ドラマよりドラマチック。アラサー女子が「夏の甲子園」に魅了されるワケ
みなさん、夏の楽しみ方を忘れていませんか? 長かったコロナ禍の外出自粛やマスク生活のせいで夏あそびをずーっと我慢してきた人も多いはず。でも、ついに今年こそ思いっきり夏を満喫できそうな予感です。だから今年の夏は、思いっきり遠出して、思いっきり夜更かしして、思いっきり友達と会って、欲張りな夏を過ごしましょう。今回は、8月6日に開幕する「全国高等学校野球選手権記念大会」、そして夏の甲子園の魅力を、ライターの山口真央さんがアツく語ってくれました!
ジリジリと照りつける日差しをめいっぱい浴びて、真っ黒に日焼けした高校球児たちが今年もまた、甲子園で熱戦を繰り広げる。第105回 全国高等学校野球選手権記念大会。そこでは毎年数々のドラマが生まれ、涙が流れる。そして最後に笑うのは、たった1校、たった1チーム。なんと過酷な戦いだろうか……。
私はそんな高校野球が大好きです。好きで好きでたまらないのです。……なぜこんなに高校野球の魅力に取りつかれたのか、ちょっと語らせていただきたいと思います。
魅了される「高校球児が作り上げるドラマ」
さて、なぜこんなにも高校野球に魅了されるのでしょうか。私は野球部出身でもないし、さらに言うと暑いのがすこぶる苦手。でも、夏の甲子園にはロマンがあるのです。夏はほとんど外出しない私ですが、そのロマンを追い求め、東京から新幹線に乗り込み、甲子園球場へと向かいます。
まず、野球というものには「絶対」がありません。誰しもが聞いたことがある強豪校であっても、練習試合等を含め1年間を通じて「一度も負けない」チームはありません。だから予想ができない。
かつてとある高校球児は「優勝候補が強いのではなく、勝ったチームが強い」という名言を残しています。プロ入りも確実と見られていたピッチャーが、その日たまたま調子が悪くて、それにつられてチームがズルズルと沼にハマってしまい、強豪校がまさかの初戦敗退……なんてこともザラにあるのが高校野球なのです。
その逆もしかりで、「まさかこのチームが?」と思う学校がいいところまで上りつめることだってあります。
ちょっと気になった方はぜひ、「2007年 甲子園 決勝戦」と検索していただきたい。県内のごくごく普通の公立進学校・佐賀県立佐賀北高等学校と、その後プロへ進む4人の目玉選手を率いた私学強豪・広陵高等学校との試合。誰もが広陵が勝つと疑わなかった試合は、8回裏、満塁ホームランを含む一挙5点を決勝点とし、佐賀北が優勝。あの頃は「がばい旋風」だなんてもてはやされていたんだよ。覚えていますか。
そう、何が起こるかわからない。これこそがロマンであり、ドラマなんです! 正直ね、全10回のドラマよりはるかに予想ができない。そんな素晴らしいドラマが、1年に一度、毎日繰り広げられるんです。私はこれ以上に面白いドラマを知りません。
地元を応援したい高校野球ファンたち
佐賀北の話題を出して思い出したのですが、私の父は佐賀県の生まれです。いつもはあまり冗談も言わず、九州男児あるあるな「THE☆亭主関白」なのですが、この年だけは違いました。テレビにかじりつき、近所迷惑なほどの大声を出して応援する父。優勝した瞬間にはこれまでに一度も見たことのない父の涙を見ました。
みなさんも、出身都道府県の学校はついつい応援してしまうのではないでしょうか。私もそうです。なんせ、自分の出身高校野球部を破って甲子園に出場しているわけです。各地域の期待を背負って彼らは甲子園の土を踏む。それだけ国民の注目が集まるのもうなずけます。
そして「スタンド」にも地元を応援したい人々が駆けつけます。ブラスバンド、チア、応援団、OB・OG、学校の地元の人たち、甲子園近隣に住む地方出身者……。猛暑、炎天下の中、彼らの背中を少しでも押したいと、大勢の人がスタンドに集まります。
近隣高校の友情応援が見られることも多々。誰かを「応援する」ということに対し、これほどまでに力強さを感じられることも、甲子園のほかないなと私は思ってしまうのです。
高校球児と話して気づいたこと
そんな私ですが、毎年地方大会前の取材に参加しています。今年のチームはどうなのか、目標はどこなのか、キャプテンが思うキーマンは……。そんな質問を選手にかけていくのですが、数年前にこんな選手と出会いました。その選手は当時3年生、身体も大きくて、プロも視線を注ぐ注目選手。大学進学するにしても、各所から声がかかるような有力選手でした。
「卒業後の進路は考えていますか」。私は、プロ注目選手に対して必ずかけるこの質問を彼にしました。
たいてい返ってくるのは「行けるならプロに行きたい」「この先も野球を続けたい」……そんな返事。でも彼は違いました。
「プロとか、大学とか、全然今は見えない。僕は甲子園に行きたくて野球を始めました。1年生、2年生と甲子園には行けなかった。今年がラストチャンスなんです。甲子園なんです。ただこのチームで甲子園に行きたい、それだけなんです」。
野球少年のように「甲子園」を繰り返すその選手の目に、私はやられました。「頑張って、心から応援してる」。そんな言葉しかかけられませんでしたが、甲子園という場所にかける想いを心底感じた選手との出会いでした。
その選手はというと、その年の甲子園には行けませんでした。「僕はここで終わります。取材してくれてありがとうございました」。そんな連絡をもらい、彼は彼の野球人生に自分から幕を引いたことを知りました。それほどまでに、甲子園とは魅了される場所なのだと、私はこの仕事をして改めて知ることとなりました。
記念大会の夏、はじまる。
今年も夏が始まります。一生に一度、あるかないかの晴れ舞台。今年はどんなドラマを見せてくれるのか。彼ら一人ひとりの背中を、ぜひあなたも押してあげてください。きっと、そこには、あなたの知らなかった夏があるはずだから。
(文:山口真央、イラスト:のがみもゆこ)
※この記事は2023年07月30日に公開されたものです