「お伺いします」は正しい? 間違いやすい敬語表現を解説
日常会話やビジネスシーンでよく耳にする「お伺いします」という敬語。実はこれ、間違いやすく注意が必要な言葉です。今回は、語彙解説に詳しいライターの笹美さんが、「お伺いします」の意味や使い方を解説します。
日常会話やビジネスシーンでよく耳にする「お伺いします」という言葉。「お伺いします」はどのような意味で使われているのでしょうか? そもそも正しい敬語なのでしょうか?
今回は「お伺いします」の意味や使い方を、例文と共に解説していきます。
「お伺いします」の意味
「お伺い」は、何か問題が無いかの判断を自分より立場が上の人などに確認するといった意味合いで使われます。
「お伺いします」は、「たずねる」の謙譲語「伺う」から派生した表現で、「おうかがいします」と読みます。
謙譲語とは敬語表現の1つで、自分の動作をへりくだって伝えることで相手に敬意を示す表現方法です。
「たずねる」には、「尋ねる(聞く・質問する)」と、「訪ねる(行く・訪問する)」の2つの意味があります。つまり「お伺いします」は誰かの話を聞く行為と、どこかへ行く行為の2つを謙譲語にした表現になります。
「お伺いします」を使う場合は、「聞く」なのか「行く」なのか、前後の文脈からどちらを指しているのかを判断しましょう。
「お伺いします」の正しい使い方(例文付き)
「お伺いします」には「聞く・質問する」と「行く・訪問する」の2つの意味があります。それぞれの意味に応じた使い方を例文と共に紹介します。
「聞く」「質問する」を丁寧に表現したい時
「お伺いする」は、スケジュールや連絡先の確認など、相手に何かを聞いたり質問したりする時によく使われます。
例文
・次回以降のスケジュールを決めますので、今後のご予定をお伺いします。
・少々お伺いしたいのですが、明日のミーティングは午後からでしょうか?
・お客様の予約日時と当日の連絡先は、すでにお伺いしています。
・明日お会いする方のお名前はあらかじめお伺いしています。
「行く」を丁寧に表現したい時
お客様のお宅や会社へ訪問する時など、自分がどこかへ行く場合にも「お伺いします」を使用します。
例文
・本件について質問したいので、明日御社までお伺いします。
・よろしければ、一度ご挨拶にお伺いしたいです。
・先日そちらにお伺いした際に、忘れ物をしたようです。
・先月御社にお伺いした時に私が申した件について訂正があります。
「お伺いします」は二重敬語だが使用可能
「お伺いします」は、同じ種類の敬語表現が重なる言い回しの「二重敬語」に該当します。
謙譲語である「伺う」に、「お○○します」という謙譲語表現が付随しており、二重敬語になるのです。
一般的に、二重敬語は適切ではない日本語とされていますが、「お伺いします」は慣習的によく使われており、黙認されていることが多いでしょう。
しかし、日常的な会話では問題がなくとも、公式な文書や大勢の人の前で話す場面では、できるだけ正しい言い回しを使用するよう心掛けるべきでしょう。
厳密には「伺います」が正しい敬語
敬語表現としては「お伺いします」ではなく「伺います」が正しい表現となります。
とはいえ、 たとえ正しい敬語表現であっても、目上の人に「伺います」だけでは、相手に冷たい印象を与え、失礼にあたるのでは? と気になる人もいるでしょう。
「伺います」をより丁寧な印象にしたい場合は、「ぜひ」「かならず」「喜んで」など一言添える工夫をしてみてください。相手を気遣うニュアンスを表現できるでしょう。
さらに「よろしければ」や「恐れ入りますが」などのクッション言葉を挟むと、より丁寧に「伺います」が使えるようになります。
「お伺いします」の間違った使い方
「お伺いします」はビジネスでも日常会話でも頻繁に使用するフレーズなだけに、いつの間にか誤った使い方をしていることも少なくありません。
ここでは、身近な場面でよく聞くものの実は間違っている「お伺いします」の使い方を紹介します。
お伺いいたします
「お伺いいたします」は二重敬語なので、できるだけ使用は控える方が無難。
分解すると「お」(丁寧語の接頭語)+「伺う」(聞く・行くの謙譲語)+「いたす」(するの謙譲語)+「ます」(丁寧語)となり、二重敬語で間違った表現です。
慣習的にビジネス場面でよく聞くフレーズかもしれませんが、行きすぎた二重敬語と受け止められる可能性があるので使用しない方が無難でしょう。
