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「ご自愛ください」の正しい使い方【例文】

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

ビジネスシーンでよく目にする「ご自愛ください」という言葉には、どんな意味があるのでしょうか。どんな場面でどのように使えば “生きた表現”になるのか、ライティングコーチの前田めぐるさんに教えてもらいました。

ビジネスシーンでよく目にする「ご自愛ください」という言葉。

この言葉にどんな意味があり、どんな場面でどのように使えば、ビジネスシーンで“生きた表現”になるのか、解説します。

 

「ご自愛ください」の意味は?

辞書で「自愛」を引くと「(多く手紙文で使う)自らその身を大切にすること」とあります(岩波書店『広辞苑』)。

敬語表現である「ご〜ください」と組み合わせた「ご自愛ください」は、「あなたのお体を大切にしてください」という意味です。

どんな時、誰に対して使うの?

「ご自愛ください」は、口語ではほとんど使いません。メールや手紙の結び文、つまり最後の締めくくりとしての定型文で、相手をいたわる気持ちを添える際に使います。

「ご指摘ください」「お教えください」のように、「ご(お)〜ください」の構文は基本的には敬語表現であることから、「ご自愛ください」も目上の人に対して使う場合が多いでしょう。

ただし、「ご参加ください」「(席を)お譲りください」などが幅広く使えるのと同様に、上司・得意先・年上の人以外に使っても違和感はありません。同年輩や仕事のパートナーなど、大切にしたい相手に対して使うといいでしょう。男女の別を気にする必要もありません。

「お体をご自愛ください」は間違い

時折見かける「お体をご自愛ください」という表現は、誤用です。

「ご自愛ください」の中に既に「お体を」という意味が含まれており、重複してしまうからです。「お体を」は不要で、「ご自愛ください」だけで成立している表現です。

「ご自愛ください」の使い方で気を付けたいことは?

さて、定型文はビジネスのやりとりを円滑にする重要な言葉ですが、最後に付け加えさえすれば事足りるというものでもありません。

「ご自愛ください」の使い方では、3つの注意したいポイントがあります。

(1)手紙とメールでは送る頻度が違う

メールに比べて、手紙を出す機会はやや限られています。同じ相手に対しては、筆まめな人でも暑中見舞いか残暑見舞い、年賀状、そして贈答のお礼など、多くても年に数回まででしょう。そのような手紙では、毎回「ご自愛ください」で締めくくられていてもさほど煩わしくは感じません。

しかし、メールの場合は、手紙よりも高い頻度でやり取りすることがほとんど。特に、業務が進行中だったり、日を空けずに会ったりする場合、いくら定型文とはいえ、メールの度に毎回付け加えるのはやり過ぎです。

相手を思いやる気配りの結び文としての役割を果たすためにも、必要な時に使うこと。

季節の変わり目や、寒さや暑さが厳しくなった時、また相手と久しぶりに会った時、長く会っていない時など、メリハリを効かせて用いましょう。

(2)儀礼的にならないように工夫する

いくら元々配慮を示す意味があるとはいえ、「それでは、ご自愛ください」と単独で使うと、かえって雑な印象を与えることがあります。

心を込めた表現である「くれぐれも」や、強い懇願の意味を表す「何とぞ」など副詞を使うことで、一層気持ちが伝わるでしょう。

また、時節を表す言葉を加えると、健康を気遣っている理由が伝わるので、より温かく感じてもらえるでしょう。

いくつか例を掲げます。

(季節のあいさつとともに)
・向暑の折、くれぐれもご自愛ください。
・まだまだ残暑が続きます。〇〇様にはご自愛専一にお願いいたします。
・朝夕めっきり冷え込むようになりましたね。どうか、ご自愛くださいませ。
・長くお目にかかれていませんが、どうぞご自愛くださいますように。

(仕事や行事のタイミングと合わせて)
・発売間近、いよいよですね。何とぞご自愛の上、ご活躍なさいますことを願っております。
・昇進され、ますますご多忙と存じますが、ご自愛の程お祈り申し上げます。
・お引っ越しのお疲れが出ませんよう、ご自愛ください。

(3)相手が体調を崩している場合は別の言い方をする

「ご自愛ください」は相手の健康を気遣う言葉ですが、すでに体調を崩している人に対してはあまりふさわしいとは言えません。

「回復」「養生」などの適切な言葉で、お見舞いの気持ちを述べる方がいいでしょう。

一日も早いご回復を願っております。
くれぐれもご養生いただきますよう念じております。

また、病気見舞いの手紙やメールでは、お詫びやお悔やみの時と同様、時節の挨拶を入れないのが決まりです。

健康を気遣う結び文、他にはどんな言い方が?

「時折交わす手紙文でも、毎回同じではちょっと……」という場合には、「ご自愛ください」以外の表現を使うといいでしょう。たとえば、次のような表現でいたわりの気持ちを示すことができます。

おいといください。
御身お大事になさってください。
お体を大切になさってください。
夏バテなどなさらぬよう、お気を付けくださいませ。
お風邪など引かれませんように。
お健やかにお過ごしくださいますよう願っております。

「ご自愛ください」で締めくくられた手紙やメールの返信は?

対面していなくても、手紙やメールで気持ちが通じたと感じられるようなやりとりはうれしいものです。

相手から健康に配慮した一文が添えられていたら、返信する場合にそのことにちょっと触れるようにしたいですね。

仰々しくする必要はありません。「あ、伝わったな」と感じてもらえるような一言をさらりと添えるだけでいいのです。

ご配慮ありがとうございます。
お気遣いいただきうれしく思います。
お言葉、ありがたく存じます。元気でやっております。
お心にかけていただき、感謝いたします。
ありがとうございます。〇〇様もお元気にお過ごしください。

敬意といたわりを言葉に託して、次につながるより良い関係を

仕事のできる人は大抵、手紙やメールの文章が秀逸です。無駄がないだけでなく、親しみやすさや気配りが感じられて、好ましいものです。

特に、結びの部分は「未来」につながる橋渡しのような役割もあります。時節の言葉と組み合わせて豊かに活用できる「ご自愛ください」を、上手に使いこなしたいものですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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