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グレーな恋愛は悪か。ドラマ『カルテット』から見る四角関係の行方

#恋愛ドラマ考察

ねむみえり

あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。

2021年に公開され話題になった映画『花束みたいな恋をした』や、現在放送されているドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の脚本を担当している坂元裕二が描き出す世界というのは、どこかいつも余白が残されている。

それは、悲しみであったり、希望であったりする。

2017年に放送されたドラマ『カルテット』(TBS系)は、「好きな人が自分を好いてくれるというのは、とんでもない奇跡の上に成り立っているのだ」ということを実感するドラマだ。

丁寧な会話の中に見え隠れする駆け引き

『カルテット』は、メインとなる4人の登場人物、早乙女真紀(松たか子)、世吹すずめ(満島ひかり)、家森諭高(高橋一生)、別府司(松田龍平)が、弦楽四重奏「カルテット ドーナツホール」として活動するために、軽井沢で共同生活を送るシーンから始まる。

たまたまカラオケの部屋から同じタイミングで出てきた4人は、全員が弦楽器の奏者であることから意気投合。プロの奏者はいないが、音楽を手放せないという共通点により、結束力を強くしていく。

「カルテット ドーナツホール」は、地元のレストランで生演奏をするなどして活動を広げていこうとするが、そんな中で秘密にしていた各々の過去が明らかとなっていき、思いもよらぬラストへと駆け抜けていく。

そんな4人が日常生活を送る中で交わされる、何気ない会話をつぶさに観察すると、成就することのないいくつかの恋心を伺うことができる。

例えば、すずめと別府が買い出しに行った道中の会話。

すずめ「それから、別府さんて真紀さんのこと好きですよね」
別府「何がですか」
すずめ「質問に質問で返す時は正解らしいですよ」
別府「違いますよ。そんなこと言うならすずめちゃんだって、家森さんのこと好きでしょ」
すずめ「なんでですか」
別府「質問に質問で返すのは正解ですよ」
すずめ「絶対に言わないでくださいね。家森さんのこと好きです、片思いですけど」
すずめ「私も絶対に言わないです。私と別府さんだけの秘密にします」
別府「そうですね、正解です」
すずめ「真紀さんが好き?」
別府「そうですね、秘密ですよ」
すずめ「はい、私と別府さんだけの秘密です」

この会話だけ見ると、すずめは家森に恋心を抱いており、一方別府は真紀に好意を持っているように思われる。ところが、ここでの正解は別府の恋心だけであり、すずめは本当は別府のことが好きなのである。

なぜすずめは、自分は別府のことが好きだと正直に告白しないのか。答えは明確で、別府は真紀のことが好きであり、しかも、別府が、すずめは家森のことを好きだと思っているからである。

ここで、自分の好意を告白しても、すずめに勝算はない。そのため、すずめは別府と「秘密」の共有をすることに重きを置くようにしたのだろう。

すずめはその後、別府への気持ちを「好きだってことを忘れるくらい好き」と表現する。

「ありがとう」の残酷さ

では家森はどうなのかというと、実はすずめのことが好きなのである。

自分の気持ちを隠して、真紀と別府がうまくいくように行動するすずめを気遣うかのように、「別府くんに告白されても、真紀さんは困ると思うよ」と言い、家森お得意の即興劇を始める。

家森「好きじゃない人から告白された時はどうする? 告白して玉砕しちゃった時はどうする? 君、ちょっと告白して」
すずめ「好きです」
家森「ありがとう。こう言うしかないでしょ、興味ない人に告白されても。……好きです」
すずめ「ありがとう」
家森「ああ〜冗談です」

この「冗談です」で、「好きです」はなかったことになると熱弁する家森だが、家森が即興劇の中ですずめに「好きです」と言ったときの表情は、本気である。

即興劇の一部として、すずめは「ありがとう」と言うが、この「ありがとう」はつまり、家森に興味がないということになる。

「(興味が)なかったことになるかな」と言うすずめに、「なかったことにして、みんな生きてるの」と返す家森の顔は寂しげで、気持ちに一区切りつけたように見える。

また、家森がすずめに気持ちを隠しながら伝えていた時、別府もまた真紀に気持ちを伝えていた。

別府「やっぱり真紀さんのことが好きです」
真紀「またですか」
別府「またですけど、好きです」
真紀「ありがとう」

真紀にずっと思いを伝え続けていた別府だが、真紀の「ありがとう」を受けて、別府の気持ちも未完成で終わることが決まる。

象徴的なのは、その後の真紀のセリフだ。

真紀「2人で出会ってたらまた違ってたかもしれないけど、私たちは4人で出会ったじゃないですか。このままみんなと一緒にいたいんです。死ぬなら今かなってくらい、今が好きです」

2人で出会っていたらという“if”が示されながら、カルテットの4人で一緒にいたいと言われるのは、別府がこの先真紀と結ばれるということは絶対にないと言われているようなものだ。

片思いの矢印が、家森→すずめ→別府→真紀となっているとしたら、真紀の気持ちは、自分以外の3人全員に向いている。

グレーであることの自由さ

4人のこの状態は、坂元裕二の脚本がもたらす「余白がある」ということに繋がる。

各々が誰かを愛しいと思いながら、誰の恋も最終的には成就しない。けれど、彼らにはこれからも一緒にいることができる未来がある。主題歌である『おとなの掟』の歌詞にもあるように、「自由を手にした僕らはグレー」なのだ。

恋愛というと、付き合う、結婚するなど、気持ちに白黒つけて明確にすることが到達地点とされがちである。

しかし、好きという気持ちを抱えていることがもう恋愛であり、それを表明するかどうかというのは、グレーでもいいのかもしれない。このドラマを見て、そう思った。

(文:ねむみえり、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)

※この記事は2021年05月22日に公開されたものです

ねむみえり

1992年生まれ、東京出身。ライター/編集者として働きながら、現代詩の創作も行なっている。本、舞台、映画、音楽、お笑い、ラジオ、アートなど、無意識のうちに多趣味な人間になっていた。いつか黒猫と暮らすのが夢。

Twitter:https://twitter.com/noserabbit_e
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