうよ」とゆくえを食事に誘ってみたり、と実は幼馴染でありながら紅葉はゆくえに恋心を抱いていたよう。
食事の誘いは、みんなでと勘違いされ、ゆくえにはスルーされていましたが、この気持ちが届いた時に、せっかく生まれた4人組の関係がどうなってしまうのかも少し心配ですね。
しかしこれ、前シーズンドラマの『真夏のシンデレラ(フジテレビ系)』の神尾楓珠なら、「椿が好き」と聞いた瞬間、椿に逆ギレして「お前じゃゆくえを幸せにできない!」とかマウントとりながら殴りに行っていてもおかしくないキャラでしたから、今回の神尾楓珠は非常に温厚で常識をわきまえていていいですね。平和。
ちょっとした一言に出る人柄の違い
ちょっとした言葉遣いでも彼らの人柄が垣間見えます。
例えば、ゆくえが夜々に「ピザでいい?」と聞くと、夜々は「ピザ『が』いいです」と返す場面。ここが「で」になるだけで、大きく意味合いが変わってきます。
また、椿の昭和言葉シリーズ、「おむすび」「ポッケ」「でんでん虫」もほっこりしますよね。
夜々のストーカー逆ギレ同僚男は、夜々がお客様のシャンプーをお願いした時に、お客様を物のように「どれ?」呼ばわりする、相変わらずのクソっぷりでしたが、こういった小さな言葉遣いに人柄って出るものです。夜々に「内側から愛される人になれ」って言ってきたあのセリフ、改めてお返ししたい。
次回はゆくえの回。赤田(仲野大賀)との突然の再会が、何を巻き起こすのか期待です。
(やまとなでし子)
※この記事は2023年11月09日に公開されたものです