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「深海生物のほとんどが発光します」―深海探査の面白い話

しんかい6500

最近ではレアアースの採掘、またダイオウイカの人気などで、深海に注目が集まっています。日本に『しんかい6500』という、6,500mの深さまで潜ることが可能な世界有数の有人潜水調査船があることをご存じでしょうか。

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さまざまな調査を行って、大車輪で活躍しているしんかい6500についてご紹介します。

『独立行政法人 海洋研究開発機構』上席研究員の藤倉克則さんにお話を伺いました。

しんかい6500は日本の誇りです!

――『しんかい6500』は大活躍だそうですが。

藤倉さん しんかい6500は、1989年に完成しました。太平洋、インド洋、遠くは大西洋にまで調査の足を延ばしたことがあります。潜航回数はすでに延べ1,300回を超えました。

――建造されてからもう24年以上になるのですね。

藤倉さん 2012年3月には建造以来となる大改装を行いました。

●船尾の主推進装置を旋回式大型1台から固定式中型2台に変更
●水平スラスタを後部に1台増設
●全てのプロペラのモーターをよりレスポンスの良いものに換装

これらによって加速・制動性能が向上しています。

『しんかい6500』Spec

全長:9.7m
全幅:2.8m
高さ:4.1m
空中重量:26.7トン
最大潜航深度:6,500m
乗員数:3名(パイロット2名+研究者1名)
耐圧殻内径:2m
通常潜航時間:8時間
ライフサポート時間:129時間
ペイロード:150kg(空中重量)
最大速力:2.7ノット(時速約5km)

搭載機器:
ハイビジョンカメラ × 2基
塩分、水圧、圧力計、溶存酸素の測定器
デジタルカメラ × 1基
マニピュレータ (7関節) × 2基
可動式サンプルバスケット × 2台
その他航海装置等

――しんかい6500の出動回数は年間どのくらいですか?

藤倉さん 1月から11月までほぼ出っ放しです(笑)。年間の潜航回数は70回前後ですね。

――1回の調査航海はどのくらいの期間ですか?

藤倉さん それは調査内容によります。長いものになると1カ月以上かかる調査もあります。日本中の科学者からプロポーザルが来ていますし、それを順番にこなしていくだけでも大車輪です。

――日本の深海探査技術はどのようなレベルなのでしょうか。

藤倉さん しんかい6500をはじめ、ファシリティー(設備・装備)では間違いなく世界のトップクラスだと思います。また、研究の中身に関しても先進的でしょう。

深海探査用の潜水調査船は新造される!?

――しんかい6500は、建造からもう20年以上が経過していますが、新しい潜水調査船を建造する予定はないのでしょうか。

藤倉さん そうですね。要望書を提出したりしておりますが、新造は決定されてはいません。有人にするべきなのか、無人機にするのかなどの基本的な部分での議論がありますし。

――もっと深く潜れる潜水調査船がいいのでしょうか?

藤倉さん どのような潜水調査船が欲しいかについては研究者によって違うと思います。1万1,000メートルまで潜れるものが欲しいと思う人もいらっしゃいますが。

――藤倉さんご自身はどのように考えていらっしゃいますか?

藤倉さん 私個人は、4,000メートルぐらいまで潜れる潜水調査船を複数建造してほしいなあと思っています。というのは、深海生物の研究ではその辺りの深さで調査することが多いのです。

研究者が多く(潜水調査船に乗れる機会を)待っている現状を考えますと、深さを追求する一方で、複数建造するという選択肢があってもいいのではと思います。同じ性能の船が複数あると、同時に協力して作業することができますから、やれることの幅がとても広がると思います。

――なるほど。複数の潜水艇が新造されるといいですね。

深海は怖いですか?

――ど素人の質問で恐縮ですが、潜水調査船で深海に潜るときは怖いですか?

藤倉さん ああ(笑)、私はハッチが閉まるまでは怖いですね。水の中に入ってしまうとそれほど恐怖は感じません。

――「水が入ってこないだろうな」などと嫌な想像をすることはないですか?

