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お互いを尊重した恋愛観。ドラマ『逃げ恥』がヒットした本当の理由

ねむみえり

あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この連載では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。

2016年に一大ブームとなったTBSの火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。2021年1月2日には、『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』も放送されました。

放送当時、主人公2人のゆっくりとした関係性の変化に、私自身もどかしくなりつつもキュンキュンしながら毎週見ていた記憶がありますが、5年が経過した今でもその魅力は色褪せていません。

漫画が原作の『逃げ恥』ですが、長年に渡って愛される理由はどこにあるのでしょうか。登場人物たちの性格や名シーンから紐解いていきたいと思います。

すぐに身を引く平匡と、積極的なみくり

主人公である森山みくり(新垣結衣)は、職場で派遣切りにあった後、父親の紹介で、もう1人の主人公・津崎平匡(星野源)の自宅に、週1で家事代行の仕事をしに行くようになります。

ある日、みくりの両親が突然の引っ越し宣言をし、平匡のところでの仕事も終わりを迎えるかと思いきや、みくりの提案により2人は「契約結婚」をすることに。

みくりと平匡の最初の印象的な心の交流は、平匡の同僚やみくりの叔母とぶどう狩りに行くシーン。

同僚の風見さん(大谷亮平)に対して引け目を感じていた平匡は、「風見さんは都会的でかっこいいよな〜」と漏らします。するとみくりは、「私は、平匡さんが一番好きですけど」と返すのです。ここで平匡は、「35年の人生が一瞬で報われた気がした」と思います。

そんな平匡ですが、基本的に自己肯定感は低め。「契約結婚」がうっかりバレたことで、風見さんの自宅にも家事代行をしに行くことになったみくりが風見さんの話をすると、途端に心のシャッターを閉めてしまいます。

さらには「みくりさんは愛される人で、自分は違う」と、みくりから距離を取ることも考えます。

ところが、ここからみくりの「恋人革命」が始まります。2人の間に交わされている「雇用契約」を逆手に取り、「平匡さん、私の恋人になってもらえませんか」と告白します。

平匡はうろたえて、恋人の定義の理詰めで距離を取ろうとします。しかしみくりは、恋人になる最大のメリットはスキンシップができることだと主張。

世間体は“新婚夫婦”の2人は、親密感を出すためにもハグの日を導入。ここから恋人としての関係も結ぶようになります。

消極的な平匡と、積極的なみくり。性格は対象的な2人ですが、もしもみくりまで消極的だったら、この物語はすぐに終わってしまいます。

みくりの積極性が、2人の関係を進展させる大きなカギになっているのです。

すれ違いを経て学ぶこと

事件が起きたのはドラマの6話、2人で温泉旅行に行った時。

冗談で一緒にお風呂に入ろうと言って怒られたり、隣で寝ていた平匡がいなくなっていたり、偶然元カレに会って「めんどくさいでしょう、こいつ」と言われたり、みくりの感情は大きく揺さぶられます。

そんなみくりの感情を拾えず、元カレよりも自分の方がみくりのことを知っているからと、やや満足感に浸る平匡。ここで、みくりと平匡の気持ちにすれ違いが生じます。

そんな旅行の帰り道、電車から降りる寸前に、平匡は突然みくりにキスをするのです。

突然のキスの真相を聞きたいみくりは、最終的にメールで追求します。謝罪しかしない平匡が「なかったことにしてください」と送る直前に、みくりから「謝らなくて大丈夫です」とのメールが。

このやり取りを境に、平匡はみくりに積極的にハグをするようになり、みくりは「好きの嵐」に襲われます。

ところが、恋愛経験が乏しい平匡は、ある日の2回目のキスの後の展開をみくりに提案され、拒否してしまいます。ショックを受けたみくりは、親の怪我を理由にして平匡から逃げ出し、平匡はやや自暴自棄に……。

ところが、みくりが作り置きしてくれていたご飯に添えられたメモを見て、自分の気持ちでいっぱいいっぱいになり、みくりの気持ちを考えられなかったと反省します。

2人の生活を取り戻した9話では、以下のような会話が展開されます。

平匡「僕にとってみくりさんは、簡単に手放せる人じゃないんです」
みくり「ずるい! どうしてそういうこと言うんですか! どんどん好きになっちゃうじゃないですか! だから嫌なんです、私ばっかり好きで。平匡さんも私のこと好きならいいのに」
平匡「好きですよ」

平匡が、みくりに対してようやく「好き」という気持ちを言葉にして表明します。

ここから順調に2人の恋人生活が進んでいくと思いきや、平匡のプロポーズによって、また怪しい雲行きに。外での仕事を始め、だんだんと余裕がなくなってきたみくりは、かつての平匡のように心のシャッターを閉めてしまいます。

しかし平匡は、みくりと自分は同じだと気づき、そっと寄り添うのです。

みくりとの生活を経て、平匡は確実に変化しています。しかし、みくり自身にもまた、外との関わりが増えたことによる変化が起きています。

お互いの過渡期だからこそのすれ違いが起きてしまいましたが、ここでは平匡の共感力が、2人をつなぐポイントになっているのです。

なぜ2人は視聴者に愛されたのか

みくりも平匡も、それぞれ自尊感情が低く、心のシャッターを閉めがちな一面があります。そんな似ている部分がある者同士だからこそ、互いの人生を無意識のうちに肯定できるのです。

三歩進んで二歩下がるような2人の関係作りは、なんて面倒くさいことをやっているのだろうと思う人もいるかもしれません。

ところが、『逃げ恥』が多くの人の心を掴んだのは、紆余曲折がありながらも、2人が相手の気持ちを確認しながら恋愛関係を深めていったところにあると思います。

頭の中の理想の恋人像を相手に押し付けることなく、お互いの人間性を尊重した恋愛だったからこそ、世の中の視聴者にとってみくりと平匡の関係性は “理想”とされるのではないでしょうか。

(文:ねむみえり、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)

※この記事は2021年04月03日に公開されたものです

ねむみえり

1992年生まれ、東京出身。ライター/編集者として働きながら、現代詩の創作も行なっている。本、舞台、映画、音楽、お笑い、ラジオ、アートなど、無意識のうちに多趣味な人間になっていた。いつか黒猫と暮らすのが夢。

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