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「作品を通して世の中を変える」。磯村勇斗が現代社会に思うこと

太田 冴

取材・文:太田冴
撮影:三浦晃一
編集:鈴木麻葉/マイナビウーマン編集部

『今日から俺は!!』、『きのう何食べた?』、『ヤクザと家族 The Family』など次々と話題作に出演し、その個性的なキャラクターを見事に演じきってきた磯村勇斗さん。その活躍が評価され、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど、躍進を続けている。

そんな磯村さんが次に挑んだ作品が、映画『PLAN 75』だ。

75歳を迎えた人々に、自らの生死を選ぶ権利を保障する制度<プラン75>。そんな制度が存在する近い将来の日本社会と、それに翻弄される人々の姿を描いた社会派の衝撃作だ。

かねてより「作品を通じて社会に貢献したい」と語っていた磯村さん。俳優という仕事を通じてかなえたい未来とは何なのか。一つひとつ、丁寧に言葉を紡いでくれた。

「高齢者問題」は若い世代が向き合わなくてはいけない問題

――今作は、高齢化社会という日本の社会問題に切り込んだ作品です。演じてみて、一番に感じたことは何でしたか?

<プラン75>という制度はもちろん架空のものですが、高齢化社会がここまで問題となっている現状を踏まえると、なんだかとても身近に感じました。

75歳以上の人が自分で命の選択をできるという制度ですが、“自分の人生をどう終えるのか”を自分で決めるわけなので、それを尊重するのもありだとは思います。でも、国として勧めるのはどうなのか、という視点もある。賛否両論あっておかしくない題材だと感じます。

どちらにせよ、僕たちのような若い世代も含めてこの問題に向き合い、これからの生き方を考える必要があるだろう、と。

――高齢化社会については、以前から考えることがあったとのこと。どのように課題を感じていらっしゃったのでしょうか?

「高齢化問題」と聞くと、どうしても高齢者の方々に目が行きがちですが、これは歳を重ねれば、いずれ自分達に降りかかることなので、若い世代が今から向き合わなければいけない問題ですよね。<プラン75>のような、高齢者を排除する、という結末にならないためには、僕たち一人ひとりが意識して社会を変えていく必要があると思うんです。

――磯村さんが演じたのは、市役所の<プラン75>申請窓口で働く公務員・岡部ヒロム。淡々と仕事をこなす一方で、叔父の手続きを通じて感情が露わになっていく姿が印象的でした。

他人に対してはいくらでも<プラン75>を勧めることはできても、自分の身内が死を選ぶことを目の当たりにしたら、やはり躊躇するんじゃないかな、と。そこはすごくリアルに共感できました。

作品には、世の中を変える力がある

――磯村さんご自身は、長生きしたいと思いますか?

可能なのであれば、1000年でも2000年でも生きたいですね。長く生きて、いろんな秘密を知りたい。機密文書が公開されるまで、絶対生きてやるぞって思っています。宇宙人が本当にいるのか? とかも知りたいですし(笑)。世の中にはまだまだ知らないことだらけですから、単純にもっと広い世界を見てみたいんです。

――それこそ、海外の作品に携わりたい、という気持ちもあるのでは?

海外の作品作りの現場を見てみたいという気持ちはあります。それは俳優として出演したいというだけでなく、予算や機材、撮影方法なども含めて勉強したい、という意味です。

ただ、今は逆に日本映画で勝負する方が面白いんじゃないか、とも思うんです。最近では『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞を受賞しましたし、『パラサイト』などの韓国映画の人気をみても、アジア作品が徐々に盛り上がっていると感じます。日本で俳優をしている一人として、黒澤明監督の時代のような輝きをもう一度取り戻したいですね。

――先日の日本アカデミー賞授賞式では、「世の中に貢献できるよう努めたい」とスピーチされていたのが印象的でした。

僕たち俳優は、作品・役を通じて時代に切り込んでいくことができると思うんです。警笛を鳴らしたり、改革を求めたり、人を傷つけずに社会を変えることができるという大きな“武器”を持っている。その力を、少しでも世の中を平和な方向に持っていくために使うことができるのであればすごく幸せなことだし、できると信じています。

もちろん、役者としてのパフォーマンスも上げていくけれど、それだけじゃなくて、その先に世の中を少しでも変えていける人になりたいという気持ちは常にあるんです。

――エンターテインメントと社会は、近い場所にある、と。

もちろんです。エンターテインメントには単純に「面白い」「楽しい」という面もありますが、いつの時代を振り返ってみても、作品はその時代を映し出し、切り取っていますよね。社会をエンターテインメントに変えて、人々に届けることができる。それが作品創りの醍醐味なのではないでしょうか。

――今後、俳優の仕事を通じて世の中をどんなふうに変えていきたいですか?

明確にいつまでにこんなことを成し遂げたい、という目標はありません。計画を立てるのがすごく苦手なんです。

ただ一つ考えているのは、エンターテインメント業界の労働環境を改善したい、ということ。社会一般的には労働環境を改善する動きが盛んですが、その点エンタメ業界は少し遅れている気がするんです。長時間労働などが改善されて、誰もが平等に良い環境で作品作りをすることができれば、もっと素敵な作品が生まれるんじゃないかな、と。そこはこれから追求していきたいですね。

『PLAN 75』

少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本を舞台に、75歳以上が自らの生死を選択できる<ブラン75>という制度を中心に物語が進む衝撃作。

「生きる」という究極のテーマを改めて考えることが出来る作品となっています。

2022年6月17日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開

配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

※この記事は2022年06月10日に公開されたものです

太田 冴

ライター/平成元年生まれ。舞台、韓国ドラマ、俳優、アイドルグループ、コスメなどを幅広く愛する雑食オタク。ジェンダー・ダイバーシティマネジメント・メンタルヘルスなどの社会問題にも関心あり。30歳で大学院に入学し、学び直しをしました。

●note:https://note.com/sae8320

●Twitter:https://twitter.com/sae8320

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