LED照明で育てた野菜のほうが、栄養豊富だって知ってた?
今年2月、玉川大学と西松建設が提携して植物工場を建設した。光源にLEDが使用されるこの工場では、太陽光よりも栄養豊富な野菜が作れるというから驚きだ。
LEDには特殊な力が秘められているのか?と思ったら、野菜の好みに合わせて光を調整できるのがポイントという。色や強さを変えるだけで、丈夫でおいしい野菜が育つのだ。
ビタミン増量1,300%!
光は音と似た性質を持ち、そちらも「波」として考えると分かりやすい。音は波の間隔が高さを決めるのに対し、光は色が変わるのだ。
波の間隔は周波数と呼ばれ、音は1秒間に起きる波の数をHz(ヘルツ)であらわすのが一般的なのに対し、光では波長と呼ばれnm(ナノ・メートル)で表現される。数値が小さいほど波の1サイクルが早く終わるので、Hzで表すなら数が大きくなる。
人間が識別できる色は、虹の7色で表現される赤・橙・黄・緑・青・藍・紫が目安で、赤から紫に進むほどに波長は小さくなる。日常にある光の波長は以下の通りだ。
・赤外線 … 780~1,000,000nm
・赤(光の三原色・R) … 620~750 nm
・緑(光の三原色・G) … 495~570 nm
・青(光の三原色・B) … 450~495 nm
・紫 … 380~450nm
・紫外線 … 315~200 nm
音のように高低で例えるなら、緑は赤より高く、青より低い関係になる。光の3原色を混ぜると透明になり、ふだん太陽光に色を感じないのはそのためだ。逆に朝焼け/夕焼けのように色が変わるのは、気象条件によって地表に届かない波長が生まれるからだ。
植物に必要な光は主に赤と青で、比率は10:1から5:1ぐらいが一般的だ。また太陽光には、美容の大敵・紫外線や、暖房や調理器に使われる赤外線も含まれているが、多量に浴びせると植物もダメージを受ける。ただし、適度な日焼けは健康に良いのと同じ理屈で、少量の赤/紫外線を与えた方が野菜も丈夫に育つとの説もある。赤/紫外線用のLEDもあるので、これを使えば制御も簡単だ。
LED照明のメリットは波長と明るさを調整できる点だ。野菜の好みに合った光を与えられるLEDを使うと、地域や天候に左右される太陽光に比べ、リーフレタスのビタミンA、C、Eが、それぞれ14、3、6倍に増す驚きの結果が出た。
太陽光発電を中心に、世の中が自然の恵みを注目するなか、科学の光の方が栄養豊富な野菜ができるのは不思議な現象だ。
寝る子は育つ?
パルス照射できるのもLEDのメリットだ。これは、LEDを高速でオン/オフさせてストロボのように光を放つ方法で、文部科学省のデータによると、パルス照射だけで20~25%も大きく育つという結果が出ているのだ。
光を当て続けた方が大きく育つのでは?と思うのが当然だが、ひたすらエサを与え続けるよりも、ときどき休ませた方が消化が良くなり、結果的に多く食べられるのと同じと言えよう。この休み時間をさらに増やし、オン:オフの比率を1:2にすると、最大33%も成長率がアップするというデータもある。つまり、休憩時間が成長を大きく左右するのだ。
お相撲さんは食後の休憩が重要と聞く。彼らは食べるのも休憩も仕事なのだ。大きくて丈夫なからだを維持する関取と同じ方法なら、休憩時間が植物を大きくするのも納得できる。
パルス照射は通電時間が減るので消費電力が少なく、生産原価は3割近く下がると試算されている。安くておいしい野菜がいつでも手に入る時代はそう遠くなさそうだ。
余談だが、家庭用のLED照明は蛍光体方式と呼ばれるタイプがほとんどで、正体は青色LEDだから、これを使っても植物の成長はあまり期待できない。赤・青・緑の三色がそろったフルカラーLEDを用意するか、取りあえずなら蛍光灯でも効果はあるので、興味のある方はお試しいただきたい。
まとめ
2年ほど前になるだろうか、自作のLED照明や水耕栽培を紹介したが、反響が得られずあえなく連載打ち切りとなった。
最近になって家電量販店で植物用LEDやおしゃれな栽培キットを見かけるようになり、ひとりほくそ笑んでいる。同時に、電子工作が特殊な趣味になったのを痛感し、少々寂しい気分だ。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2013年05月05日に公開されたものです