※このコラムは『君が心をくれたから』11話までのネタバレを含んでいます。
■二人で過ごす、コミュニケーションをとることができる最後の時
とうとう最後の五感、聴覚を失うことを目前に控えた雨(永野芽郁)。
そんな中、残された時間を最高のものにしようと、太陽(山田裕貴)と二人で思い出の地を巡ります。太陽は雨の心を支える言葉をノートにまとめ、聴覚を失う前に、自分の気持ちを目一杯届けて、いつか五感を取り戻せる日が来るまで、雨の心を少しでも満たせるよう準備を進めていました。
最後に二人で訪れたのは思い出のいっぱいつまった高校。太陽が初めて声をかけた場所、赤い傘に入った玄関、太陽が放送テロを起こした放送室。聴覚を失う16時まで、教室で二人は語り合います。二人が出会えて、どれだけこの人生が幸せだったか。しかしやはり太陽の中に残るしこりは消えません。
出会っていなかったら、雨は五感を失うこともなかったんじゃないか……。
しかし雨は、「大切な思い出をそんな風に言わないで」と感謝の言葉を告げます。五感を失う戸惑いはもうそこにはなく、太陽の幸せを願い、ただまっすぐ前を向く強くなった雨の姿がありました。
■太陽にとって残酷すぎる、雨の最後のうそ
「プロポーズの時の花火の勝負のお願いを使ってもいい?」
そう言って告げられた雨からのお願いは、太陽にとっては残酷なものでした。
「もう会いにこないで、二度と思い出さないでほしい。これで私たちの恋はおしまい。さようなら、太陽くん」
雨と太陽それぞれが描く「幸せな未来の形」が違っているため、相手を思って考えた一方の決断が、もう一方にとって残酷なものになるもどかしさ。
太陽は、いつか五感を取り戻す未来への希望を抱きながら雨と一緒に生きたかった。雨は、自分のことは忘れて太陽には自由に生きて、幸せになってほしかった。
どうして「好き」だけじゃ幸せになれないのか。
そうして、その言葉を最後に雨は聴覚を失います。約束の16時はまだきていないのに。
「太陽の最後の言葉を聞いたら、身を引こうと考えているのに辛くなってしまう」雨はそう考えて、聴覚を失う時間を一時間早く太陽に伝えていたのです。
たくさん伝えたいことがあった太陽は、最後の言葉も伝えられず、別れを告げられ、突然のことに戸惑いと悲しみと混乱、絶望、全ての感情でぐっちゃぐちゃになりながら叫び泣き崩れます。あまりに苦しく残酷で、救いのなかった二人のストーリー。それを断ち切るようにやってきた、案内人・日下(斎藤工)。「まだ奇跡の続きがあります」
■神・カイジの兵藤会長説
ある朝起きると、雨は全ての五感を取り戻していました。
そこにやってきたのは司(白洲迅)。雨が五感を失った後、太陽に気持ちを伝言してもらうための伝書鳩役だったはずの彼でしたが、逆に雨に大切な事実を伝えにきたのです。
太陽は急性心不全で亡くなっていました。日下から提案された奇跡の続きは、「雨からの心を受け取るか否か」。受け取れば太陽はこのまま生きていける。雨に返せば、太陽の命と引き換えに雨の五感は元に戻るというものでした。
なんて残酷な奇跡なのでしょう。究極の選択を迫られ、太陽に心を捧げる決断をした雨は、たくさんの苦悩を味わい、太陽もまた同じように苦しみました。それを乗り越えた先にあったのは、また新たな究極の選択。
この二人のように強く結ばれているパターンもあれば、時には日下のように、怪我を肩代わりさせたまま一方が裏切る場合もあります。ありのままの運命に従わせるのではなく、あえて「奇跡という名の苦悩」を与え、極限状態の人の心を不要にかき乱す神が、「賭博黙示録カイジ」の兵藤会長にしか思えなくなってきました。
神は「債務者を集めて崖っぷちのゲームをさせ、人間の極限状態を見て楽しんでいる兵藤会長」のように、人間模様を楽しんでいるのか、人間の愛と絆を試しているのか……。
■『君が心をくれたから』のタイトルに隠された意味
神の悪趣味さはさておき、本来あの事故で亡くなるはずだった太陽。雨のおかげで少し長く生きる猶予時間をもらったのだ、と、太陽は心を返すことを躊躇なく即決します。二人が思い合っていると、奇跡は不幸ではなく、「少し長く生きる時間」としてポジティブに成立するのです。
そして、この猶予時間のおかげで、本来かなわないはずだった太陽の「花火師になる」といいう夢もかないました。
となると、『君が心をくれたから』のタイトルがここにきてエモさ爆発。
高校時代に「太陽が心をくれたから」雨が自己肯定感を取り戻し、生きる意味を見つけました。社会人になってから再会し、「雨が心をくれたから」亡くなるはずだった太陽は生きる時間の猶予をもらって夢をかなえることができました。最後は「太陽が雨に心をくれた」から、雨は強くなり、夢をかなえるために生きていける。「君」がどんどん入れ変わっていくストーリーだったのです。
■太陽の夢が全てかなった瞬間
日下と取引を交わし、午前0時に亡くなった太陽は、雨へたくさんのメッセージを残していました。
太陽からの手紙に従い、雨はアレクサ的な機械に思い出の魔法の呪文を唱えると、そこから流れてくるのは太陽からのボイスメッセージ。
本当は聴覚がなくなるはずだったあの日、太陽が伝えようとしていた愛のある言葉がたくさん詰まっていました。出会えた喜び、パティシエの夢をかなえてほしいこと。夢がかなったら雨を降らすから、あの赤い傘をさしてほしい、という新たな約束。ふと雨の腕を見るとあの日太陽にあげたはずの赤いミサンガがついていました。
そして、太陽の父(遠藤憲一)からは、「太陽が作った花火の予備があるから雨に見せるよう頼まれている」のだと、桜祭りのあの日、見ることがかなわなかった赤く大きな傘のような花火も見ることができました。
その花火でにっこりと微笑む雨。自分の花火で雨を笑顔にしたいというもう一つの太陽の夢もかないました。
■全ての伏線が美しく回収されたハッピーエンド
その数年後、パティシエとなり、お店を構える雨の姿がありました。
お店の名前は「Sun & Rain」で太陽と雨。入り口には思い出のマーガレットが花咲き、雨の制服の第二ボタンには「太陽との思い出の第二ボタン」がつけられています。
店内には切れた「赤いミサンガ」や、祖母との思い出の「アラビアンナイト」の本が飾られ、太陽との思い出のお菓子「マカロン」をお客様に出しながら「どれも私の最高傑作ですから」と太陽が語っていた雨の未来像のセリフをそのままに、お客様をおもてなしする笑顔の雨。
「太陽くん! 夢をかなえたよ!」というメッセージが溢れているような、太陽との全ての思い出が込められたお店です。そして、その瞬間太陽がそれを見ていたかのように優しく雨が降り、雨は赤い傘をさし「二つの約束かなえたよ」とにっこりと微笑みます。
太陽がここにいないことだけがとても心残りではありますが、奇跡が与えてくれた猶予時間おかげで雨は自己肯定感を取り戻し、太陽は花火師に、雨はパティシエになるという夢をかなえることができました。
視聴者の涙の雨もやまない、感動のラストに爽やかな気持ちでいっぱいです。名ドラマでした。コラムにも付き合いいただきありがとうございました!
(やまとなでし子)