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自信がなくても、やる。有村架純が「女優」を名乗らない理由

#Lifeview

マイナビウーマン編集部

あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部・ライターが「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載。

取材・文:田島佑香/マイナビウーマン編集部
撮影:洞澤佐智子

エンドロールに流れてきた「有村架純」の名前を見て、私は同い年の彼女を心の底からかっこいいと思った。

それと同時に、どうせ彼女は“あっち側”の人だしなっていう何とも言えない諦めの気持ちがむくむくと湧き上がってくる。

きっと今の自分に何の不満もなくて、自信満々に生きている人なんだろう……。でもそんなイメージは、スクリーンから飛び出してきた彼女によって、意外な方向から壊された。

全員一致の大抜擢。プレッシャーを原動力に

© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

映画『るろうに剣心 最終章The Final/The Beginning』で、物語の鍵を握る雪代巴(ゆきしろともえ)役を演じた有村架純さん。

シリーズ開始から10年間、物語の根底にあったのは、主人公である緋村剣心の元妻・雪代巴の存在。主演の佐藤健さんをはじめ、長年本作に携わってきたキャストや監督、たくさんのスタッフにとって思い入れの強すぎるこの役は、全員一致で彼女に託されたという。

有村架純 インタビュー

「当然、自信100%の状態では現場にいられなかったんです。『もっとこうだったかな』とか、ワンシーンワンカット、いろんなことを毎日考えました。

原作ファンの方の顔を何度も思い浮かべましたし、スタッフさんたちの思いを踏みにじりたくないって。プレッシャーもありましたけど、それが原動力につながりました」

スクリーンの中で巴として圧倒的な存在感を放ち、完全無欠のヒロインを堂々と演じ切った有村さん。でも、目の前にいる彼女は、どこか自信なさげに、ゆっくりと丁寧に言葉をつむいだ。

「(佐藤)健さんに言われたんです。『剣心の役作りは巴から始まってる』って。それ聞いた時に私、『とんでもないところに参加してしまった!』と思いました。

でも、一度参加しますと言ったからには、途中でやめますって言いたくないし。責任を持って自分にできることをやり切る、それだけでした」

有村架純 インタビュー

撮影が始まってからも、毎日自問自答しながら役に向き合ったと言う。

「セリフも少ない役でしたし、自分の中の思いをとにかく毎日ふくらませる。それを積み重ねていくことしかやり方が分からなくて。

巴を演じるにはどれだけ剣心のことを想えるかが重要だったのですが、そこは健さんにたくさん助けてもらいました。現場での健さんは、寂しい背中や孤独感漂う佇まいが剣心そのもので、私はもうそこに引っ張られるだけだったから」

自信がなくても、できなくても「やる」。

彼女の言葉は、あまりにも等身大だった。相手が有村架純だということを忘れて、友達みたいに「いやいや、もっと自信持ちなって!」と、肩を揺さぶりたくなってしまうくらい。

それでも彼女は、自信がないながらも女優としてここまでの成功を収めてきた。何かと成功するためには「自信」が必要って言い聞かされてきたけれど、彼女はどうしてここまで来られたんだろう。

有村架純 インタビュー

「自信がなくても、自分が作品や役に対して一生懸命取り組むことがやっぱり一番大事だなと思っていて。いつも不安なんだけど、できなくても『やる』。それが自分にできる精一杯のことだから。

とにかく現場で100%、120%。芝居が下手でも一生懸命走って、体を使って、伝えるんだって。そうすれば伝わるかもしれないっていうかすかな希望を持って、ずっとやってきました」

「自信」を上回った彼女の武器は、できなくても「やる」という気持ち。言葉にするのは簡単だけれど、ピンと伸びた背筋、まっすぐな視線からは、「自信がない自分には負けない」という強い決意が感じられた。

それでも、誰かと比べて自分のふがいなさを感じる瞬間が、彼女にもあると言う。

「何かふとした時に自分の小ささとか、技量の足りなさとかに日々直面するんです。その度に一回一回、うわって攻撃されるような。(胸を)パンチされるような感じで。

自信があれば『やろうよ! いけるいける!』って思えるけど、私は『ちょっと待って、いったん考えよ』って立ち止まることの方が多いです」

「ずっと不安で、マネージャーさんに『大丈夫かなあ?』とか、そういう心配事ばっかり言って。いっつもそういうやり取りが(笑)。ね?」そう言って彼女は、横にいるマネージャーさんと笑い合った。

