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第8話 苦行のはじまり

週明け、会社に着くと、
生意気な後輩がすでに席についていた。

「遅刻ですよ。センパイ」

空気が凍りそうなぐらい冷たい声で言われ、
朝からムッとしてしまう。

「まだ就業時刻になっていないでしょ」

確かにギリギリではあるが、遅刻ではない。
始業時刻まではまだ1分ある。

「あなたは今から1分でパソコンを立ち上げ、
業務に入れるとでも?」

朝から後輩にやりこめられることになるなんて!
バッチリ決めたメイクも、
マネキンからはがしてきた洋服も台無しだ。
それでもなんとか愛想笑いを浮かべ、同僚から
入手した新人向けのプログラムドリルを手渡す。

「じゃあ、臨戦態勢の佐伯くんには、
これをやっておいてもらおうかな」

こうして自分の時間を作った私は、
即行、部長の部屋に駆け込んだ。

「ちょっと、あの新人、
生意気どころの騒ぎじゃないですよ。
私には無理です」
「無理でもやってもらわなきゃ困るんだ」

部長にしては珍しく、強気で押してくる。
いつもは上と下の調整を図ってくれるのに。

「実は彼の“チェンジ”で
既に2人が撃沈しているんだ」
「えっ」

部長曰く、
始めは入社2、3年目の社員に預けていたのだが、
彼の知識に先輩社員が追い付けず、撃沈。
新人育成経験が豊富な5、6年目の社員は
ノイローゼ気味になり戦線離脱。
それで、新人育成をしたことがない私に
お鉢が回ってきたのだという。

……どうりで変な時期に預けられると思った。
「君の根性を見込んでお願いしたんだ。
まだ初日だろ。何とか頼むよ」
しばらく定時帰宅して、
プライベートは楽しめると思っていたのに。
初日だってまだ1時間も経っていない。
私は1ヵ月の苦行を思い、
どんよりと重い足取りで部長の部屋をあとにした。

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