元恋人を引きずる理由は?『SUMMER NUDE』から考える恋の難しさ
あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。
2021年、夏–––––。
海に行って大勢の仲間とはしゃいだり、恋人とお祭りに行ったり、長期休暇を活用して遠出をしたり……。夏ならではのお楽しみが、コロナ禍によってお預けになってしまった。
そんな今だからこそ見てもらいたいドラマが、2013年放送の『SUMMER NUDE』(フジテレビ系)だ。
海に花火にBBQ、そして恋。夏ならではのイベントを全力で楽しんでいる彼らの姿を見ていると、現状への歯痒さが不思議と昇華されていく。
朝日が、3年前に消えた恋人・香澄を忘れられない理由
恋人と別れた瞬間、あっさりと次の恋に進める人は少ないはずだ。ともに過ごした時間が長ければ長いほど、喪失感というのはすぐに埋められるものではない。
本作の主人公・三厨朝日(山下智久)は、失った恋を3年間も引きずっている。失恋から立ち直る期間は個人差があるにしろ、これはなかなかの長さだろう。
かつての恋人・一倉香澄(長澤まさみ)と一緒に見る約束をしていた映画『48時間PART2/帰って来たふたり』のDVDを3年もの間ずっと借り続け、彼女をモデルとして起用した看板の前を通るたびに挨拶をする。
「私だと思って、ちゃんと挨拶するように!」という彼女からの言いつけを、ずっと守っているというわけだ。
朝日がここまで香澄のことを忘れられない理由は、“ちゃんと恋を終わらせていないから”だと思う。
香澄は3年前、何も言わず突然姿を消した。そのため、話し合いもしていなければ、そもそも「別れよう」とも言われていない。彼を見ていると、失恋を引きずる期間は、恋の終わらせ方によって決まるのではないかと思わされる。
振り返れば、片想いにしろ両想いにしろ、“もしも”がない方が立ち直りは早い。
「“もしも”あの時、告白していたら……」「“もしも”あの時、別れようと言わなければ……」などの“if”は、失恋後の自分を苦しめることになる。朝日もきっと、この“if”に苦しめられていたのだろう。
第1話で、「この3年間、もう終わったことだと毎日のように言い聞かされてきた。それはこの3年間、1日も彼女のことを忘れることができなかった証でもあった」というセリフがある。
彼は、「もしかしたら香澄が帰ってくるかもしれない……」という想いにずっと縛られていたのだ。
元恋人を思い続ける姿を見て、恋に落ちる?
そんな朝日のことを、高校時代から想い続けている谷山波奈江(戸田恵梨香)は、香澄がいなくなって、自暴自棄になった彼のことを一番近くで支えてきた。
朝日や波奈江の姉貴分である下嶋勢津子(板谷由夏)いわく、波奈江は「香澄がいなくなってから、さらに朝日のことを好きになっている気がする」らしい。
元恋人のためにDVDを借り続け、看板の前に居座る姿を見ていたら、自分の入る隙はないんだと諦めてしまいそうなものだが、一途に思い続ける姿を近くで見るたび、「こんな人に愛されたら幸せなんだろうな」という気持ちが募っていったという。
そんな波奈江のまっすぐな優しさに気づき、朝日は香澄を忘れようと前を向き始める。3年ぶりにDVDを返却して、看板を撤去してもらうよう依頼もした。
10年間想い続けていた相手が、自分の元に来てくれる……。きっと、幸せの絶頂のはずだ。
しかし、波奈江は朝日からの告白を断ってしまう。「朝日のことを諦めようと思います。無理してくれなくていいんだよ」と。
付き合う相手の元恋人は、誰しも少しは気になってしまうもの。波奈江のように、一途な彼の姿を間近で見ていたら、なおのこと。
「俺は、お前と付き合いたいと思ってる。無理なんてしてないよ」と言われても、波奈恵は「無理してるんじゃないかって思っちゃうんだよ」と返すのだ。
『SUMMER NUDE』を見ていると、恋愛の難しさを考えさせられる。去った者、置いて行かれた者。そして、それを支える者。さまざまな視点から、恋愛模様が描かれていく。
恋は時に苦しいが、最上の幸福を与えてくれる瞬間も確かにある––––––。そんなことを、このドラマは教えてくれる。きっと、あなたが共感する恋もここにはあるはずだ。
(文:菜本かな、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)
※この記事は2021年08月07日に公開されたものです