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よくあるケースは? 職場で嫌がらせを受けたときの対処法

鮫島唯(弁護士)

小さなものから大きなものまで、さまざまなケースがある職場の嫌がらせ。無視をされたり、仕事をおしつけられたり、飲み会を強要されたり。嫌がらせの対処法を、アディーレ法律事務所・鮫島唯弁護士が解説します。

職場における「パワハラ」「モラハラ」などについて、ニュースでも目にすることが増えましたが、あなたも職場での嫌がらせに悩んでいませんか?

ひと言で嫌がらせといっても、「わたしが気にしすぎなのかも」と思ってしまうような一見すると些細なものから、周囲の人も気づきやすい直接的・身体的な暴力を伴う嫌がらせまでさまざまあります。

今回は、どのようなものがそれに当てはまるのか、そして、実際に職場で嫌がらせを受けた場合どのように対処をすべきかについて、解説していきます。



職場の嫌がらせでよくあるケースとは?

まずは、職場での嫌がらせの中でよくあるケースを見ていきましょう。

(1)私生活に過度に干渉される

「彼氏はいるの?」「もう30歳過ぎているのに、まだ結婚もしていないの?」「子どもは作る予定あるの?」など私生活を過度に詮索されたり、勤務時間終了後や休日に頻繁に連絡をしてきて、ショッピングや飲み会に付き合わされたり……。

こういった仕事とは一切関係のない私生活への過度な干渉は、職場における嫌がらせにあたります。

このように私生活に過度に干渉してくる人たちの中には、「干渉」という意識はなく、仕事を円滑にするため、あなたとコミュニケーションをとっている程度にしか思っていない人達もいるのです。

また、あなたが強く断わらないため、嫌がっていることを認識していないというケースも。時にはきっぱりと断り、相手と距離を取ることや、上司などに頼んで過度な詮索・干渉はしないよう伝えてもらうことも有効です。

(2)根も葉もないうわさを流される

同僚に根も葉もないうわさを流されたり、陰口を言われたりすることも、職場での嫌がらせとしてよくあるケースです。

例えば、残業が多い職場で働いていたAさんは、仕事を効率的にこなし、毎日定時で帰っていたそうです。すると同僚に、「Aさんは上司と不倫関係にあって、負担の少ない仕事しか振られないから毎日早く帰れるのよ」などといううわさを広められてしまいました。

「不倫なんてしていない!」と言っても、「でも実際、みんなは残業しているのにあなたは毎日早く帰っているよね」と取り合ってもらえない……。そのため、周囲の冷ややかな目が気になって残業せざるを得なくなってしまいました。

また、努力して昇進したのに、「上司の不倫相手だからね」などと言われ、自分の努力を認めてもらえないばかりか昇進したこともなんだか気まずくなってしまう始末。

このようなことが起こってしまう原因のひとつに、日本人の協調性を重んじる国民性があります。「出る杭は打たれる」という言葉もあるように、日本人は「横並び意識」が強く、周りと同じ行動を取ろうとする傾向があるのです。

そのため、周囲は自分と違う行動を取る人に不快感を覚え、嫌がらせの対象となってしまうことがあります。

(3)ミスの指摘を根に持たれる

上司や同僚へのミスの指摘をきっかけに、ひとりだけ到底終わらない量の業務を命じられたり、「あなたに振る仕事はない」となんの仕事も与えられなかったりする嫌がらせもあります。

実際にあったケースとして、高等学校の教諭がクラス担任や学科の授業など一切の業務から外され、出勤しても1日中職員室の席に座って過ごさざるを得ない状況になったことがありました。結果、これは嫌がらせとして裁判で認められることに。

会社や上司、同僚のためにミスを指摘するというのは必要なことです。

しかし、人にはプライドもあるもの。目上の人や大勢の同僚たちがいる前で自分のミスを指摘された場合、恥の感情が怒りに変わり、嫌がらせのきっかけになることも少なくありません。

したがって、ミスを指摘する場合には「これ間違っています!」と大勢の人がいる前で糾弾するのではなく、ほかの人の目ができるだけないところで伝えるのも手です。

「わたしが間違っているかもしれないのですが……。この点については、~ではないでしょうか?」など、相手の顔を立てつつミスを指摘するなどの配慮ができると、関係がこじれず要点を伝えることができるでしょう。

(4)ミスに対する過度な叱責

職場での嫌がらせとして裁判上問題になるケースが多いのは、上司や同僚からの暴言です。

「こんな簡単なこと小学生でもできる。無能だな」「足手まといになるだけだから、明日から来なくていい」など、仕事上のミスを執拗に責め立てる例が少なくありません。

このような暴言を吐いてしまう背景には、相手自身が優秀で仕事ができるため、自分と同じように仕事ができない人間をみるとイライラしてしまう。あるいは、他人を攻撃し、その人の地位を貶めることで自分が優れた人間であると周囲の人に思われたい、などがあります。

また、「周囲の人と比べて異常に仕事が遅い」「同期はできているのにひとりだけ同じミスを何度も繰り返す」「同期と比べて仕事ができすぎる」というような“周囲の人と違う”ということも嫌がらせを受ける一因になる場合があります。

(5)厳しすぎる上下関係

上下関係が厳しい体育会系の職場では、先輩の言動が絶対的で、後輩は一切の異論を唱えることが許されず、先輩が後輩を服従させているというような職場があります。

業務命令としてそれが適切な内容であれば、そのこと自体が直ちに批判されるべきものではありません。しかし、忘年会などで一気飲みを強要されたり、先輩から屈辱を感じるような言動をされたり、休日に呼び出して先輩宅の掃除や車の洗車を命じられたりというような不合理な要求であれば、当然許されるものではないのです。

