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『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』が描くむきだしの恋の結末

#恋愛ドラマ考察

Nana Numoto

あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。

※このコラムには『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』結末のネタバレが含まれます

“好きなら一番最後じゃないの?”

好きなものを最初に食べるのか、最後に食べるのかは、よく議論される定番の会話ネタだ。あなたならどう答えるだろうか。

そして2001年にTBS系で放送されたドラマ『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』において、この問いは大きな意味を持つ。大好物だからこそ真っ先にイチゴを食べるという唯(深田恭子)に、まなと(滝沢秀明)は不思議そうな眼差しを向ける。

本作は「片思いの恋」にフォーカスを当て、好きな人を思い続けることの切なさ、そしてもどかしさをみずみずしく描いた作品だ。

一筋縄ではいかない恋の繊細さと、時にセンセーショナルに描かれる高校生活のアンバランスさが視聴者の心を掴んで離さないのは、『101回目のプロポーズ』や『高校教師』を手がけた野島伸司脚本の妙でもあるだろう。

高校を舞台に、まぶしくも儚い恋模様を滝沢秀明と深田恭子が好演。萌芽を彷彿とさせるこの年代特有の“特別な恋の存在”を思い起こさせてくれる。

好きなものを最初に食べる唯、最後に食べるまなと

主人公・まなとは学校で不良グループからひどいイジメを受けていた。人としての尊厳を踏みにじられるような行為を前にまなとは、イジメの存在自体を「受け入れる」ことさえ拒絶していた。

そこに現れたのが唯だ。真っ赤なダッフルコートを着た唯の存在はまさにイチゴのように愛らしく、はつらつとした魅力を放つ。

唯は、まなとが「もう1人の自分」を演じるための“偽りの証”だと語るダテ眼鏡をトラックに轢かせ、粉々にしてしまった。笑顔で放つ「死んだよ、君の偽物」という唯の言葉は、まなとの心を開放する。

そんな唯はまなとの父親の再婚相手の連れ子として、突然家にやって来た。引越しの荷物を片づけながら交わした2人の会話こそが、冒頭のショートケーキとイチゴの話だった。

多くの場合、好きなものを最初に食べる人は自分の欲求に正直で自信に満ちた人物、最後に食べる人は慎重で遠慮深い人物だと語られる。

誰もがそうであるとは限らないものの、少なくともまなとと唯には当てはまるように感じた。

本能のままに恋をする、高校生たちの恋愛模様

唯は自由奔放な留年生の佐伯(窪塚洋介)に強く惹かれ、積極的にアプローチする。その行動力は、相手の元恋人の家に押しかけ、自分の邪魔をしないようにと約束を取りつけるほど。

何度フラれてもめげない唯の姿からは、自分の気持ちへの正直さやまっすぐさがうかがえる。ついに、唯は佐伯の恋人になるまでに。

一方のまなとはというと、唯に惹かれつつも自分と価値観のよく似た遥(内山理名)に気持ちを打ち明けられ、半ば流されるように付き合いだす。自分の気持ちを優先してまで唯の恋路を邪魔したくはないという遠慮と、慎重な性格がうかがえた。

このように本作の登場人物は、愛と衝動を天秤にかけながら足掻き、もがくように恋をする。

美しくもあり苦しくもある彼らの恋は、大人のそれとは違う。結婚、出産、キャリア。年を重ねるごとに目の前に並ぶ現実を一つ一つ精査するような恋ではない。

芽吹く樹木のようにただ、本能のままに愛を貫く。そして複雑な人間関係の中に生まれる「虚構の自分」と戦いながら、精一杯その愛を掴み取ろうとするのだ。

佐伯が卒業式で語った答辞の中の「僕たちはただ、愛するためだけに生まれました」という力強い言葉の中にこそ、そのすべてが詰まっている。

大人の恋に疲れた時の処方箋

結局、各々の恋はそう長くは続かない。似た者同士で結ばれたがゆえに、補い合うことのできない関係はやがて破局へと向かう。

そこで唯の心を埋めたのが、まなとだった。まなとにとってはまさに「イチゴは最後」なのだろう。まなと、唯、佐伯、遥の恋は思いもよらぬ形で終結した。

たかがイチゴ、されどイチゴ。本当に手に入れたい恋にどんなアプローチをしかけるかは、意外にも食の好みに通ずるものがあるのかもしれない。

現実が差し迫る大人の恋に疲れた頃。ガツンと愛のこぶしで殴られるようなこの作品を見ることで、背中を押されるに違いない。

(文:Nana Numoto、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)

※この記事は2021年08月14日に公開されたものです

Nana Numoto

ライター/プロップスタイリスト。映画、ドラマ、ファッションなどトレンド情報を中心にインタビューやコラムを執筆しています。プロップスタイリストとしても活動中。映画と本が好きな愛犬家。日芸映画卒。

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