心は見ようとすれば見えるから。吉高由里子『きみの瞳(め)が問いかけている』インタビュー
直球のラブストーリーも、心温まる人間ドラマも、ちょっと怖い任侠映画だって。どんな作品にも、どこかに「愛」が散りばめられている。そんな映画の中の恋や愛にフォーカスするインタビュー連載「恋するシネマ」。今回は、映画『きみの瞳(め)が問いかけている』から吉高由里子さんにインタビュー。
取材・文:鈴木美耶/マイナビウーマン編集部
撮影:佐々木康太
どんな恋愛でも、障害にぶつかる時がある。それは、価値観の違いや物理的な距離で生まれるものかもしれない。
相手への信頼が育めれば解決しそうな問題だが、もしその障害が「目が見えない」ということで生まれるものだとしたら。そもそもどうやって相手を信じればいいのだろうか。
2020年10月23日(金)に全国公開を迎える映画『きみの瞳(め)が問いかけている』は、吉高さん演じる目が不自由だが明るく愛くるしい明香里と、横浜流星さん演じる過去に罪を犯しキックボクサーとしての未来を絶たれた塁が、過酷な運命を前に苦しみながらも、互いに惹かれ合い、愛を育む大人のラブストーリーだ。
強く惹かれ合うのに、運命に翻弄され共に人生を歩むことを許されない二人に、思わずヤキモキしてしまう。もどかしいからこそ目が離せない。
今回、役者として新たなハードルを設けチャレンジを続ける吉高さんに、「人を信じ、愛すること」について聞いてみた。
共通点は「自分の人生を背負わせたくない」という思い
──吉高さんにとって久しぶりのラブストーリーの出演で難しい役どころでしたが、初めて台本を読んだ時の印象はいかがでしたか?
おっしゃる通り、私はド直球のラブストーリーを今まであまり経験したことがなかったので、正直演じることへの照れ臭さはありました。ただ、本作はラブストーリーの甘い要素だけではなく、目が見えない明香里の壮絶な人生についても描かれています。そういった部分も含めて、新しいチャレンジをさせていただけた作品だと感じています。
──役作りは、やはり難しかったのでしょうか?
難しかったですね。特に、目を見て会話ができないところ。人の目を見てしっかり話したいのに、それができない歯痒さを感じました。
役作りをするにあたり、目の不自由な方にお話を聞く機会もいただきました。料理をする時の注意点やメイクの方法、街の歩き方など、生活について細かくお話ししていただいて、随分理解が深まったように思います。
そして、何より皆さんとっても明るくて生命力のあふれる方たちだったので、私自身がパワーをもらいました。
──役に真摯に向き合っていたのですね。いつも明るく朗らかな印象の明香里は、吉高さん自身に重なる部分も多いように感じましたが。
そうですね。似ている部分も多いように思います。例えば、「人に相談事をあまりしないところ」とか。
もちろん、自分で全部を抱え込むわけではありませんよ。でも、私の相談事を聞いてしまったことによって、聞いたその人もそれを背負って生きていかなければならないかも……と思うと、それは嫌だなって。
自分は相談事をされるのが嫌ではないし、そんなふうには思ったことはないけれど、いざ自分が当事者となるとなかなか悩みを打ち明けられない。明香里も自分の過去を明かさずに気丈に振る舞い続けるのは、そんな感情があるからだと思いました。
本心が見えないならとことん話し合う
──私たちは相手を知ろうとする時、視覚からの情報をとても大切にしていますよね。ただ、明香里にはそれができなかった。そんな時、視覚以上に大切になる感覚ってどんなものだと考えますか?
目が見えないからこそ、その他の感覚が研ぎ澄まされるのではないでしょうか。聞こえる声や相手の匂いももちろん大切ですが、何より相手から感じる「心地良さ」が重要になるのではと思いました。
私たちが恋愛する時もそうじゃないですか? 五感から受け取る相手の情報も重要ですが、「一緒にいて何となく心地良い」みたいな言葉では言い表せないことを大切にしていますよね。そこは、明香里も同じように大切にしていたはず。
そんなふうに感じると同時に、目で見て全てのものを確認できるということは、大きな財産であるとも感じました。
──確かに、「心地良さ」は誰もが大切にしていることかもしれません。私の場合、相手のことが見えても、心が見えずに(理解できずに)悩んでしまうこともあります。吉高さん自身、そのような経験はありますか?
全くないですね(笑)。相手の本心が見えないならそのことについてしっかり話し合いますし、痛いところを突くような言動をして嫌われるくらいなら、そもそも相性が良くないって考えます。
──返す言葉もありません(笑)。私なんてダメだと分かりつつも、相手を何かと疑っちゃってモヤモヤを抱えがちです。
そもそも恋愛している中で、相手を疑うって何なんだろう? それって「好きな相手と一緒にいる自分をも疑っている」ってことですよね。これでいいのかな? って。もうその時点で関係は崩れてきているんじゃないですかね。
きっと好きになったばかりの時は、例えば相手が過去にどれだけ悪いことをしていたと噂されても「そんなことあり得ない!」って信じ込んでしまう力があるはず。その力が付き合っていくうちになくなったなら、関係はそこまでのような気がします。
あと、相手の心は見ようとすれば見えてくるのだから、目を背けてはいけないですよね。
信じることが“すてきなこと”だと再認識してほしい
──最後に、マイナビウーマン読者の女性たちに、この作品をどのように楽しんでもらいたいかお聞かせください。
バリバリ働かれている方も多いんですかね。どんなお仕事も大変ですし、その中でなかなか恋愛ができていない方もいらっしゃるかもしれません。そんな方には、「恋って良いな」とか「人を信じるってすてきなことだな」と、この作品を通して感じていただけるとうれしいです。
目に見えないバックグラウンドが、自分をまとう雰囲気となり、誰かに伝わっている。反対に、私は誰かの醸し出す雰囲気を無意識的に感じ取り、信頼に値するのか判断していた。
ただ、信頼とは相手の態度や行いに由来するものではなく、自らの「信じたい」という思いが生むものなのだ。吉高さんの言葉は、そう強く訴えかけてきた。
「疑うこと」を前提とするのではなく、「信じること」から始めることができたなら、自分を取り巻く人間関係は、今とは少し違ってくるのかもしれない。自らの「信じたい」という気持ちで、大切な人であふれる世の中に変えていけるのかもしれない。
吉高さんと話して、そんな期待感が私を包み込んだ。