女性のためのスポットが充実。女子2人で競馬場に行ってみた
「競馬場=おじさんの遊び場」ってイメージはもう古い? この連載では、競馬をにわかにかじり始めたライターいくえちゃんが、初心者女子でも競馬観戦を楽しむポイントを教えます!
みなさん、こんにちは。「もう、にわか競馬女子と言わせないわ」と思い始めたいくえちゃんです。
今回は、お見合いじゃなく、社内レクリエーションのにぎわせでもない、ガチな競馬場デビューを果たした、そのレポートをお届けします。
のんびりスタートでガツガツしない
参加したのは、ある日曜日の中山競馬場です。そして今回は、私のお出かけの最強バディー「せいこちゃん」も一緒です。実はせいこちゃん、ガチガチのエリート銀行員。毎日、ノルマと戦いながら、コンビニ弁当を食べ、お金持ちの方々に笑顔で接する生活を送っていて、お金にはかなりシビアです。
待ち合わせは西船橋駅に11時30分。レースは9時から開催されているのですが、「にわか」はガツガツしないことが大切。競馬場ではなく、自分の都合に合わせます。朝7時には銀行に出社しているせいこちゃんにはどうってこともない集合時間だけれど、毎日在宅で8時起床の私には、11時30分はちょっと早めです。
「競馬がある日は道が混んでいるんだよね」と嫌がる運転手さんのことばは聞こえなかったことにして、タクシーで中山競馬場へ。門の前で降り、中へ進んで行っても人はほぼゼロ、案内係の人が暇そうに立っています。大きなコンクリートの、整然とした建築物に、「おぉ!」と感激している建築好きの私の横で、せいこちゃんは早速、新聞を購入、500円也。
到着すると、ちょうど昼の時間。まずは食事の場所を探します。入場する時、入口で場内の案内図をもらったのですが、それを見ながら相談する余裕のない腹ペコ女子は、競馬場の案内係の方にお声がけ。「ご飯、食べたいのですけど」って聞くと、ファストフードプラザを案内していただきました。
ファストフードプラザに行くと、カレー、そば、ラーメンなど早食いの定番メニューが並びます。さらに奥には牛丼でおなじみ吉野家まで。なにせ、レースとレースの間は30分ほどですから、その間に食事をして、パドックを見て、予想して馬券購入まで行わなくてはいけません。我々がいただいたラーメンも、比較的浅めのどんぶりで、温かいラーメンでもかきこめる工夫がされています。また、レースが終わる時間を見計らって、大量のラーメンが準備されており、長蛇の列は効率的に短くなっていきます。しかもラーメンの価格は700円前後。街の有名ラーメン屋さんと同等の味とはいきませんが、コスパよしではあります。
なお、今回慌てていたので気がつかなかったのですが、おしゃれなビアホール「銀座ライオン」、立ち食い蕎麦の「梅屋」、「築地銀だこ」をはじめ、すし屋、とんかつ屋、有名ラーメン店などもあり、「短時間で食べられるもの」という縛りはあるものの、ガッツあるメニューは豊富で、好きな食べ物、食べ方が楽しめます。それから、ソフトクリーム、アメリカンドッグ、フライドチキンと軽食が豊富なのも、競馬場ならではなのかも。最近、中止が続いているお祭りや花見の気分です。
競馬場の醍醐味は、これ!
現在、競馬場は新型コロナ感染対策のため、予約がないと入場ができないのと、優雅に競馬を楽しむ女子をイメージして、今回は特別に指定席を予約することにしました。とはいえ、どこがいい席なのか、判断に迷うところ。そこでまず考えた条件は、雨が降っても濡れずに、ゆっくり座ってモニターを見られる空間であること。それでもどのシートにすべきか判断できず、最終的には3,000円という料金で判断。「これくらい出せば、落ち着いて楽しめるんじゃない」。根拠がないなら、なんとなくって大切です。
我々が入手したのはK-Seatの前から1列目と2列目。K-Seatは1人席ですが、ここにもコロナ感染への配慮で、隣同士で座ることはできません。だから自然とせいこちゃんとの会話も少なくなり、予想に集中することになります。私は無料で配布される「RACING PROGRAM(出馬表)」から好みのジョッキーの名前を探しながら、せいこちゃんは競馬新聞と語り合いながら、それぞれマークシートをぬりつぶしていきます。なにぶん、レースとレースの間は30分。急がないと締め切りに間に合わなくなってしまい、それは大学受験のためマークシートを塗りつぶし続けた高校生活を否定することにもなるような気がして、必死です。
自動販売機で、馬券を購入、次はなにをするかなんてダラダラおしゃべりしていると、周囲が慌ただしくなり、馬場方面へ走り出している人が目立ちはじめ……。私もせいこちゃんも、みんなと同じ方向に走り出していました。そしてそこは、馬を目の前で見ることができる屋外の立ち見の空間。
「あ!」と声が出るかどうかの瞬間、10数頭の馬たちの姿と、予想を超える速いリズムで刻む蹄の音が、右側から現れて左に去っていきました。翼で飛んでいるような、それでいて、心地よく地面に響くビートは、私たちを現実の世界から切り離してくれます。これぞ、競馬場の醍醐味! なんと美しくて、迫力があるのでしょう。来てよかった!!