有村架純 インタビュー

彼女が胸に受けた “パンチ”は、理想の自分を追い求めてもがいた経験がある人なら、誰もが一度は受けたことがあるものだろう。誰だって、後戻りできない人生で「失敗したらどうしよう、大丈夫かな」って立ち止まることが数え切れないほどあるはず。

だけどそのパンチを、ダメージではなく「原動力」に変えられるか、きっとそこが理想の自分になれるかどうかの境目なのかもしれない。

自信がない自分と生きていく

そうは言っても、できるか不安なことに挑戦するのはそう簡単なことではない。例えば私は「明日から編集長になって」って言われたら速攻で断る。何より自信がないし、今いる自分の立ち位置の方が安心できるから。

でも、有村さんはそういうチャレンジに対して逃げずに、やってのけてきた。一つ一つの作品と向き合って、高く評価されてもなお、安心できるその場所から何度だって飛び出してきた。

有村架純 インタビュー

「根底にあるのは『好き』っていう思い。こういうものをやってみたい、こういう作品に参加したら自分はどういう景色が見られるんだろう……とか、そういう好奇心が常にあるんです。

自信はなかったけれど、この作品が終わった後にはきっと新しい自分に出会えているって言い聞かせて。いざそれが目の前に来ると『ああどうしようどうしよう』って焦ってばっかりですけど(笑)」

続けて、彼女は衝撃の一言を放った。

「お芝居について、胸を張って語れるようなものは何もないって、本当に本心でそう思っていて。だから私、自分のことを『私は女優です』ってまだ名乗れないんです」

どこまでも自分へ厳しい彼女に、こちらも気が遠くなる。じゃあ自分のことを「女優」って言えるラインはどこ? どこまで来たらその肩書きを名乗っていいって思えるの?

聞くと彼女は「え~そんな日、一生来ない気がする」と、少し困ったような顔で笑った。

有村架純 インタビュー

――もう28歳。何事も思った通りにはできない自分の扱いにも、だんだん慣れてきた。どんなに「自信を持って」と言い聞かせたって、私の体や頭は思い通りには動いてくれない。そんなことは、28年間の人生を通してもう分かり切っている。

今一番輝いている同世代の女性へのインタビュー。“こっち側”の私なんかがインタビュアーで良いのかと、当日まで何度も何度も練習して。それなのに、インタビューではやっぱり緊張で頭が真っ白になった。

そしてこの原稿を書いている今だって、「本当にこれで良いのかな……」と不安で仕方ない。

“あっち側”とか“こっち側”とか、本当はそんな言葉でくくることが間違っていたのかもしれない。自信がない自分と戦って、もがいているのは有村さんも同じ。

だから私も、根底にある「好き」という気持ちを信じて、100%、120%、この原稿と向き合う。だって自信がなくても成功する秘訣はそれだけだって、同い年の彼女が教えてくれたから。

有村架純 インタビュー

『るろうに剣心 最終章 The Beginning

© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

累計観客動員数980万人を突破したアクション感動大作『るろうに剣心』シリーズが遂に完結。剣心の頬にある十字傷の謎、「不殺(ころさず)の誓い」を立てた経緯が全て明らかになるーー。

動乱の幕末。緋村剣心は、倒幕派・長州藩のリーダー桂小五郎のもと暗殺者として暗躍。血も涙もない最強の人斬り・緋村抜刀斎(ひむらばっとうさい)と恐れられていた。ある夜、緋村は助けた若い女・雪代巴(ゆきしろともえ)に人斬りの現場を見られ、口封じのため側に置くことに。その後、幕府の追手から逃れるため巴とともに農村へと身を隠すが、そこで、人を斬ることの正義に迷い、本当の幸せを見出していく。 しかし、ある日突然、巴は姿を消してしまう。彼女の後を追う剣心だったが、そこには幕府の陰謀と、数々の罠が仕掛けられていた。満身創痍でたどり着いたその先での衝撃の結末とは。− <十字傷>に秘められた真実がついに明らかになる−

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』全国公開中

※この記事は2021年06月04日に公開されたものです

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