くうねるところにすむところ研究室 #09 ゆるむ時間
暮らしにまつわるあれやこれやの実験を日夜、繰り返す。食べること、つくること、本を読むこと。全部が繋がって、染み込んで、続いていく毎日が健やかで楽しくなっていってくれたらと願っています。よりよく生きていきたいへなちょこ研究員、チェルシー舞花の連載。
こんにちは、チェルシーです。
雨の季節がきましたねえ。
シトシト雨がつづくと体が重くなったり。
体が疲れたときはお灸をして、心が疲れてきたなーってときには、いいにおいをかぐと、肩の力がすっと抜けたりします。だから、そんなときはお香の出番。
深い呼吸をすると、すーっとよく眠れるので夜はなるべくゆっくり過ごしてゆるめる。
中でも特別、部屋で焚くのを心待ちにしているのは、Santa Maria Novella (サンタ・マリア・ノヴェッラ)のIncenso Terra(インチェンソ テーラ)。
サンタ・マリア・ノヴェッラは、13世紀にイタリアの修道院で薬草を薬剤として調合したのがはじまりだそう。約800年の歴史を誇る世界最古の薬局で、今もレシピを大切にしていると聞くと、胸おどる……!
このインチェンソシリーズは、日本の暮らしに沿うように、京都にある香の老舗「松栄堂」とともに調合されたシリーズ。この気に入っているTerra(テーラ)というのは、白檀(サンダルウッド)の甘さを強調したまろやかな香り。
部屋の照明を暗くして、これが部屋いっぱいに広がると、なんともいえない幸福感。はー、今日も1日がんばってよかったー、と心底思えるような幽玄で、心の落ち着く不思議な香り。安いものではないので、半分にしてちょっとずつ焚いたり、大切に使っています。
お香のつくり方
そもそも、お香はどうやってできているのかの疑問。
原料になる白檀などの香料を粉状にしたものを、タブ粉という木の粉でつなぐ。それを水と一緒に練り上げて、製麺機のような機械に通して、にょろにょろっと出てきたものを裁断。切ったものを乾燥させると、あの棒状の線香が完成するんだそうな。ちょっとざっくりしすぎましたか。
お香の原料は、白檀(サンダルウッド)、丁子(クローブ)、桂皮(シナモン)、安息香(ベンゾイン)、藿香(パチョリ)などなど。スパイスやアロマテラピー、漢方の材料として調合されるもので、聞き覚えがあるものばかり。
私はスパイスや、日本のお寺に漂うような伝統的な香りが好きなので、香木を原料にしたウッディな香りが好みなんだなあ、とわかってきました。
ほかにもラベンダーなど、花を調合したフローラル系もあります。好みがわかってくるとこれがまた楽しい。最近では、お香を1本ずつ変えるようなお店もありますし、天然香料のほうが格段に香りがよいので、どんな原材料かよくよく聞いてみて、買うといいかも。
香木を焚く
ゆっくりと過ごしたい夜には、この香木を焚くセットを。
VISION GLASSのガラスの中に灰を入れて、炭で灰をあたたため、そのゆるやかな熱で香木の香りをくゆらせる、東京香堂の香木セット。白檀と沈香(じんこう)、ピンセットと匙、炭が入っていて、初めての人にもやさしい。
炭に火をつけて、半分ほどあたたまるまでの時間、じっと待つ。半分ほど埋めて、灰があたたまるまで、またじんわりと待つ。
ゆるやかにあたたまってきたら、ここに香木をひとさじ。この時間の流れは、心地よい。
今日は沈香を焚きました。
不思議なもので、同じ部屋の中でも香りがとどまるところがあるみたい。お香を焚いている場所から離れていても、この場所が一番濃度が高かったり、いろいろ発見があって楽しい。部屋にこの香りが染みついて、入るたびに心地よい。
香木の世界
作法を知らないものは踏み込むべからず、みたいな世界に感じていました。でも、老舗の香問屋さんの家に生まれ、フランスのグラースにナチュラルパフューマーのアシスタントとして勉強しに行った、ペレス千夏子さんからお話をたくさん聞いて「あ、もっと親しみを持って行こう」と思ったしだい。
実際に、白檀、沈香、伽羅(きゃら)の原料を手にとって嗅がせてもらいました。
左にある沈香と呼ばれる香木から香りが出る仕組みは、樹木に虫食いなどの傷を修復しようとして木の樹液が分泌され、長年熟成されて香気成分が定着したもの。
同じ木から取れても香りはちがうので、同じ香りは2つとしてない。香木は一期一会なんだそうだ。
真ん中にあるのは、白檀を横にスライスしたもの。
一番右は伽羅。沈香の中でも最も品質の優れたものが伽羅と呼ばれる。
伽羅を嗅いだとき、重厚に織り込まれた、織物みたいな香りだと思った。複雑でほかの何ものにも、たとえようのない感じ。香りを表す言葉がなかなか見つからず、もどかしかったけれど、香りに集中して、形の図形のイメージで覚えていくと楽しいなーと。
千夏子さんが、「香木は香りの分子がのぼっていって、人の生活に寄り添う香り」と言っていた。
興味が尽きない、香りの世界。
ゆるむ時間のお供に香りをご一緒にどうぞ。
(写真・文:チェルシー舞花)