このように「先輩には絶対服従」という職場の社風が原因で、過去には自分自身が同じように先輩から辛い目に遭わされていたのだから、自分も同じ嫌がらせを後輩にするという「負の伝統」が続いていってしまうこともあります。

嫌がらせの対処法

では、こうした嫌がらせに困っている場合、どのような対処が有効なのでしょうか。

(1)会社外の信頼できる第三者に相談

会社内部の同僚に相談をしてみることが有効な場合もありますが、そう簡単にいかないケースも多いでしょう。

既に会社内で孤立しており相談できる人がいない場合や、相談したことにより同僚までもが嫌がらせの対象になってしまうことを懸念して、会社内で相談することが難しい場合もあるかと思います。

そのような場合、会社のしがらみが一切ない立場の信頼できる友人に打ち明けることをおすすめします。

自身の状況を話し、それを聞いてくれる友人がいるというだけで、心が救われ、楽になるでしょう。また、第三者であるがゆえの客観的なアドバイスを得られ、状況打破の糸口を見つけることができる場合もあります。

(2)冷静な態度で仕事をする

嫌がらせを受けたとき、精神的に落ち込み、時には泣いてしまうこともあるかもしれません。もちろん、そのような気持ちになるのは当然ですし、そんなふうになってしまう自分が悪いんだ、などと責める必要もありません。

しかし、あなたの落ち込んでいる姿を見た加害者は、そういった反応を面白がって、さらに嫌がらせをエスカレートさせる可能性もあります。

自分自身の気持ちを否定する必要は全くありませんが、加害者の前ではできるだけ冷静に振る舞い、淡々と仕事を続けていると、相手も「面白くないな」と嫌がらせをしなくなるケースもあります。

(3)プライベートな話は必要最小限にする

嫌がらせは、妬みや嫉みから起こることも多いです。何気なく発言した「彼氏が〇〇」「高級ブランド品の鞄を買った」などといった発言が、「幸せ自慢」「マウンティング」などと捉えられ、加害者の感情を害し、嫉妬され、嫌がらせがエスカレートするということも。

加害者は常にあなたを攻撃する「ネタ」を探しています。

あくまでも職場は仕事をする場。プライベートな話は必要最小限にする、高価なブランド品や派手すぎるネイルは避け、TPOをわきまえた服装を心がけるということも、自分を守る対策につながります。

第三者に嫌がらせを相談する場合は?

上記のような、自分でできる嫌がらせの対処法をとっても、全くなくならないどころか、どんどん状況が悪化していくような場合には、会社や労働局、弁護士に相談しましょう。

まずは証拠集め

第三者に相談をするためには、まず、あなたが職場で嫌がらせを受けていることを証明できる証拠を集める必要があります。

証拠になるものとは?

証拠としては、暴言などの嫌がらせを受けている際の録音や動画、写真、メール等があればいいでしょう。

もしそういった客観的な証拠がない場合には、ご自身で書かれた日記(いつ、どこで、誰から、何を言われたか、目撃者の有無、その際どういった気持ちだったか等。継続的かつ詳細に記載してあるもののほうが強い証拠となります)や、家族や友人に嫌がらせを相談している際のメール、あなたが嫌がらせを受けていたことを知っている友人の証言といったようなものも該当します。

また、嫌がらせによって心身に支障をきたし、通院をした場合には、診断書や診療明細書等も保管しておきましょう。

証拠がそろったら相談

証拠がそろったら相談をします。パターンとしては以下の3つが考えられます。

1.職場に相談する
2.労働局または労働基準監督署に相談する
3.弁護士に相談する

1.職場に相談する場合

比較的軽度な嫌がらせであれば、職場の相談窓口や上司、人事課に相談をし、嫌がらせをしている人に指導をしてもらったり、部署異動などの配慮をしてもらったりすることによって解決する場合もあります。

2. 労働局または労働基準監督署に相談する場合

会社内には相談できるところがない、あるいは、相談したけれども取り合ってもらえなかった、というような場合には、職場がある地域の労働局または労働基準監督署に相談することもできます。

相談は無料で、あなたの状況に応じた具体的な助言をしてくれたり、加害者とのあっせん(和解の話し合い)の場を設けてくれたりします。

ただし、あっせんの場を設けたとしても、加害者があっせんの手続きに参加する義務はありません。加害者が参加しない場合には、実施せず打ち切りになります。そのため、問題を終局的に解決できないケースもあります。

3.弁護士に相談する場合

問題の終局的な解決をめざし、相手や会社を訴え、損害賠償請求をしたいというような場合には、弁護士に相談しましょう。

訴訟(裁判)となると、判決が出るまでに1〜2年程度かかることが多く、時間的・精神的な負担はありますが、弁護士が味方となって、全面的にバックアップされます。

集団訴訟の検討

また、被害者があなた以外にも複数いるような場合には、集団訴訟を検討するパターンも。被害者が複数となれば、その分証拠を多く提出できることとなり、自身の主張が裁判所に認められる可能性も高くなります。

相性もあることなので、信頼できる弁護士が見つかるまで、複数の弁護士に相談してみるのもよいでしょう。

大切なのは自分を責めすぎないこと

職場での嫌がらせにもいろいろありますが、大事なことは、自分を責めすぎないこと。ひとりで抱え込まず、誰かに相談をすることです。

戦うのが辛すぎるなら、退職をするというのもひとつの方法です。

とにかく無理をせず、ご自身が心穏やかに、笑顔で過ごせる選択を考えてみましょう。

(鮫島唯)

※画像はイメージです

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