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第51話 辞令が出た日

詩織は淡々とした口調で「大阪に異動だってね」と言った。
だけど、その目は寂しそうで、少しでも僕の存在を
惜しんでくれる人がいることをうれしく思った。
そして、詩織の寂しさが僕にもうつったのか、
急に東京を離れたくないという未練がわいてきた。
「これから飲みに行こうと思うんだけど、一緒にどう?」
寂しさを埋めるように、自然と僕から誘っていた。
詩織はやっぱり寂しそうな目のままで、小さくほほ笑んだ。

会社から1番近い居酒屋に入り、カウンターに並んで座った。
詩織は、廉と希美のことには触れず、仕事のことを話題にした。
「大阪は話術が巧みでサービス精神旺盛なMRが多いんだって」
「それはハードル高いな。荒波にもまれてくるよ」
「溺れないように、うまく泳いでね」
詩織との会話はやっぱり楽しい。
気を使わなくても、流れるように話が進んでいく。

「そう言えば、来月、広報の取材で大阪に行くよ」
「そうなんだ、タイミングあったらメシでも行こうよ。いつ?」
「ちょっと待ってね」
詩織が分厚い手帳を出して、ページをめくった。
そのとき、手帳の中身がちらりと見え、
上部に赤いラインの入った付箋が目に入った。

「あれ?」思わず声が出た。
僕がオリジナルで発注している、僕の名前入りの付箋だ。
そう言えば、前にトマトすき焼きの店に行ったとき、
この付箋にメモを書いて詩織に渡したことがあったっけ。
でも、そんな古いメモをどうして手帳に?

横を見ると、詩織の顔が真っ赤に染まっていた。

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