「お手数ですが」の正しい使い方は? 意味・言い換え表現【例文つき】
ビジネスメールでも頻出する「お手数ですが」というフレーズ。「お手数ですがよろしくお願いします」など、クッション言葉としても使い勝手がいい言葉ですが、誤った使い方をしていませんか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、意味や使い方、言い換え表現を紹介してもらいます。
「お手数ですが」は、ビジネスシーンでもプライベートでもよく使われる言葉です。
このように、言い出しにくいことをやんわりと伝えるための言葉は「クッション言葉」と呼ばれます。
今回は、「お手数ですが」の意味や使い方とともに、その他のクッション言葉も紹介します。
「お手数ですが」とは? 目上の人にも使える?
まずは「お手数ですが」の意味を改めて確認した上で、目上の人へ使える言葉なのかどうかもあわせて確認しましょう
「お手数ですが」の意味
「お手数ですが」の「手数」を辞書で引くと、次のように書かれています。
てすう・てかず【手数】
(1)それに施すべき手段の数。
(2)その物事または他人のために特に力を尽くすこと。骨折り。面倒。
(3)ボクシングで、パンチを繰り返す回数。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
意味は「他人のために力を尽くしたり、骨を折ったりすること」
「お手数ですが」の場合の「手数」は、上記の辞書の(2)の意味となります。
つまり「お手数ですが」とは、何らかの物事や、他人のために力を尽くしたり、骨を折ったりすることを意味します。
「お手数」は、その「手数」に「お」をつけた尊敬語です。
事前に相手へ断りを入れる「クッション言葉」
また「ですが」は、よくクッション言葉と呼ばれる言葉の最後につける語句で、あらかじめ断りを入れたい場合に使います。
以上のことから、「お手数ですが」は、自分が面倒なことを頼もうとする相手に対して、「これから私が言うことは、あなたに面倒をかけることになりますが」と、事前に断りを入れる意味のクッション言葉です。
「お手数ですが」は目上の人にも使える敬語
「お手数ですが」を分解すると次のようになります。
・「お手数」→「手数」に「お」をつけた尊敬語
・「です」→丁寧語
・「が」→接続詞
つまり、「お手数ですが」というフレーズは、尊敬語と丁寧語を使って構成されており、敬語として成り立っています。
そのため、目上の人に対しても使えるフレーズです。
例文
・課長、お手数ですが、お手すきの際、こちらの書類にお目通し願えませんでしょうか。
・先ほど、○○社の○○さまよりお電話がございました。お手数ですが、○○さまにおかけいただけますか?
目上の相手に対しては、上記例文のように「書類に目を通してほしい」「(取引先に)電話をかけてほしい」ということを、敬意を持って伝えるようにすると良いでしょう。
「お手数ですが」はどんな時に使えるのか?(例文つき)
クッション言葉とは、何かを依頼したりする時に、気持ちの緩衝材となる言葉です。
いくら敬語を使っていても、依頼の際にはやはり気を使うもの。
そこで、「お手数ですが」のようなクッション言葉が使われます。自分が言いやすくなるだけでなく、相手にも心の準備をしてもらうことができるので、いきなり伝えるよりも直接的な印象がやわらぐ効果があります。
以下の例文にもあるように、「ご多用な中」「ご多忙のところ」などを文頭に加えると、相手のことをおもんばかっている気持ちが一層伝わります。
相手に手間をかけさせる場合
何かを依頼する時、その内容が相手に手間をかけさせる時に使います。
記入する、確認する、誰かに伝言する場合など、ちょっとした手数であることがほとんどです。
例文
・お手数ですが、ご記入の上、ご確認いただけましたら幸いです。
相手に確認を依頼する場合
書類を見てもらう、商品を見てもらうなど、相手に確認をしてもらう必要がある時に使います。
相手が忙しそうであれば「ご多用な中」と付け加えると、さらに配慮が伝わります。
例文
・ご多用な中お手数ですが、ご確認いただきますようお願いいたします。
以前相手に依頼したことを、念押しする場合
一度何かを依頼した相手に再会した際、その内容を念押しすることがあります。
その場合には、次のように「先日の件、お手数ですが〜」と使えます。
例文
・先日の件、お手数ですが、何卒よろしくお願いいたします。
相手に見積もりを依頼する場合
ビジネスシーンでは、見積書や請求書など多くの書類をやりとりします。必要なことではあるものの、相手が忙しそうな時は気を使うもの。
そんな時は、「ご多忙のところ、お手数ですが」を使うと良いでしょう。
例文
・ご多忙のところ、お手数ですが、来週いっぱいでお見積もりをお願いできるでしょうか?
