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なぜ競走馬は美しいのか、考えてみた。―もし、私が競走馬だったら―

#にわか競馬女子

いくえちゃん

「競馬場=おじさんの遊び場」ってイメージはもう古い? この連載では、競馬をにわかにかじり始めたライターいくえちゃんが、初心者女子でも競馬観戦を楽しむポイントを教えます!

みなさんこんにちは。緊急事態宣言が明け、お出かけしようと予定を立てていたら、右足を骨折して、結局、変わらず自宅待機しているライターのいくえちゃんです。

突然ですが、明治の初めくらいまで、軍馬も含め日本で乗られていた馬は、とても小さかったって知っていますか?

私は先日たまたま見たテレビでこれを知って、愕然としました。日本の在来馬って、背中がちょうど人間の胸の高さあたりという小ささで、愛嬌があって、かわいいのですが“ずんぐりむっくり”という感じ。人間が馬に乗っても、立っている時とそれほど目線は変わらないのかもって思えるくらいです。

こんな小さな馬だったら、NHKの大河ドラマで、武将が鎧をつけて馬を走らせるシーンって成立しないんじゃないかと。人間が走った方が、実は速かったじゃないかと。そんなことを考えて、モヤモヤしています。

ということで今回は、レースで活躍する競走馬は、なぜあれほど美しくスマートに走るのか、自分が競走馬になった気分で考えてみました。

競走馬は300年くらい前に人間が作った品種

十勝ばんえい競馬などを除いて、現在日本の競馬場で走っている馬は、ほとんどがサラブレッドと呼ばれる品種の馬です。「サラブレッド」って人にも使いますが、血筋、家柄のよい人のことを言いますよね。

競走馬として走るサラブレッドは、イギリスでここ300年くらいの間に、人間が意図的に優秀な馬を掛け合わせることによって作られた馬なんだそうです。ヨーロッパにも古代から馬は飼われていましたが、当時からイギリスやイタリアなどの在来馬よりも、北アフリカ産やシリア産の馬の方が大きくて優秀とされていたみたいです。

JRAのWebサイトには、「3大始祖」として3頭の馬が紹介されています(※)。名前は「ダーレーアラビアン(推定1700年生)」「ゴドルフィンアラビアン(またはゴドルフィンバルブともいう、推定1724年生)」「バイアリーターク(推定1680年生)」。

3大始祖が登場する前までは、現代につながる競馬の発祥の地イギリスでも北アフリカやシリアから馬を買いつけて競走馬としていたそうですが、その後は、3大始祖の馬を掛け合わせるようになりました。

また『競馬の世界史』(本村凌二著/中公新書)によると、3大始祖の中でも、ダーレーアラビアンの4代あと、人間で言えば玄孫(やしゃご)のさらに息子にあたる、1764年生まれの「エクリプス」という馬は、2年間18レースで全勝、生涯一度も鞭を入れられることなく、全力疾走を強いられることもなかったらしく、現在でも伝説の馬とされているそうです。

競馬といえば、最後に馬が鞭でお尻を叩かれるイメージがあるけれど、早く走ることができれば叩かれることはないのか、と納得。現在のサラブレッドの直父系をさかのぼれば、9割以上がエクリプスにたどり着くのだそう。

ちなみに、日本にサラブレッドが入ってきたのは明治10年(1877年)、本格的に飼われ、数を増やしていったのは明治40年(1907年)だそう。最近は映画やドラマだけでなく、地域で行われるお祭りでも、サラブレットが使われるケースが多いようですよね。

競走馬に自由な恋愛は許されない

人間が速く走る馬を意図的に作るようになった理由は、いろいろと歴史があるのですが、本当に簡単に、かなり丸めて言うと、「競馬が賭けの対象になった」から。で、18世紀ごろから、優秀な馬同士を掛け合わせることを始めました。

これ、具体的に言うと、優秀な種牡馬(しゅぼば)の種を優秀な牝馬(ひんば)の体内に入れて、子どもを作るということ。種牡馬は「たねうま」とも言います。人気のある種牡馬は100頭以上の牝馬に種付けすることもあるそうです。

