なぜ指輪をしていないのか。『愛の不時着』ラストに残された3つの謎
あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。
※この記事にはドラマ『愛の不時着』のネタバレが含まれます
2020年の新語・流行語大賞にノミネートされた「第4次韓流ブーム」。
数年前から日本で韓国アイドルや韓国コスメが流行しているのは言うまでもないが、去年から今年にかけては、コロナ禍でステイホームが多くなった影響で“韓国ドラマ”への注目が20〜30代女性の間で一気に高まっている。
そんな「第4次韓流ブーム」を牽引した韓国ドラマといえば、『愛の不時着』。
主人公である韓国の財閥令嬢のユン・セリ(ソン・イェジン)と、パラグライダー事故で偶然出会った北朝鮮軍将校のリ・ジョンヒョク(ヒョンビョン)の、国境や政治的制限を越えた壮大なラブストーリーだ。
かなりぶっ飛んだ設定だし、日本のドラマに比べると恐ろしいほど尺が長い(1話あたり1時間強×16エピソード!)のだが、続きの展開が気になって一気に見てしまう。
しかし最終話まで見ると「え、これで終わり?」「つまりどういうこと?」とラストに疑問を持った人も多くないと思う。私もその1人だ。セリフなどで全く解説せず、余白を残した抽象的なエンディングになっている。
今回はその最終話の謎についてひとつずつ考察し、2人が選んだ愛の形を紐解いていく。
謎1:2人がスイスで再会できたのはなぜ?
最終話では、やはり南北の国境を超えることはできず、2人は愛し合いながらも別れを告げ、それぞれの国へ戻ることになる。
韓国で暮らすセリは、ジョンヒョクがスマホの“メール予約機能”で送ってくれていた何気ないメッセージを支えに日々を過ごすが、ある日「予約できるのが1年までだから、これが最後だ」というようなメールが送られてくる。
それに続いて「エーデルワイスが咲く国で会おう。努力すれば運命が僕らを導いてくれる」と伝えられる。これは暗に「(エーデルワイスが咲く国=)スイスで再会しよう」というジョンヒョクからのメッセージであろう。
スイスは、2人がまだ他人同士だった頃に偶然同じタイミングで訪れていた思い出深い国。なんともロマンチックな提案だが、私がセリの立場だったら「スイスで会おうって、私はいつ行けばいいの? ちゃんと年月日を指定して?」と思わず指摘したくなる。
とはいえ国の事情を考えると、北朝鮮に住むジョンヒョクがスイスを訪れるのはそう簡単なことではない。この後、ジョンヒョクは除隊し、国立交響楽団で演奏する道を選ぶ。世界でもトップレベルを誇る音楽の国・スイスに行くための第一歩を踏み出したのだろう。
そしてセリもジョンヒョクとの再会を願って準備を始める。まずは、世界各国の低所得層の子どもたちを対象にクラシック音楽教育を支援するための奨学財団の設立。コンクールの開催場所はもちろんスイスを指定した。
セリはコンクールのために何度かスイスに足を運ぶが、連絡手段がないジョンヒョクとの再会は困難だった。しかしある年、スイスでパラグライダーをしていると、着地先になんとジョンヒョクの姿が!
おそらくセリの音楽財団の話がジョンヒョクの耳に入り、コンクールに参加するための手立てを講じ、スイスに訪れてくれたのだろう。
そしてセリもそうだったように、ジョンヒョクもまたスイスの中で「相手(セリ)がいそうな場所」を探し続けていたはず。その中のひとつ、2人が出会ったきっかけになった“パラグライダー”というキーワードから、セリの居場所を見つけてくれたのだと思う。
再会したジョンヒョクは「列車を間違えたんだ。そしたら到着した、僕の目的地に」とキザなことを言っていたが、決してそういうわけではなく、お互い諦めずに相手を探し続けた執念と一途さの結果といえるだろう。
謎2:ラストシーンに登場した家の意味は?
その後、1年に2週間だけ必ずスイスを訪れるようになったセリ。この2週間というのは、スイスで開催される音楽財団のコンクールの期間だ。
それに合わせて、コンクールに関わっているジョンヒョクとの再会も叶う。2人は「1年に1度だけ会える」……まさに織姫と彦星のような遠距離恋愛生活を送っているようだ。
そしてラストシーンでは、スイスの山々を一望できる自然豊かな土地で、二階建ての木造の家の近くでピクニックをする幸せな2人の姿があった。
SNSでは「この家はコテージ(宿泊先)か何かで、2週間だけ一緒に暮らしているのか?」などの憶測が飛び交っていたが、家に飾られている2ショットの写真、生活感のある窓辺のインテリア、そして丁寧に手入れのされている植物から判断するに、2人は長期間一緒に住んでいるのではないかと思う。
つまり、1年間に2週間だけ会っていた遠距離恋愛期間を数年ほど経てから、2人は一緒にスイスで暮らすようになったのではないだろうか。
ジョンヒョクの国の事情を考えると、現時点ではそんなことは不可能だろう。しかしこの作品はフィクションであるがゆえに「いつかこうあってほしい、理想の未来」を描いているのではないか、と私は考える。
謎3:セリが指輪をしていないのはなぜ?
そしてもうひとつ物議を醸した「なぜセリは指輪をしていないのか」問題。
今までセリの薬指には、ジョンヒョクからもらったペアリングが着けられていた。しかしこのラストシーンでは指輪が見当たらず、その理由もSNS上で話題になった。
あえて指輪をしないことで「結婚にとらわれない愛の形を描いているのではないか」という説もある。
しかし私は、2人で一緒に暮らし始めたことで、セリたちにとっての“指輪の存在意義” ——離れていてもお互いを愛し合うための信頼・安心材料としての役割が、不要になったのではないかと思う。
最後に余韻を残す『愛の不時着』の魅力
ドラマ『愛の不時着』の魅力は、斬新なストーリー設定やロマンチックなラブシーンはもちろん、こういったラストの余韻も大きく含まれる。
第12話でジョンヒョクは「君に白髪が生えて、シワができて、老いていく姿を見てみたい。きっと綺麗だろうな」とセリに伝えていた。
ラストの真相は分からない。しかし、2人が願っていた“最愛の人と一生を共にする未来”は、どんな形であろうと訪れているはず。ラストシーンの笑顔からそう信じたい。
(文:高橋千里、イラスト:タテノカズヒロ)
※この記事は2021年05月29日に公開されたものです