『梨泰院クラス』のWヒロインを分析。最後に選ばれるのはどっち?
あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。
※このコラムには『梨泰院クラス』結末のネタバレが含まれます
2020年の第4次韓流ブームを牽引してきた韓国ドラマの数々。
中でも『梨泰院クラス』は、Netflixで毎日のように総合ランキング上位にランクインするほどの人気作。『愛の不時着』と同じくらいファンが多い作品の一つではないだろうか。
本作は、高校中退・前科持ちの青年セロイ(パク・ソジュン)が、復讐のために梨泰院で飲食店「タンバム」をオープンし、のし上がっていくサクセス・ストーリー。
経営やビジネスの話が主軸となっているため、ベタなラブロマンスが苦手な人でも自然と物語に入り込むことができる。
今回は、『梨泰院クラス』に登場する2人のヒロイン――オ・スア(クォン・ナラ)とチョ・イソ(キム・ダミ)に注目し、その対比を分析する。
セロイの救いを待つ女、オ・スア
ドラマの第1話は、15年前のセロイとスアの出会いから描かれる。
当時からセロイは正義感が強く、自分の信念のためなら先生にも堂々と反抗する高校生だった。そんな変わり者のセロイのことが気になっていたのが、幼なじみのスア。美人で凛とした雰囲気の彼女に、セロイも恋をする。
しかしとある事件がきっかけで身寄りがなくなったスアは、セロイに因縁がある大手外食産業・長家(チャンガ)から奨学金を受け取ることを決める。
そして大学卒業後は長家に就職。能力の高さから戦略企画チーム長に就任し、のちにセロイが経営するタンバムと対立することになる。
とはいえ、スア自身は長家でこのままずっと働き続けたいわけではない。いつかセロイがタンバムで成功し、大金持ちになって、自分を救ってくれるのを待っているのだ。
「まだ私のことが好き?」「貧乏な男は嫌いよ。将来金持ちになる?」と、セロイに上から目線で発破をかけるスア。セロイがまだ自分のことを好きだと分かっているからこそ言えるセリフだろう。
たしかに、2人は正式に付き合っていないものの、両思いであることはお互い確信している。仕事上では対立していても、たまにお酒を飲みながらロマンティックなセリフを交わす美男美女の構図は、視聴者の胸をときめかせる。
この時点では、『梨泰院クラス』のヒロインは紛れもなくスアである――誰もがそう思っていた。もう1人のヒロイン、チョ・イソが現れるまでは。
セロイを自ら救う女、チョ・イソ
タンバムの立ち上げに奮闘するセロイの前に突如現れたのが、女子高生のチョ・イソ。
IQ162の天才型インフルエンサーで、SNSの拡散力もピカイチ。性格は猪突猛進で勝ち気、そしてソシオパス(反社会的な行動や気質を持つ精神疾患)でもある。
セロイに恋をした彼女は、その敏腕さからタンバムのマネージャーとして経営メンバーにジョインする。セロイの矢印がスアに向いているのを知りながらも、決して諦めない。
母親に反抗してまで、大学進学よりもタンバムを大きくするための道を選ぶ。とにかくセロイのために全力を尽くす姿が印象的だ。
タンバムで働くスタッフが問題を起こした時も、長家側に嫌がらせをされた時も、いつもイソは身を挺してタンバムを守っていた。タンバムを支え、成長させることは、セロイの夢を叶えることにつながるからだ。
そして視聴者は気づくのである。「あれ、イソに比べて、スアってセロイのために何もしてなくない……?」と。
セロイが最後に選ぶ女性は?
セロイの救いを待ち続ける女・スアと、セロイを自ら救いに行く女・イソ。
いつかはタンバムを一流企業に成長させ、スアを救い出そうと思っていたセロイだが、イソという予想外のヒロインの登場により気持ちに変化が表れていく。
そもそもセロイが“人生の軸”として重きを置いていたのは、恋愛・結婚といった類の幸せを掴むことではなく、「長家に復讐を果たす」ということだった。
その証拠に、復讐をやめて一緒に幸せになろうと提案したスアに対して、セロイは「一度人生は終わった。再び立ち上がれたのは復讐すると決めたから。幸せはその後だ」と答える。この瞬間、セロイとスアはお互いの人生の軸がずれていることを改めて自覚する。
一方、セロイの人生の軸を理解した上で、復讐を果たすために一緒に戦い続けてくれたのはイソの方だ。最初は彼女のことを恋愛対象として見ていなかったセロイだったが、次第にタンバムだけでなく、自分の人生においても必要不可欠な存在であることに気づいていく。
そんな彼女が、自分のことを「好き」とまっすぐに伝え続けてくれる。これで心が動かない男性がいるだろうか。
15年間も救いの手を待っていたスアの心情を考えると胸が痛むが、逆に15年もの間、どうして“待ち”に徹していたのか。どうして自ら動かなかったのか。
かつての女性は“待つ”ことが美徳とされてきた。今までのドラマであれば、スアのようなヒロインが最終的には王子様に救われ、幸せを手にしていただろう。
だけど今、“待つ”ヒロインは時代遅れなのだと思う。自らの信念を貫きながら、幸せを手にしようと行動する……そんな新時代のヒロイン、イソを目にしてしまったから。
対照的なスアとイソ。この2人が最終的にどんな結末を迎えるのか、ぜひその目で確かめてほしい。
(編集・文:高橋千里、イラスト:タテノカズヒロ)
※この記事は2021年07月31日に公開されたものです