※このコラムは『Re:リベンジ 欲望の果てに』11話までのネタバレを含んでいます。
■数々の修羅を潜り抜けてきた会長の胆力
理事会にて医療過誤とその隠滅の絶対的な証拠を突きつけられ、絶体絶命の海斗(赤楚衛二)。全てを知る会長(笹野高史)は「これが真実なら到底許されるものではない! 自分が後日海斗に話を聞いておく!」と大芝居を打ってこの場を収めようとします。
しかし、この場で白黒つけるべきだと他の理事より諭されると、海斗は「全て事実です。自らの保身、立場、プロジェクトの成果のため、医療過誤と隠滅を行なってしまいました」とあんなに隠し通していたはずが、拍子抜けするほどにありのままを話し始めます。
しかし、数々の修羅場を潜り抜けてきたさすがの会長。予想外の事態にも顔色ひとつ変えず、遺族である陽月(芳根京子)に居直り、「誤って済む問題ではない。自分が責任を持って誠意ある対応をする。ただ、これが表沙汰になれば、病院で働く数百人も患者も路頭に迷う。この問題をどう扱うべきか時間が欲しい。海斗は理事長の座を退け」としらを切りながら大芝居をかまします。
陽月は「問題を大きくしたいわけじゃない。真実と向き合ってもらい、このようなことが繰り返されなければ……」と会長の思惑通り、事態は表沙汰にならない形で事態が治まりそうになるのです。
■海斗と大友の「バルス」発動
今まではどんなピンチも、人心掌握が大得意な会長は、大芝居でうまいこと全てを治めてきたのでしょう。
しかし今回は違います。さらなる切れ者大友が「理事長、最後にお聞きしたいことが。隠蔽工作は本当に理事長の独断なんですか?」とすかさず海斗に問いかけます。そこに「会長の指示です」と包み隠さず答える海斗。しかしながらそれも顔色一つ変えずに全否定する会長。
ここからがもう鳥肌ものの展開。
海斗と大友が二人そろって会長を見据え、「あなたは最後のチャンスを失いました。ここは理事長だけでなく、会長の罪を暴く場でもあります。終わらせましょう、全てを。あなたが人生を賭けて築きあげた天堂記念病院。今日が最後の日です」と告げるのです。
敵だったはずの二人が実は協力して会長の息の根を止めるべく、ストーリーを練っていたとは……。
もはや海斗と大友で手を握りながら、会長に向かって「バルス!」と唱えても違和感ないくらいのシチュエーション。悪人・会長がラピュタのムスカに見えてくるほど。
まさか智信(光石研)があれだけ望んだ、「大友と海斗が協力して進めるプロジェクト」が心臓血管外科プロジェクトではなく、会長の失脚劇になるとは。
■一筋縄ではいかない会長
海斗は自分の犯した過ちに気づき、全てを捨ててでも諸悪の根源である会長を失脚させることを決意し、事前に大友に打ち明けていたのでした。それによりかなった会長を陥れるための二人の連携プレー。
しかし、会長はまるでウナギのようにつかみどころがなく、どんな証拠を突きつけてもスルスルと逃げてしまいます。
会長の秘書が紗耶(見上愛)を殺した事実も、「全ては秘書の私が独断でやったこと。会長は無関係」と逃げられてしまい、理事会では結局会長の息の根を止めることができませんでした。
ですが、ここで大きなチャンスが訪れます。会長が心筋梗塞で倒れ、大友が会長の執刀医となるのです。
■大友の抱える秘密と真の目的と復讐全部入りフルコース
大友の母親は天堂記念病院で医療過誤を起こされ、亡くなったのでした。その執刀医は智信。しかし、それは表向きで、実際の執刀医は会長だったのです。簡単な手術にも関わらず失敗し、大友の母は帰らぬ人となり、そのミスの責任を智信に押し付けていた会長。つまり大友にとって、会長は母の命を奪った男なのです。
大友はこれらの真実を全て明らかにし、医療過誤を隠滅する天堂記念病院の体制そのものと、母を殺した人物へ復讐をするためにここにやってきたのでした。
会長が手術をするとなればまたとないチャンス。大友は会長に全てをやり返します。
「執刀医は私です。場合によっては術中に動脈を傷つけてしまい、命を落とす可能性も0ではない。病理解剖がされなければ遺体は灰になり、真相は闇に葬られる。海斗にも全て確認をとっている」と会長に告げ、今まで会長自身が、大友の母を始め、あらゆる人間に行ってきた悪事全部入りのフルコースで、死の恐怖を存分に味わわせます。
「天堂記念病院の会長」であることが、会長の生きることの全て。命を失ってはなんの意味もありません。命乞いをするとともに、紗耶を殺害する指示をしたのは自分であると自供した後、麻酔で意識を失います。
■命を救われ、訪れる社会的な死
会長が目を開けると、手術は無事に終わっていました。しかし、そこで「肉体的な死」を免れた会長に待ち受けていたのは、「社会的な死」。
「死ぬんですよあなたは。生きながらにして」という大友の言葉通り、紗耶が天堂記念病院の医療過誤隠蔽について書きあげていた原稿を海斗が完成させ、週刊誌に掲載されることで、病院の全ての悪事が白日の下に晒されていました。
と思えば、テレビでは海斗が全てを釈明する記者会見を行っており、「理事長である自分と会長に責任がある。本日をもって、病院は解散する」と高らかに宣言しているのです。
自分が人生を賭けて、作り上げ、守ってきたものが一瞬にして崩れ落ちる瞬間を目の当たりにし、会長には社会的な死が訪れると同時に、精神的な死も訪れたのでした。
■全ては大友のシナリオ通り。シゴデキ男の完璧な復讐劇
海斗は「少しでも罪を償いたい。自分のやれることは一歩ずつ」と、病院を信頼できる医療機関へ譲り渡すことを決断します。その目は、もう欲望や保身に囚われていない、最初の頃のようなまっすぐな瞳。欲望という悪魔に取り憑かれた海斗の姿はありませんでした。
そして海斗は出版社で再度働き始め、昔のような日常を取り戻し始めます。そこに紗耶がいないことだけがとても残念ですが……。
すると、元天堂記念病院の新たな理事長を報道するニュースが流れます。
そこにはなんと別の病院で心臓血管外科医として働くと言っていたはずの大友の姿が。
天堂記念病院と会長に復讐し、最後には病院そのものを無償で手に入れ、理事の座を自分のものにする……海斗も会長も、最初から最後まで大友のシナリオの上で踊らされていたのです。あまりにも上手すぎたシゴデキ大友の完璧すぎる復讐劇。
『Re:リベンジ-欲望の果てに-』のタイトルのように、リベンジを終え、欲望の果てに全てを手に入れたのは大友。実は一番欲深いのは大友だったのかもしれません。
最後の怒涛の展開はまるでホラーさながら。あらゆる予想を裏切って、人間模様を描いてくれたこのドラマ。まっすぐで素直、その分染められやすい海斗と、冷静沈着で用意周到、初志貫徹の大友。この個性がぶつかり合って、毎週ハラハラが止まりませんでした。
通しで視聴すると、また新たな発見と疾走感が生まれそうです。サブスク配信も期待したい良ドラマでした。連載にもお付き合い頂き、ありがとうございました!
(やまとなでし子)