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メイクするのは「自分を肯定するため」。女優・太田莉菜さんの場合

#コスメアカの履歴書

ひらりさ

コスメを偏愛するコスメオタクが増えている。中でもTwitterの「コスメ垢」は、よりディープな情報発信の場として話題。この連載では「劇団雌猫」所属のライターひらりささんが、今気になるTwitterコスメ垢にインタビュー。おすすめアイテムや美容愛、さらには人生までをも覗き見ます。

取材・文:ひらりさ
編集:高橋千里/マイナビウーマン編集部

同人サークル「劇団雌猫」所属の美容オタクライターひらりささんが、今気になるTwitterコスメ垢の実態を探る連載「コスメ垢の履歴書」

今回は、2020年10月7日からスタートしたドラマパラビ『だから私はメイクする』で美も仕事も両立させる完璧なキャリアウーマン・北郷兎咲役を演じる、女優の太田莉菜さん(@WHOISRINAOHTA)にインタビューしました。

(c)「だから私はメイクする」製作委員会

日課だった、マドンナのパフォーマンス鑑賞

――昨年の12月に突如Twitterアカウントを開設された太田さん。何がきっかけだったんでしょうか?

当時出演していたドラマ『来世ではちゃんとします』のキャストメンバーとの雑談中、SNSの話題になったんです。私は以前、運用していたSNSを疲れてやめちゃった経緯があったのですが、また「SNS免疫」をつけるのも良いかなと思って、Twitterをスタートしました。

ただ、自分のことに集中したい時や情報疲れした時はお休みしようと決めていて、今はちょうど「お休み中」ですけどね。またちょっと何か発信したいな〜と思ったらツイートすればいいや、というスタンスです。

――「嘘のような本人公式アカウントです」というプロフィール文だったので、本当に本人なのか!? とドキドキしながらフォローしましたが、自然体でおしゃれを楽しむ太田さんの姿が見られて、とても幸せになれました。アカウントに固定しているアルミ背景のお写真は、雑誌の撮影か何かですか?

Twitterに上げてる写真は全てプライベートで撮ったものです。アルミのやつは、娘がいくつかもらってきた保温・防寒シートですね。あれをワーッと広げて背景にして、撮ったんです。

――センスがすてき! 10代の頃から芸能界で活躍する太田さんですが、おしゃれやメイクに関心を持ったのはいつだったんでしょうか。

そもそもの話をすると、マドンナが大好きだったんです。自宅でマイケル・ジャクソンとマドンナのプロモーションビデオが録画してあって、幼稚園から帰ったらそれを見るのが日課でした。

ジャンポール・ゴルチェの、胸が三角コーンに尖ってる衣装を着ているマドンナとか、紫とピンクのバスローブを着ているバックダンサーの人たちとか、全部に夢中で。

あと、母親がファッション好きなので、彼女の洋服ダンスをゴソゴソして、着なくなった服や靴を着てファッションショーとかしてましたね。

ドレッサーにはゲランの「メテオリット ビーユ」が置いてあって、それもよく覚えています。子ども心にすごくかわいく見えて、憧れて、「大人はなんてすてきなものを持ってるんだろう」って思ってました。

美のルールは「毎日顔を洗う」

――その憧れが、今のお仕事を選んだ理由でもあるんでしょうか。

芯の部分にある「好き」は変わってないと思います。この仕事を続けられているのは、悩むことはありながらも、天職なんだなと。

でも、小学校の文集に「マドンナみたいな歌手になって歌って踊りたい」とは書いていたけど、現実的で身近な夢や目標として、芸能界での仕事を思い付いていたわけではなくて。千葉の田舎で暮らしていたから、どうやったら入れる世界なのかも知らなかったですね。

でも、中学2年生の時に、クラスの女の子たちが『ニコラ』と『ピチレモン』を貪り読んでいるのに気付いたんです。私も気になって『ニコラ』をこっそり買ってみたら、読者モデルのオーディション用紙が付いていて。ふと応募してみたら受かって、気付いたら続けていた……という感じです。

――そこは「こっそり」だったんですか?

みんなが読んでる話題の雑誌なのに、私だけ知らなかったんだ、遅れてるのかも……って恥ずかしかったんです。自分が駅前の本屋で買うものといえば、少女漫画だったので(笑)。

母親は『ELLE』とか『VOGUE』とかを買ってましたけど、だからこそ「雑誌を買う」って大人の行為だと思っていたんですよね。ティーンファッション誌は、とにかく未知なる領域でした。

――そこからずっと、太田さんがメイクする理由は変わらないですか?