競馬場を「余すことなく楽しむ」に全力を尽くす
そして、優雅な時間のために3,000円のK-Seatを確保したのに、我々は「お馬さん」追っかけを始めてしまいました。
席に戻って、数レースをまとめて予想した後、馬券をまとめて購入すると、どの馬の馬券を購入したかも忘れ、立ち見スペースでレースを熱く観戦。合間はパドックで歩く馬を見て「きれいね」を連呼。パドック内では、厩務員さんにベトーッと甘えている子、厩務員さんと歩調を合わせ颯爽に歩く子、キョロキョロしながら落ち着きなく引かれている子と、いろいろなお馬さんがいて楽しめます。また、パドック内にはお馬さんのうんちがあちこちに落ちていて、ちょっとだけ臭ったりもするけど、マスクがいい仕事をしてくれますから、それも愛嬌です。
メインの11レースが近づくにつれ、場内は混み合ってきます。その上、場内の雰囲気に慣れてくると、いろいろな風景が私たちの目に入ってくるようにもなります。
来場者は案外、家族連れが多く、ベビーカーをよく見かけます。また、お弁当を持ってきて、ピクニック気分で来場しているグループも多く、場内のセブインイレブンのお弁当やおにぎり、サンドイッチの類はお昼すぎには売り切れ状態だし、アイスクリームを売っている店には長蛇の列。みんなテーマパークにいるみたいに楽しんでいます。
もちろん、WINSで見かけたディープな方々もおいでになります。水筒と自前のおにぎりを片手に、ずっと競馬場で生活しているのかのごとく、床に広げた新聞紙の上にたくさんの荷物を並べている初老の男性や、なぜかイスに広げた競馬新聞の上に座って真剣に予想を行うホンモノの競馬女子。有料のK-Seatにも、テーブルの上にたくさんの調味料を並べて、食事を楽しみながら観戦している方がいたり、逆にパソコンを持ち込み、馬券を買うために席を外すこともなく、スマートに予想を楽しんでいる方もいたりと、普段の生活ではなかなか出会えない方々がいて、挙げるときりがない気もしますが、それもこれも競馬場らしさを感じられる風景です。
また、場内には通常のトイレの他、中心の手洗い場を個室が囲むスタイルの女性用ラグジュアリートイレがあったり、競馬場でしか売ってないグッズがそろうターフィーショップがあったりで、女子には押さえておきたい場所が盛りだくさん。落ちついてられない気分になります。広い場内を上下、左右に走り回っているうちに、もはや自分がどこにいるのか分からなくなったりもしますが、競馬場の案内係があちこちに配置されているので、声をかければOK。ついでにおすすめスポットも教えてくれたりもします。
ちなみに中山競馬場には、競馬女子のための「UMAJO SOPT」もあります。ただ、1時間しか滞在できず、飲食の持ち込みもできず、特にランチの時間帯は混雑しているので、ゆっくりできるスペースとは言えません。そんな時には、無駄と思われるK-Seatがベース基地として役に立ちます。ほとんどの時間K-Seatにはいなかったものの、K-Seatに戻るとホッとします。
競馬も遠足と同じ「家に帰るまで」が競馬
メインの11レースを興奮のうちに終えると、12レースを残して、一緒に熱くレースを観戦していた人たちが、三々五々、船橋法典駅に向かう地下通路に吸い込まれていきます。しかし、帰りも西船橋駅までタクシーを使うつもりの我々の「お馬さん熱」はまだまだ上昇中。心なしか人が減った場内を、「お馬さん」と呪文のように口にしながら、あっちこっちと走り回ります。
最終12レースを屋外の立ち見スペースで観戦後、やっと我に戻り、せいこちゃん、私とそれぞれに反省や感想を口にしながら、ベース基地のK-Seatに戻り、身支度を整え、馬券の払い戻しをしようと、当日購入した馬券全てを手に自動払戻機に向かいます。が、全て「中止」の文字が表示され、払戻ができなくなっています。「おー! 私たちの払戻金はどうなる」。
急に少なくなった案内係を探し、払戻を行っている払戻機の場所を教えてもらって、やっとの思いで払戻を済ませました。
人が引けてしまった競馬場の門を出ると、道路には駐車場から出てくる車で大渋滞。タクシーが通りそうな気配すらなく、行きのタクシーの運転手さんが競馬場に行くのを嫌がっていたことばが今になって思い出されます。仕方なく、バスに乗ろうと、競馬場にある臨時バスの時刻表をみても、とっくに最終バスは終わっています。結局、我々はGoogleマップに案内してもらいながら、30分の駅まで道のりをトボトボと歩くことに。無言で重い足を進める我々の横を、馬を乗せたと思われる大きなトラックが数台、走り抜けて行きました。
行くことだけに気を取られ、帰りのことを考えない、ありがちなお出かけ。遠足の予定が終わり解散する前、先生が言っていた「遠足は家に帰るまでが遠足です」がここに来て身に染みます。
(文:いくえちゃん、イラスト:ユリコフ・カワヒロ)
※この記事は2022年03月31日に公開されたものです