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女性にとって限定正社員は歓迎できる制度? 「残業や転勤はないが解雇条件に不安も」

出産後も仕事を続けたいと思っても、「残業や転勤」がネックになることがあります。そのせいか、女性は出産を機に退職し、子どもが成長後、時間の融通のきく派遣社員やパートを選ぶ人も多くいるのが現実です。

安定した正規雇用を希望したいけれど、結婚前のような働き方ができるか不安――。そんな女性が知っておきたいのが、安倍政権が普及しようとしている「限定正社員」制度。働く時間や地域などが限定された正社員のことで、育児と両立しやすいと話題になっています。一方で限定されることにより、給与や昇進・昇格面も気になるところ。

今後、限定正社員が働く女性の一つの選択肢となっていくのでしょうか。みずほ情報総研の小曽根由実さんに、正社員と限定正社員の違いと、女性から見たメリット・デメリットについて聞きます。

非正規雇用から正規雇用へ

派遣社員やパートのような非正規労働者の中には、就職氷河期世代や、育児や介護などの事情で「正社員になりたくてもなれない」人もいます。2013年の労働力調査では、そのような人が全非正規労働者の2割弱を占めているとわかりました。

非正規労働者の雇用期間は、正規労働者(正社員)と違って有期です。しかし、労働契約法が改正されたことにより、5年を超えて働く非正規労働者が希望した場合、企業は無期契約に切り替えなくてはならないと義務付けられました。

この法改正によって、企業には新たな負担が生じます。雇用の安定を図るためにも、非正規労働者の待遇を改善し、正社員への転換を推進する一つの方法として、「限定正社員」制度が注目されています。

実は限定正社員制度自体は、以前からある制度。2007年にはユニクロが「地域限定正社員」制度を採用しています。同社は能力の高い非正規雇用のパートを正社員に登用していましたが、それを断る人も多いため、導入を決めたそう。ほかにも、銀行や小売業の大企業の約半数が導入しています。

転勤や残業の心配がない

まずは正社員と限定正社員の違いについて、小曽根さんに聞きました。

「限定正社員とは、正社員と非正社員の中間的雇用形態、すなわち、労働契約の期間に定めがなく、1.労働時間、2.勤務地、3.仕事の範囲(職種)などのいずれか、あるいは複数に限定がある正社員のこと。

残業や転勤、担当する仕事が変わる可能性はないものの、正社員と同様、労働契約の期間に定めがなく働き続けることができる働き方です」

育児中は残業や転勤なしで働きたいけれど、派遣やパートでは雇用の安定性が不安という女性にとって、新たな選択肢となるでしょう。職種を限定すれば、仕事の専門性も高められるというメリットもあります。

しかし、長く働くことを考えれば、育児や介護のために限定正社員を選択したいときもあれば、再び正社員へ転換してバリバリ働きたい時期もありますよね。政府もライフスタイルに合わせて、「正社員⇔限定正社員」の転換を推奨しているようですが、実際にはどうでしょうか。

「すでに限定正社員の雇用区分を設けている企業の中には、『非正社員→限定正社員→正社員』というステップアップの仕組み(転換制度)を整備している企業もあります。また、育児や介護をはじめとするさまざまな事情を持つ労働者がいることを前提として、『限定正社員⇔正社員』と行き来できるように制度設計している企業もありますね」

現状では、企業によって制度設計に差があるそうです。

給与や昇進・昇格、解雇の不安も

限定正社員は地域や時間、職種が限定される分、給与や昇進・昇格に影響も出てくるでしょう。正社員との待遇面には、どのような違いがあるのでしょうか。

「厚生労働省の委託を受けて当社が平成23年度に実施した【『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査】では、限定正社員の給与は正社員比9割弱程度。また、正社員と比較して昇進・昇格に『制限がある(正社員ほど重い責任を伴うことはない)』とする企業が7割弱みられました。

たとえば、正社員であれば転勤の可能性がありますが、勤務地限定正社員には転勤がありません。企業の都合で自由に転勤させることができないことが、勤務地限定正社員の給与が正社員より低く設定されている理由と考えられます」

給与や昇進・昇格への影響があるのも事実なのですね。雇用面でも、待遇に違いがあるのか気になります。

「『1カ所の事業所のみでの勤務』と勤務地が限定された正社員や、仕事の範囲が限定された正社員として働く場合を想定します。仮に経営状況が悪化し、自分が働いている事業所の閉鎖や、事業縮小等の必要が生じた際にはどうなるでしょうか。

法律上では、『企業が転勤や職種転換を提案するなどの解雇回避努力を行うが、それを労働者本人が受け入れない場合には解雇する』ことが認められています。つまり、このような状況下においては、育児中の女性限定正社員は『離職せざるを得ない』可能性もあることを認識していなければなりません」

このような条件では、企業側が労働者を解雇しやすいようにするための雇用形態になりうるのでしょうか。

「そのようなことがないように、雇用ルールの整備が進められている段階です。そのため、雇われる側も限定正社員の雇用ルールなどをしっかり確認しておくことが不可欠となるでしょう」

限定正社員の賃金や労働条件などの雇用ルールについては、まだまだ不明確なところが少なくないそう。現在、限定正社員制度を採用している企業で働いているならば、転換希望を出す前に雇用契約や社内規則を確認した方がよさそうですね。

限定正社員の賃金や労働条件などの雇用ルールについては、厚生労働省の有識者懇談会が、平成26年中をめどに報告書を取りまとめる予定とのこと。今後の動向が気になります。

取材協力:みずほ情報総研
http://www.mizuho-ir.co.jp/index.html

(OFFICE-SANGA 宮野茉莉子)

※この記事は2014年02月21日に公開されたものです

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