「お手数ですが」の注意点は? 間違った使い方(例文つき)
以下のような使い方は間違いですので、注意しましょう。
「自分の行動」について免除してもらう際にはNG
・お手数ですが、見積書の提出を週末までお待ち願えませんか?
このように、自分の行動について何かを免除したり待ってもらったりする際に「お手数ですが」を使うことは、大変失礼であり、間違いです。
単なる手間とは異なり、相手に迷惑をかけるようなことをお願いするのですから、「申し訳ない」という謝罪の意を込めたクッション言葉を使うべきでしょう。
正しいクッション言葉は「恐縮ですが」「誠に恐れ入りますが」「誠に申し訳ございませんが」などです。
文末に使うのはNG
・いつも課長には、ご迷惑をおかけしてお手数ですが。
上記のように、クッション言葉である「お手数ですが」を文末に使うことは間違いです。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません(ございません)」ときちんと謝罪するのが正しい表現です。
「お手数ですが」の類語・言い換え表現
「お手数ですが」と似た意味合いを持つ言葉を以下に紹介します。
「お手数をおかけいたしますが」
「おかけいたしますが」と謙譲語になっているため、「お手数ですが」よりもさらに敬意の高い表現です。目上の相手に対して使えます。
昨今、目上の人と電話で話したい時には、いきなりかけるのでなく、事前にメールで日時の調整を行うことがありますが、そのような場合にも次のように使えます。
例文
・一度お電話でお話しできればと存じますので、おかけしても差し支えのない日時をお知らせくださいませ。お手数をおかけいたしますが、ご連絡をお待ちしております。

「お手数おかけします」の意味や使い方、誤用例を紹介。
「お手間を取らせてしまいますが」
「お手数ですが」と同じ意味で、敬意の度合いもほぼ同じです。同等、あるいは目上の相手に対しても使えます。
「お手間を取らせて申し訳ございませんが」とすれば、さらに丁寧で、敬意の高い表現です。
例文
・お手間を取らせてしまいますが、今週末までにご提出いただけそうでしょうか?
「ご面倒をおかけしますが」
「お手数をおかけしますが」と同じ意味です。
目上の相手に対しても使えます。さらに丁寧に伝えたい場合には、「誠に」「大変」などを加えるといいでしょう。
例文
・大変ご面倒をおかけしますが、本製作前にサンプルでイメージを確認できるとありがたく存じます。
「ご厄介をおかけしますが」
「厄介」とは面倒を見てもらうこと。世話になること。面倒をかけてしまう相手に対して使います。
例文
・誠にご厄介をおかけしますが、仕事が終わり次第、迎えにまいりますので、それまでうちの子を預かっていただけないでしょうか?
「お手数ですが」の英語表現
「お手数ですが」を英語で表現すると、次のようなものがあります。
“Sorry to bother you but……”(お手数をかけて申し訳ないですが。手こずらせて申し訳ないですが)
《例文》
・I am sorry to bother you, but I appreciate your help.
(お手数をかけて申し訳ないですが、よろしくお願いします)
“I am sorry for the inconvenience, but please……”(お手数をかけて申し訳ないですが、どうか……)
《例文》
・I am sorry for the inconvenience, but please tell this your mother.
(お手数をかけて申し訳ないですが、どうかこのことをお母さまに伝えてください)
クッション言葉に見る文化の違い
いかがでしたか? クッション言葉の1つである「お手数ですが」について解説しました。
「日本人は、簡単に謝りすぎだ」という話を耳にしたことはありませんか? 「お手数ですが」をあえて強引に英語にすると「I am sorry」と始まることから、英訳文はおそらく日本独特なのでしょう。
英語では、謝るよりも「I appreciate your help.(あなたのご助力に感謝します)」と言うそうです。それもまた、晴れやかで清々しい気がします。
文化の違いとは、面白いですね。
(前田めぐる)
※画像はイメージです