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有村架純の“孤独”との向き合い方。映画『ちひろさん』とリンクした「今自分が伝えたいこと」

スペシャルインタビュー

瑞姫

元風俗嬢であることを隠そうとせず、海辺の小さな街にある弁当屋でひょうひょうと働く女性・ちひろさん。それぞれの孤独を抱えた人たちが、彼女のもとに引き寄せられるように集まり癒やされていく映画『ちひろさん』で、主演を演じる有村架純さんはこの映画にどう向き合い、何を思ったのか。“心のままに生きること”の大切さや難しさ、“孤独”との向き合い方について聞きました。

取材・文:瑞姫
撮影:大嶋千尋
編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部
ヘアメイク:尾曲いずみ
スタイリスト: 瀬川結美子

映画『ちひろさん』のオファーがあったのは、世の中が大きく変化したコロナ禍だと話す有村架純さん。当時、自身もさまざまなことに直面し、“生きる”ということについて改めて考えていた時、製作サイドの思いを聞き、「今、自分が伝えたいこととリンクした」ことが、出演の決め手となったと明かしてくれました。

名言のような、心にスッと染み込む台詞も多く登場し、人との距離や孤独との向き合い方、心のままに生きるということを描いた漫画を原作とした今作は、有村さんが自分自身と向き合う中で見つけた“風通しの良い生き方”と通ずるものがあったと言います。

ちひろさんというキャラクターを通して見えたもの

――最初にオファーをもらった時のお気持ちを教えてください。

原作を読んですごく好きな作品でしたし、ちひろさんというキャラクターがビジュアル面も含め、自分と全く真逆の人間だと思ったので、その部分は「自分の限界を超えて挑戦しなければいけないな」と感じ、怖い部分ではありました。

けれど、それよりもこの作品を見て、社会に対して生きづらさや、対人関係で悩んだりされている方に届いてほしいなという気持ちが大きかったです。

――役作りで苦戦した部分はありますか?

私がイメージしていたちひろさんの女性像は、女性らしさではないかっこよさがありながら、目が離せない色気があるとか、魅力的な要素が沢山ある人。ただ、正直私のビジュアルはちひろさんのイメージではなかったんです。

そうなった時に、これまで培ってきた経験を覆すことや雰囲気を変えることはなかなか難しいと感じたので、技術的に声を低くするとか、喋り方を少しゆっくりにしてみるとか、言葉からにじむ色だったりを、“ある一定のものにする”ぐらいしかできることはなかったように思います。

ただ、ちひろさんは少しニュアンスを間違えると「何でも受け入れてあげるよ」みたいなキャラクターになってしまうので、あくまでそんなに人に興味がない……自ら踏み込んで手を差し伸べるっていうよりも、人との距離感に粘度を感じないようなカラッとした人柄になるようには意識しました

――映画を観ていると、すごく有村さんにぴったりだなと思いました。ちひろさんというキャラクターを演じてみて、感じたことはありますか?

ちひろさんにはちひろさんにしかない考え方や行動があるので、私にはない視点で物事を見ることができたのはすごく新鮮で勉強になりました。

ただ、私自身が過去に人との距離感に悩んでいた時期もあったので、「自分自身の心地のいい場所っていうのはどこだろう?」というのを20代の間に学んだ今、それが身について、ようやくここ三年ぐらいの間に見つかったように思うんです。

なので、ちひろさんのような“風通しの良い生き方”っていうのが、ちょうど撮影をしたくらいには分かるようになりましたね。

「孤独ってそんなに怖くない」有村架純の孤独との向き合い方

――「ちひろさん」は孤独であることを大切にしているキャラクターですが、一般的に孤独であることは「寂しいこと」「怖いこと」と捉える人が多いように思います。有村さんは「孤独」に対してどのようなイメージを持っていますか?

私は孤独に対するネガティブな気持ちというのはあまりないです。もちろん、人と関わることによって気持ちが豊かになることはあると思いますが、無理して周りの価値観を大事にし続けて、人と関わることはしなくてもいいんじゃないかなと。

人に合わせる必要もないし、人を傷つける生き方さえしなければそれで良い。ちひろさんに実際救われている人がいるわけだし。正義のヒーローにならなくても、周りがヒーローだって思える存在って、すばらしい生き方だなと、私はうらやましく思います。

それに、人はみんな孤独だと思っています。パートナーがいたとしても、結婚していて夫婦だとしても、人は多分死ぬまで孤独。人と人が分かり合うには、どれだけ時間をかけて、積み重ねていたとしても、知らない部分もあったりする。考え方だってどんどん変わっていくし……。

ふとした時に孤独を感じるというのは、生きていたら誰しもがあることなので。そう思ったら孤独ってそんなに怖くないかなって。

――孤独であることを大切にするちひろさんと少し似ているかもしれませんね。

そうですね。よく「この仕事って孤独な戦いだよね」というのを、役者仲間もそうですし、監督にも言われていました。主演をさせていただく時は特に。

私自身、私生活を穏やかに過ごしたいタイプで、気持ちに波があるよりもフラットで居たいと思っているので、そこの感覚はちひろさんと同じだなとは思います。

――なるほど。ちひろさんは「距離感の見つめ直し」をできる作品かなと思ったのですが、演じる前と後で有村さん自身の人との距離感に変化はありましたか?

