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「まくし立てる」の意味や類語は? 例文つきで解説

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「まくし立てる」の意味は分かっても、「まくし立てるようにしゃべる」が正しい使い方なのか分からない人もいるのではないでしょうか。今回は、ライティングコーチの前田めぐるさんに「まくし立てる」の意味や類語、使い方を例文と併せて解説してもらいます。

「まくし立てる」と聞くと、いかにも勢いよくしゃべっている人の様子が頭に浮かびます。人によっては、「ちょっと苦手だな」と感じることもあるかもしれません。

一方で、言葉がスラスラとよどみなく口をついて出る人を羨ましく感じることもあるでしょう。「まくし立てる」という表現はポジティブな使い方もあるのでしょうか? 意味や用法を調べてみましょう。

「まくし立てる」とはどんな意味?

「まくし立てる」は「まくす+たてる」の複合語です。ここでは、分かるようで分からない「まくす」の意味も併せて「まくし立てる」の意味を解説します。

「まくし立てる」の「まくし」の意味

「まくし立てる」という言葉は、「まくす+たてる」の複合語です。ただし、辞書を引いても「まくす(捲す)」という言葉は見つかりません。

さらに辞書を引くと「まくし立てる」の他にも「まくし掛かる(=勢い激しく進み掛かる)」「まくし掛ける(=勢い激しく掛かっていく)」などが見つかります。

「まくし立てる」も「まくし掛かる」も、「まくし」はいずれも「捲し」と書きます。

また、「まくす」と似た言葉の「まくる(捲る)」という言葉は辞書に掲載されており、「勢いよくその動作を行う。またその動作をずっと続ける」(『明鏡国語辞典 第3版』大修館書店)という意味があります。

このように、「まくす」という語句は辞書に載っていないものの、複合語の類語や同じ漢字の熟語から意味を推測することは可能です。

以上のことから、「まくし」は「勢い激しく」という意味を持つ語であると推測できます。

「まくし立てる」の意味

「まくし立てる」を辞書で引くと、次のように載っています。

まくしたてる【捲し立てる】

たてつづけに勢いよく言う。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

辞書によれば、「まくし立てる」の漢字表記は「捲し立てる」です。

しかし「捲」は常用漢字ではないので、ひらがなの方が分かりやすいでしょう。どちらを使っても問題はありません。

以上のことから、「まくし立てる」は、「息もつかず、激しく言い立てる」「立て続けに勢いよくしゃべる」という意味です。

「まくし立てるようにしゃべる」という表現は正しい?

時々、「まくし立てるようにしゃべる」という表現を見かけます。

しかし、「まくし立てる」という言葉自体がそもそも「勢いよくしゃべる」という意味なので、「まくし立てるようにしゃべる」は、「勢いよくしゃべるように、しゃべる」と同じことになります。

何となくあっさりしすぎているように感じるかもしれませんが、本来「まくし立てる」だけで良いわけです。

しかし、「まくし立てる」だけではしゃべっている様子が伝わらないと感じる人も多いのでしょう。

「まくし立てるようにしゃべる」は一般的に使われており、聞く側にとってもそれほど不自然ではありません。

「頭痛が痛い」のような明らかな重複表現は避けるべきですが、「まくし立てるようにしゃべる」については誤用として排除するほどではなく、容認できる範囲だと考えられます。

「まくし立てる」の使い方(例文つき)

ビジネスの場面では、冷静に落ち着いて話すことを求められる機会が多いため、まくし立てる人を褒めるような場面は、あまり多くありません。

しかし、時には「まくし立てる」ことが熱量の高さを示し、功を奏する場合もあります。

ここからは、「まくし立てる」を使える場面を、いくつか紹介します。

勢いよくしゃべる人をいさめる時

勢いよくしゃべる人に対して、注意する意図で使う時は以下のように表現します。

例文

・そんなにまくし立てたら、伝わるはずの話も伝わらないですよ。

お客さまに勢いよくクレームを言われたことを報告する時

「まくし立てる」は上司などに対して、お客さまからのクレームを報告する場合にも使えます。お客さまが勢いよくクレームを並び立てる様子が伝わります。

例文

・お客さまは怒り心頭でまくし立てておられました。

電話の応対を早口でする人に対して指導する時

早口でしゃべる人に対して、もっとゆっくりしゃべってほしいことを伝える場合は、以下のように表現します。

例文

・ただでさえ電話は顔が見えないのだから、そんなふうにまくし立てずに、落ち着いて話してください。

プレゼンテーションなどで話が止まらない時

話に熱が入り、なかなか話が止まらない様子を表すには、以下のように「まくし立てる」を使います。この場合、必ずしもネガティブな意味にはなりません。

例文

・彼は、その企画に対する熱量が半端なく、与えられた10分間を使って、企画の素晴らしさをまくし立てた

憧れの人に熱っぽくしゃべりまくった時

憧れの人を前にして気分が高揚し、つい立て続けにしゃべってしまった場合にも「まくし立てる」が使えます。

例文

・憧れのアーティストと偶然飛行機で隣り合わせになり、「大ファンです」とあいさつした後、いかに好きかをついまくし立ててしまった。

「まくし立てる」の類語(例文つき)

「まくし立てる」と同じような意味を持つ言葉を以下に紹介します。

「言いまくる」

相手を圧倒するほど、言いたいだけ言うこと。

「まくし立てる」と同じ意味ですが、「言う」という言葉が入っているので、「まくし立てるようにしゃべる」のような重複した表現を招きにくく、使いやすい言葉です。

例文

・さんざん言いまくってドアを閉めてしまうとは、勝手な人だ。

「しゃべり立てる」

盛んにしゃべること。

「まくし立てる」と同じ意味ですが、「しゃべる」という言葉が入っているので、意味が伝わりやすい言葉です。

例文

・店長は、最初のあいさつで私たち店員に2時間もしゃべり立てた

「しゃべりまくる」

「徹底的に喋る」という意味。

「まくし立てる」と同じ意味です。これも「しゃべる」という言葉が入っているので、ストレートに意味が伝わります。

例文

・会話に飢えていた私たちは、とにかくしゃべりまくった

「畳み掛ける」

相手に余裕を与えないほど、続けざまに言うこと。

「まくし立てる」同様に「畳み掛けるように話す」と重複して使われることの多い言葉です。

例文

・待ってください。そんな勢いで畳み掛けられたら、会話にならないでしょう。

「舌が回る」

「多くの言葉を滑らかにしゃべる」という意味。

「まくし立てる」が相手に迫る勢いを感じさせるのに対し、「舌が回る」はよどみなくスムーズな印象を与えます。

例文

・釣りのことになると、彼はとたんに舌が回る

全ての言葉が辞書に載っているわけではない

私たちは、普段分からない言葉があると検索したり、辞書を引いたりします。そのせいか、辞書は万能であるように思ってしまいます。

ところが、辞書に載っていない言葉は意外と多く、複合語ではその傾向が顕著です。

今回の「まくし立てる」は辞書に載っていましたが、少し挙げただけでも、「歌い終える」「食べ損なう」「食べ損ねる」「困りきる」「黙り通す」…… どれも広辞苑には載っていません。

もちろん、どれも意味自体は分かりやすく、悩ましい言葉でもありません。

このように、辞書に載っていない言葉がたくさんあることは、それだけ日本語の可能性を感じさせます。

組み合わせることで多様な意味を表現できる、日本語の豊かさそのものだといえるでしょう。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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