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『かもめ食堂』から学ぶ、心が落ち着かないときに大切にしたい考え方

#金曜夜の映画トリップ

トモマツユキ

映画のなかにはいろいろな人生が存在し、自分では経験することができない世界がたくさんあります。そんなめくるめく映画の世界を、映画好きイラストレーターのトモマツユキさんが紹介。金曜夜は、映画の世界にトリップして、非日常を体験してみてはいかがでしょうか?

こんばんは、イラストレーターのトモマツユキです。気づけば今年も残り1カ月を切っていて動揺を隠せません……。私、この1年間いったい何をしていたんだろう……?

さてさて、12月といえばクリスマスや忘年会、年末の休暇や帰省などなど、イベントが盛り沢山!ご時世的に控えムードとはいえ、楽しいイベントのことを考えると胸が弾みますよね♪

しかし、その前に片づけなくてはならないもの……。そう、仕事です。

年内に片づけなきゃいけない仕事や、年明けに向けての準備なんかで、いつもよりさらに仕事がバッタバタ。心はすでにホリデーモードなのに、目の前は超現実……。

忙しくて心が落ち着かない……そんな時は少しだけ仕事のことを考えるのをやめて、束の間の現実逃避はいかがでしょうか?

『かもめ食堂』は師走の忙しさを忘れ、心を無にして観られる映画。仕事に追われてそわそわする人におすすめしたい作品です!

じれったいほど、大きな出来事が起こらない映画

映画って短い時間の中で起承転結を描くので、大体とんでもないことが起こるじゃないですか。もちろんハッピーなアクシデントも沢山ありますが、事故にあったり病気になったり、ショックな出来事が起こるのも当たり前というか……。映画は観たいけど、そこまで感情を揺さぶってほしくない時ってたまにありませんか?

できる限り何も起こらず、でも見終えた後に、心がじんわり温まるような映画を観たい。

そんな時に私が観る映画が『かもめ食堂』です。

ゆっくりと動き出す物語

日本人女性のサチエ(小林聡美)は、フィンランドの首都ヘルシンキで、日本食の定食屋「かもめ食堂」を開店します。かもめ食堂は北欧の街にも馴染むおしゃれなお店なのですが、パッと見では日本の定食屋には見えないし、何がメインのお店なのかわかりにくい。なので、近所のおばさんたちにも怪しまれて、ずっとお客さんゼロの日々なんですね……。

しかし、サチエは毎日真面目にやっていれば、そのうちお客さんは来るようになる……と自分のスタイルは変えずに、市場で食材を準備して、丁寧に食器を磨き、お客さんを待ち続けます。

ついにやってきたお客様第1号、日本かぶれの青年トンミ・ヒルトネン(ヤルッコ・ニエミ)。

日本カルチャーオタクのトンミ・ヒルトネンは、日本人のサチエに「ガッチャマンの歌」を知ってる? と問いかけるのですが、音は出てきても歌詞が全く思い出せない……。

その後も奥歯に物がはさまったように気になって仕方ないサチエは、書店で見かけた日本人女性に話しかけ、「ガッチャマンの歌」の歌詞を教わります。その女性・ミドリ(片桐はいり)との出会いで、ようやくこの物語が動きはじめます。

画面越しでも香りが伝わるおいしそうな料理

日本食の定食屋である「かもめ食堂」のコンセプトを変えたくないサチエは、自ら現地の人に寄り添おうとはしません。でもミドリが「かもめ食堂にお客さんを増やしたい!」といってくれて、サチエの心境にも少しずつ変化が……。

そして、サチエはフィンランドのソウルフード・シナモンロールをかもめ食堂で作ってみることにします。

ふわっふわの焼き立てシナモンロールにガブリッとかぶりつくサチエとミドリ。このシーンは画面越しに香りが伝わってくるかのようで、思わず生唾を飲み込んでしまうこと間違いなし。

このおいしそうな香りに、物語の冒頭でかもめ食堂を怪しんでいた近所のおばさんたちも、思わず来店してしまうほど(笑)。

人と人がつながっていくには、まずは相手を知ってから、自分を知ってもらうことって大切なんですよね。こうして徐々にかもめ食堂と現地の人がつながっていきます。

もう一人の日本人観光客のマサコ(もたいまさこ)も加わり、ここからは食テロの嵐……! 映像も音もめちゃくちゃおいしそうで、観ているだけでヨダレが……。おなかを空かせて観ていたら、途中で再生を止めてしまう可能性ありですよ〜!

詳しく明かされない登場人物たちのバックボーン

この映画は、登場人物たちがどんな思いを抱えてヘルシンキへ来たのか詳しくは明かされません。

私もひとり旅が好きでヨーロッパやアジアなどいくつか旅しましたが、北欧って憧れるけど観光地が沢山あるイメージではないので、ひとりで楽しめるのか? という不安もあって、なかなか選べないんですよね。

そんな北欧へと旅立った3人は、きっと、ここではない何処かへ行ってしまいたいほどの心のキズを抱えていたのでしょう……。

ミドリは目をつぶって地図に指をさした国に旅立つと決めてフィンランドに来ることになってしまったので、もしかしたらもう少し南のヨーロッパを狙っていたのかもしれませんが……(笑)。

3人はお互いのことを根掘り葉掘り聞き出したりせず、静かに身を寄せ合ってる。疲れ切った心には、その距離感がとても心地良いんですよね。

「ハラゴシラエして歩くのだ」

それがこの映画のキャッチコピー。

どんなに疲れていても、どんなに苦しくても、おなかが空けばまだギリギリ大丈夫。誰かが丁寧に作ったおいしいものを食べて、心を落ち着かせれば、また少しだけ歩き出す元気が出てくる。

そんなことを思い出させてくれる映画です。

おいしいものを食べて、心を落ち着かせて

まぁ正直、こんな簡単に成功できないと思ってしまうし、旅行者を働かせて良いのか? なんてツッコミどころだらけの映画ではありますが……いいんですよ! 物語なんだから(笑)。

ファンタジーではないけれど、少し非現実的な独特の空気感。そこがこの映画の良さだと私は思います

おいしそうな料理と、ちょっと変わった登場人物たちの会話をゆったり楽しむ。そして、映画を見終えたら、とりあえずハラゴシラエして心を落ち着かせて、年末までのお仕事をがんばりましょうか。

(文・イラスト:トモマツユキ)

※この記事は2021年12月10日に公開されたものです

トモマツユキ

デザイナーとして働きながら、イラストレーターとして活動。映画やアニメなど物語が大好き。ブログにておすすめの作品紹介や絵日記を公開しています。

https://yukiillustration.com/

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