私はそもそも人にも物にもそんなに執着しないです。物を失くしてしまったらショックですけど「今までありがとう!」「さよなら!」という気持ちで(笑)。

人との縁に対しても「今じゃないんだな」と思える性格なので、その時は「もっとこうだったら良かったのかな」と思うことはあっても、人との出会いも別れもタイミングだと思うし、必要ならばまたその機会は舞い降りてくるかなと。人との距離感というのは、私は潔いタイプかもしれません。

“心のままに生きる”ために大切な線引き

――ちひろさんは人によって態度を変えることなく、心のままに生きているキャラクターですが、そういった生き方に憧れつつも実際は難しい……という人も多いように思います。「心のままに生きること」を有村さんはどのように思いますか?

「心のままに生きる」と言っても、そこには守るべきものや秩序というのはあると思います。例えば、“心のままに”と言っても、自分の言葉選び一つで相手を傷つけてしまうこともある。なので、何か言いたいことがあっても、言い方に気をつけるとか、そう言った注意事項というのは、自分の中で作らないといけないと思います。

わがままと自由は全然違うので、その線引きを自分の中でうまく考えられると、周りの人は何も言わないと思うし、もっと楽になるんじゃないかなと。

――ちなみに有村さんが自分らしく人と関わるために、気をつけていることはありますか?

言葉に責任を持つことですかね。私も昨日言ったことと、今日言ったことが違ったりして矛盾することはあるので完璧ではないですけど、言葉になるべくトゲがないように伝えたりすることは気をつけています

あとは、何か私は家にいる方が好きで、家でお友達と一対一で話したりすることが多くて、大人数でお出かけしたりとかあまりしない方です。でも、たまに何人かで食事する機会があった時に、「楽しんでないのかな?」と思われないように、いつもよりしゃべったりするんですけど、帰った後に凄く心配になってしまいます。「あんなこと言ったけど、あれ大丈夫だったかな?」とか。

そういうことをすごく気にしてしまって疲れてしまうので、そうなると「自分らしくいれてなかったかも」って。

――家で一人で反省会をするタイプなんですね(笑)。

そうですね。ちょっと面倒くさいタイプなんです(笑)。だから、友達と会うときは落ち着いていられる一対一で会うことが多いですね。

――では最後に、映画を観た人に、ちひろさんというキャラクターを通して伝えたいことを教えてください。

コロナ禍で色々な物事が変化した三年間を経てこの作品が公開されるということは、すごくいいタイミングだったのかなと思います。

例えば「行きたくないけど、飲み会に誘われたから行かなきゃ」とか、そういう無理していた人付き合いっていうものに対して、「この距離感でいいんだ」「無理して頑張る必要ないんだ」と再確認できるよう機会になったと思うので、この映画『ちひろさん』を通して、改めてもっともっと、自分自身に向き合って、自分の幸せのために生きていってもいいんじゃないかと思える作品だなと思います。

Information

『ちひろさん』

熱狂的支持を集める漫画『ちひろさん』がついに映画化。きっと彼女に、会いたくなる―。

ちひろは、海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働く元・風俗嬢。ちょっと口が悪くて、マイペース。そして自由。そんな彼女は街で浮いている。へんな“おとな”だ。

でもなんでだろう、彼女に会いたい。

ひとり母の帰りを待つ小学生、自分の心が見つからない女子高生、そして無口なホームレスのおじさん……ちひろの優しくない言葉と素っ気ない態度が、さびしくて不思議とあったかい。
軽やかに、心のままに生きるちひろと、ちひろと出会う人々―彼らの孤独と癒しの小さな物語。

©2023 Asmik Ace, Inc. ©安田弘之(秋田書店)2014

2月23日(木・祝)Netflix世界配信スタート!

全国劇場にて公開!

出演:有村架純
豊嶋花、嶋田鉄太、van
若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子
鈴木慶一、根岸季衣、平田満
リリー・フランキー、風吹ジュン

原作:安田弘之『ちひろさん』(秋田書店「秋田レディース・コミックス・デラックス」刊)
監督:今泉力哉脚本:澤井香織今泉力哉
製作:Netflix、アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、デジタル・フロンティア
配給:アスミック・エース

 

※この記事は2023年02月20日に公開されたものです

瑞姫

フリーランスの取材・インタビューライター、コラムニスト。主にエンタメ、トレンド、グルメ、ビジネスカテゴリで活動中。

Twitter @mizuki32k
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