藤倉さん あまりないですね(笑)。むしろ怖いのは火事です。火事が起こるともう大変に危険ですから。昔アポロ1号で火災が起こり、宇宙飛行士3名が亡くなった事故がありました。閉鎖環境での火事はとても恐ろしいのです。

●……アポロ1号の火災は、1967年地上での訓練中に発生。

――深海を探査中に「これは何だ!」という不思議なものを見たことはありますか? 例えば新種の深海生物を見たことは?

藤倉さん 新種ですか? そんなことはしょっちゅうです。人間が同定していない新種の生物というのはいくらでもいるのです。それは深海だけではありません。あなたの手のひらにも肉眼では見えない新種の生物がたくさんいるのですよ。

――以前、「宇宙へ行きたいか、それとも深海に行きたいか」というアンケートを採ったことがあります。その中で、深海へ行きたくない理由を聞いたところ、「何か出てきて襲われるかもしれない」という回答が多く見られたのですよ。

藤倉さん 皆さんが期待されるような、恐竜とか潜水調査船をのみ込んでしまうような巨大な生物とか、そういうものは残念ながら会ったことはありません(笑)。

なぜ深海生物には発光するものが多いか?

――深海生物は変な形をしているものが多いようですが。

藤倉さん それはまちがったイメージです。確かにメディアで紹介される深海生物は、奇妙な形ばかりなので、多くの人がそのようなイメージを持っているのでしょうが、ほとんどの深海生物は浅い海の生物と基本的に形は変わらないですよ。

――深海生物では発光するものが多いと聞きますが。

藤倉さん 深海生物のほとんどが発光します。

――発光する理由は何でしょうか。

藤倉さん 発光する主な理由は以下の3つだといわれています。

●餌をおびき寄せる
●敵から逃れるため
●パートナーを見つけるため

――普通の人が驚くような話がありましたらぜひ教えてください。

藤倉さん 例えば「ハダカイワシ」は体の下の部分が発光します。深海でも太陽の光は上からわずかにとどきますので、捕食者が下からハダカイワシを見たときに、光をうけてシルエットのように見えてしまいます。そのシルエットを薄くするために、体の下の部分の発光器を光らせ捕食者から見えにくくするのです。

センハダカ

これは「カウンターイルミネーション」と呼ばれる方法です。

――光学迷彩の一種ですね。

藤倉さん 捕食者側が工夫していることもあります。例えば、赤ちょうちんクラゲは、このように胃の外側が赤く覆われています。

赤ちょうちんクラゲ

深海ですから、このクラゲの餌になる生物も発光するものが多いわけです。それを捕食すると、(体が透き通っているので)捕食した生物の発光が外に漏れて、他の餌となる生物に自分がいることがばれてしまいます。

そこで、胃の外側を赤い膜で覆ってその光が漏れないようにしているのです。

――よくできていますね!

藤倉さん その生物の色パターンから分かることもあるのです。例えば、ダイオウイカですが、先日NHKの番組で生きて動いているダイオウイカの映像が放送されました。

あれを見た専門家に聞いたのですが、「ダイオウイカの体色は、浅い海に多く住むスルメイカの色パターンとほとんど同じ。つまり浅い海のイカの典型的な体色なので、ダイオウイカは浅い海にもいる可能性ある」ということが推測できるとのことです。

――そんなことまで分かるのですね。

藤倉さん はい。おそらくダイオウイカは巷間言われているほど深いところに生息しているわけではないのでしょうね。

人はなぜ深海生物に引かれるのか!?

――ダイオウグソクムシやダイオウイカなど、なぜか最近では深海生物に注目が当たって、しかも人気です。これはなぜだと思われますか?

藤倉さん それは人間の探究心、好奇心の表れではないでしょうか。なぜそんなところ(深海)にいるの? またなぜそんな形をしているの? という気持ちをかき立てるのでしょう。それが魅力的に思えるのでしょうね。

私も、深海に潜って真剣に外を見ているとき、深海魚と目が合ったときには、あいさつをしたくなるような気持ちになります。

――ありがとうございました。

いかがでしたか。科学者でなければ、しんかい6500に乗れる機会はほとんどあり得ないようですが、それでも深海に行ってみたいと思う人はけっこういるのではないでしょうか。

あなたは、深海に行ってみたいと思いますか?

写真:(C)JAMSTEC

(高橋モータース@dcp)

※この記事は2014年02月25日に公開されたものです

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