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「いただけますでしょうか」は誤用? 言い換え表現を解説

井上明美(ビジネスマナー・敬語講師)

よく聞く「いただけますでしょうか」という言葉。「こちらの書類をお渡しいただけますでしょうか?」など、仕事で使用する頻度も高いのではないかと思います。実は「いただけますでしょうか」には、敬語表現として誤っているという意見もありますが、果たしてどうなのでしょうか? 敬語講師の井上明美さんに解説してもらいました。

相手に何かを依頼する場合にもさまざまな言い方があります。

相手との関係、親しさの度合い、ビジネスの場、ウチ(社内)かソト(社外)かなどによっても違ってくるものです。

今回は、そんな依頼のシーンでも使われがちで、「二重敬語であり誤用」とも言われている「いただけますでしょうか」という表現を改めて見直してみましょう。

そもそも「二重敬語」とは?

まず前提として、そもそも二重敬語とは一体どういうものなのか解説をします。

二重敬語とは「一つの語に同じ種類の敬語を二重に使ったもの」

文化庁が定める「敬語の指針」では、二重敬語について以下のように説明されています。

一つの語について、同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。

その上で、二重敬語の例として、以下の例文が紹介されています。

例えば「お読みになられる」は、「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で、更に尊敬語の「……れる」を加えたもので、二重敬語である。

このことから、一つの言葉に対して同じ種類の敬語を二重に使うことが「二重敬語」とされ、誤用である、ということが分かります。

二重敬語でも使用例が定着しているものもある

ただし、二重敬語でも習慣として定着していて問題がないとされる例もあります。

こちらも文化庁の「敬語の指針」で、以下のような説明がされています。

「二重敬語」は、一般に適切ではないとされている。ただし、語によっては、習慣として定着しているものもある。

【習慣として定着している二重敬語の例】
・尊敬語) お召し上がりになる、お見えになる
・謙譲語Ⅰ)お伺いする、お伺いいたす、お伺い申し上げる

このことから、たとえ二重敬語であっても、日常的に使用されて定着している表現もあるということが分かります。

「いただけますでしょうか」は誤用なの?

冒頭でも触れた通り、「いただけますでしょうか」は、よく「間違いではないか? 二重敬語ではないか?」と迷ってしまったり、時に問題になってしまったりするようです。

果たしてどうなのか、解説していきます。

「いただけますでしょうか」は間違った表現ではない

問題になる点はおそらく、「~いただけますでしょうか」の「ます」と「でしょう」が、「丁寧語が二重に用いられている誤用」と思うからではないでしょうか。

では、「いただけますでしょうか」の言葉の構成と辞書の解説を見てみましょう。

・「いただけ」:基本形は「いただく」。「もらう」の謙譲語は「いただく」ですから、「(私は○○さんに)~てもらう」の意の謙譲語

・「ます」:丁寧語

・「でしょうか」:丁寧語「だろう」+質問や疑問・依頼の意を表す終助詞「か」=[連語]「だろうか」の丁寧な表現

となります。

ですから、「ます」と「でしょうか」は、たしかに両者は丁寧語ではありますが、一つの言葉について敬語を二重に用いてしまっているものではなく、「ます」に「だろうか」を添えた表現です。

『デジタル大辞泉』の解説にも「いつ私がそんなことを言いましたでしょうか」という例も記載されており、通常使われている問題のない形であることがうかがえます。

「でしょうか」は「だろうか」「ですか」よりも丁寧な言い方

では、「でしょうか」のみをもう少し詳しく見てみますと、辞書では以下のような表記があります。

「でしょうか」とは
[連語]「だろうか」の丁寧な表現。

1 不明・不確かなことを問い掛ける意を表す。「今、何時でしょうか」「あの方が先生でしょうか」

2 婉曲に反論する意を表す。「いつ私がそんなことを言いましたでしょうか」
(小学館『デジタル大辞泉』)

でしょうか
( 連語 )
〔連語「でしょう」に終助詞「か」の付いたもの〕

未来のことや不確定なことについての疑問・質問の意を表す。 「明日うかがってもよろしい―」 「お客様は何人―」 〔「だろうか」 「ですか」よりも丁寧な言い方〕
(三省堂『大辞林 第三版』)

このことから、「でしょうか」は、疑問や質問、問い掛けなどの意を表し、「だろうか」「ですか」よりも丁寧な言い方であり、遠回しな表現であることが分かります。

なぜ「いただけますでしょうか」が用いられるのか

「いただけますでしょうか」は、言葉の形として問題がないと紹介しましたが、言葉は使い方や捉え方に個人差もあるものです。

「いただけますでしょうか」は、「いただく」「ます」「でしょうか」がつながった形であり、さらに詳しく分析しますと「でしょうか」は婉曲(遠回し)な意味も表します。

「いただけますか」だけでも正しい敬語の形ですから、これで十分と感じる人もあり、その点が個人の印象・捉え方の違いでしょう。

言葉は必ずしも長くすればいいというわけではありませんが、長い方がより丁寧な印象を与えるということはあります。

「いただけますでしょうか」はその点から言えば、それぞれの語を敬語にしてつなげた形ですから、言葉全体として長い形となり敬意の度合いも増す表現になります。

まとめますと、「いただけますでしょうか」は、それぞれを敬語にした上で「でしょうか」が付くことで、より婉曲に相手の気持ちや都合を尋ねる意味が強まり丁寧さが加わる表現です。

これが「いただけますでしょうか」という表現が用いられる理由の一つでしょう。

「いただけますでしょうか」の言い換え表現

「いただけますでしょうか」は前段でも述べた通り文法的に誤りはない言葉ですが、人によって使い方や捉え方が異なり、また表現もさまざまです。

ビジネスシーンなどの改まった場面でよく用いられる、「いただけますでしょうか」以外の例文をいくつかあげてみましょう。

「いただけますか」

「いただく」は「もらう」の謙譲語です。

そのため、「いただけますか」は「~してもらえますか」の敬語表現になります。

例文

・部長、恐れ入りますが、こちらの資料をご確認いただけますか?

「いただけませんか」

同様に「いただく」は「もらう」の謙譲語です。

そのため、「~してもらえませんか」の敬語表現になります。

例文

・ご面倒をお掛けして申し訳ございませんが、○○様にこちらの資料をお渡しいただけませんか?

「くださいますか」

「ください」は「くださる」の命令形で 「くれ」 の尊敬語です。

そのため、「くださいますか」は「~してくれますか」の敬語表現になります。

「~してください」でも誤りではありませんし正しい表現です。

しかし、形としては命令形で、場合によっては断定的なやや強いニュアンスもあるため、相手に依頼するような場合は、「~してくださいますか」のような柔らかい表現が用いられることが多いものです。

例文

・ただいま○○にお繋ぎいたしますので、少々お待ちくださいますか。

大切なのは「ふさわしい表現を選り分ける力」

いかがでしたか?

「いただけますでしょうか」は、捉え方の個人差はあるものの、文法的にはおかしくない表現とされる理由や言葉の意味、使い方を紹介してきました。

言葉ですから、使い方や捉え方には個人差もあります。

相手に依頼をする場合にもその表現はいろいろありますが、まずは言葉の仕組みや意味を知り、相手との関係や場面によってよりふさわしい表現を選り分けることが大切ですね。

(井上明美)

※画像はイメージです

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