お伺いさせていただきます
「お伺いさせていただきます」も、同じく二重敬語にあたります。
分解すると「お」(丁寧語の接頭語)+「伺い」(聞く・行くの謙譲語)+させて(「する」の使役形)+「いただく」(「もらう」の謙譲語)となり、二重敬語の間違った表現です。
また、「○○させていただく」の使用場面にも注意が必要です。「○○させていただく」とは「相手からの許可が必要な時・恩恵を受けた時」に使う表現であり、自分が質問したり聞いたりする際は不適切な場合があります。
例えば、「御社にお伺いさせていただきます」と相手の許可を得ずに一方的に自分の行為を宣言する使い方は、不適切なので注意しましょう。
「お伺いします」の類語や言い換え表現
「聞く・質問する」と「行く・訪問する」の2つの意味に応じた「お伺いします」の類語や言い換えを紹介します。
聞く・質問する場合
聞く・質問する意味で「お伺いします」を使う場合は、以下のような言葉で言い換えられます。
お聞きする
「お聞きする」は「聞く」の謙譲語です。「お伺いする」よりも平易な表現で、目上の先輩などに使用するケースが多いです。日常会話でカジュアルに使いやすい表現といえるでしょう。
「お伺いする」を使い慣れていない方は、まずは身近な先輩に「お聞きする」を使用して敬語に慣れるのがおすすめです。
ただし「行く・訪問する」意味の「お伺いする」の場合は、「お聞きする」では置き換えられません。文脈を考えて使用するようにしてください。
拝聴する
「拝聴する」は「聞く」の謙譲語で、謹んで聞くことを意味します。
「お伺いする」よりも相手への敬意を強く示す表現で、目上の人の講演などで使われることが多いでしょう。
また「お伺いする」より「聴く」行為に重点を置いた表現なので、著名人の音楽会・コンサートなどで使われることも多いです。
行く・訪問する場合
行く・訪問する意味で「お伺いする」を使う場合は、以下のように言い換えが可能です。
参る
「参る」は「行く」の謙譲語です。「お伺いする」と違って、「参る」は行く先に敬意を払う相手がいなくても使えます。
つまり「参る」は、相手や場所を選ばずに「行く」行為に対しても使えるのです。
赴く(おもむく)
「赴く」も、「行く」「向かう」といった意味を持つ言葉です。
日常会話ではあまり使う機会がない言葉かもしれませんが、格式の高いビジネスシーンではたまに登場するフレーズなので、覚えておきましょう。
「お伺いします」の英語表現
「お伺いします」の英語表現は、使う場面や意味に応じて英単語を使い分ける必要があります。
「聞く」という意味の「お伺いします」の英語は「hear」や「listen」、「訪問します」という意味の「お伺いします」の英語は「visit」「come to see」などが該当します。
また、英語には敬語表現がありませんので、言い回しを工夫しながら相手への敬意を表現しましょう。
「お伺いします」の英語例文
「お伺いします」の意味のバリエーションに合わせた英語の例文を紹介します。
例文
・I hear from some very interesting people.
(とても興味深い方々から話をお伺いします)
・Would you mind sending the Email address again?
(もう一度メールアドレスをお伺いしてもよろしいでしょうか?)
・One moment sir, I’ll be right with you.
(少々お待ちください。今、対応できないのですが、すぐに伺います)
・I will visit you at three o’clock tomorrow.
(明日の午後3時にお伺いします)
「お伺いします」の間違いに注意しよう
「お伺いします」は二重敬語にあたりますが、一般的には使用しても問題ないとされています。
ただし日常的に使う表現だけに、「お伺いします」はいつの間にか過度な敬語に変化しがちなフレーズです。例えば「お伺いいたします」は日常的に見聞きする機会が多いかもしれませんが、過度な二重敬語にあたるため使わないことを推奨します。
相手への敬意を示したい気持ちがあったとしても、間違った敬語表現はビジネスシーンでは失礼にあたる場合もあるので注意してください。ぜひ「お伺いします」の基本を押さえた上で、正しい敬語として使えるようにしましょう。
(笹美)
※画像はイメージです