男子にとって種牡馬は、大奥にいる将軍様のような、あこがれの生活だと思えるかもしれません。でも、よく考えてください。どんなに人気の馬といえども、農村の村娘が気に入ったからといって、将軍様のように、その娘と結ばれることはありません。逆に、どんなに好みの女子でなくても、人に言われれば役割を果たすしかありません。

そして、女子も自由な恋愛が許されないことは同じ。「私、ちょっとダメなタイプが好きなの」という女子の希望はかなえられることはなく、常に人気スターが夫。その夫はたくさんの妻を持ち、もう2度と会わないかもしれない。こう考えると、スター馬でも自由な恋愛は許されない、というのが、本当の競走馬の姿ということになりますよね。

いろいろと探しているうちに、種付け料が一覧になっているサイトを見つけてしまいました。各種牡馬の種付け料金が、ケースごとに記載されています。大切な情報ではありますが、すでに私は馬を人に置き換えて見てしまい、なんだか、切なささえも感じてしまいました。

競走馬になるための試練と競走馬になってからの試練

馬の妊娠期間は約11カ月、生まれて半年ほどで親元を離れて、トレーニングに入ります。最初は基礎体力づくり、その後、人を乗せる準備に入り、そのうちに人を乗せて運動するようになり、デビューに向けた調教とステップを踏んでいくのだそうです。

ところで、馬も人間と同じく、体型や脚質によってどの競技に合っているか、判断をされるそうです。人間も長距離走を走る人は比較的小柄な人が多いと感じますが、馬も同じらしく、小柄な馬は長距離、筋肉質の馬は短距離というように分けられます。もうすっかり馬になった気分の私だったら、どんな競技にいくのだろうと、考えてしまいます。

晴れてデビューを果たした競走馬は、毎朝、調教師に検温を受け調教。調教が終わると、シャワー、ブラッシング、爪の手入れなど、丁寧なケアが施されます。食事は1日3回、1頭ごとに運動量や好みに合わせてシェフが調合するのだと言うのですから、周りの人からは愛情をもって、大切に育てられているんですね。

とはいえ、勝負の世界ですから、勝てなければ引退です。前にも書いた通り、優秀な馬なら次世代の「繁殖」という仕事がありますが、そうでなくて引退する馬は、乗馬用など別の道を歩むことになります。

そしてもう一つの悲劇は、足の怪我。馬って、骨折などで長期間立てないと、少しずつ体の部位が腐って、死んでしまうらしいのです。もちろん、怪我をしても完治する見込みがあれば治療を行ってもらえますが、完治が難しいと判断されると、それが引退後であっても、苦しんで死を迎えないために、安楽死させられます。

いろいろいっぱい背負っているから美しい

競走馬について、長々と蘊蓄(うんちく)を傾ける回になってしまいました。ごめんなさい、なのですが、実はまだまだ、書きたいことはたくさんあります。

そんな私が競走馬について思うのは、「つらいことを経験したり、楽しいことを経験したりして、成長しているからこそ、競走馬は美しい」ということ。

速く走ることのみを求められるサラブレッドに生まれたという運命を背負い、大切に愛情をもって接してくれる人たちの中でプレッシャーを感じつつ生きているって、それだけですごいパワーを感じます。

馬は300年の間に、人に改良されて、今のような美しいサラブレッドになったように、今よりさらに何百年後かには、羽のはえたペガサスになるんじゃないかと考えてしまいます。まあ、もちろん今でも競走馬たちは軽やかに、颯爽と羽ばたくように走っていますが。

今回は「私がもしも、競走馬だったら」と考えながら話をしてきましたが、1つ大きな問題があることに気がついてしまったので、もう考えないことにします。

それはもし、私が競走馬だったら、すでに安楽死させられていることになっていたかもだからです。骨折を理由に、毎日、ポテチを食べては寝転んでテレビを見ながらケータイをいじっている私は、人間で正解でした。

※ JRA公式ホームページ「3大始祖と世界の血統」より
https://www.jra.go.jp/kouza/thoroughbred/founder/

(文:いくえちゃん、イラスト:ユリコフ・カワヒロ)

※この記事は2021年12月27日に公開されたものです

いくえちゃん

ラグビーとサッカーが大好き。自分はイタリア人だと思っている。並外れたコミュニケーション力と積極性が魅力であり、欠点。

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