ハイパースーパー自分のためでしかないですね。

もちろん、仕事ごとに求められるものはあるから、「他人のため」の時もあります。でも、それも、人に喜んでもらったり楽しんでもらったりしたいという、ポジティブな理由を含んでいるかなと。

今日はちょっと優しい気分でいきたいとか、強い気分でいきたいとか、メイクは自分を演出してくれるものだから、すごく楽しいですね。

――太田さんにとって、「美のマイルール」ってありますか?

「顔はちゃんと洗おう!」くらいですかね。

――シンプル!

私、めちゃくちゃズボラなんですよ〜。「疲れた」って言いながら、メイクしたまま寝ちゃうこと、今でも全然ありますから。朝起きたら「顔がやばいよ」って娘が言ってきて、慌てて洗うとかもあります(笑)。

やっぱり精神的に疲れていると、細々したスキンケアとかが適当になったり、部屋も汚くなっていったり、それが自分のバロメーターになるところもありますね。

――美容やメイクが適当になってきたなと思ったら、調子を戻す?

そうそう。最低限のルーティンを決めておくと、自分の今の調子が良いのかどうか分かりやすくて良いですよね。

あとは、メイクで「気合いを入れる」効果にもすごく助けられてるかなあ。「やるぞ!」という日にはアイラインに力を込めるとか。

個人的な話ですけど、10代の頃に好きな人がいて、尊敬する女性に「デートすることになったんだけど、どうしよう? どんな格好したらいい?」って相談したんですよ。

そうしたら彼女が「自分の思う一番良い格好をしたらいいよ。それで引かれるならあなたに合わない相手だよ」と言ってくれたんです。あの言葉は、今でも私の座右の銘ですね。

大事な場面に臨む時こそ、相手に自分を良く見せるのではなく、自分が一番すてきだと思える装いや格好をするのを今でも心掛けています。

「ハーフモデル」の需要にモヤモヤしていた

――ドラマパラビ『だから私はメイクする』のオファーが来た時の、感想を教えてください。

ありそうな感じで今までなかった作品じゃないですか。メイクと掛け合わせて現代女性の生き方を描く、なかなか実現しにくいだろうなと思われるテーマなので、それが実現して、現場には女性スタッフさんがたくさんいて、そこに自分も呼んでもらえることが、まずうれしかったですね。

その物語の中でも、気持ち良いくらいに前を見据えているキャリアウーマンである兎咲みたいな人を演じられるのが光栄だなあと。

(c)「だから私はメイクする」製作委員会

――現場を見学したんですが、「兎咲がいる!」と叫びたくなるような格好良さで、惚れ惚れしました。パンツスーツにパンプスのスタイルも完璧で。

衣装合わせで、監督やスタイリストさんととても細かく意見を合わせられたのは良かったですね。ちょっとした袖の長さとか靴の種類とか布の素材だけでも、キャラクターの印象って全く変わるので。

本当にスタッフの皆さんが役をしっかり把握してくださっていたので、現場で「このメイク、もう少しこうしませんか?」と提案しても、すぐ応えてくださるのがありがたかったです。

――プロデューサーの祖父江里奈さんは、『来世ではちゃんとします』でもご一緒されていましたね。

祖父江さんってすごく面白くてさまざまな経験をされている方で、『来世ちゃん』の時も、ジェンダー的な価値観やフェミニズムについて、すごく勉強させてもらったんです。

私にもいろいろな経験があって今の自分があるんですけど、その変化の流れの中に祖父江さんはかなり大きく影響していますね。

――『だから私はメイクする』は、人それぞれの美意識の話でもあります。太田さんがお仕事をされる中で、世間の「美」に関する価値観の変化を感じることはありますか?

多種多様な美が肯定されてきているな、とは思いますよね。広告でも一辺倒じゃないビジュアルのものが増えたし、若い子たちがSNSなどでたくさん発信しているのも頼もしい。

私が仕事を始めた時って、「ハーフモデル」の需要がすごかったんですよ。私の場合、母親がロシア人なのもあるんですけど、「外国人風」「ハーフ風」というのがすごく求められていることに、かなり窮屈さを感じていました。

日本って、他人の見た目に関わる発言が差別につながるということへの意識が薄いですよね。文化のミックスが社会の前提になっていないからだろうし、悪気はないんだろうけど、「なんでそんなこと言われないといけないんだろう?」と思うことは多かったので、今ようやく流れが変わってきてるのはうれしいです。

(c)「だから私はメイクする」製作委員会

ホクロを消されて、気付いたこと

――太田さん自身がコンプレックスを乗り越えた経験などはありますか?

自分が個性だと思っていたものを「邪魔なもの」とされてしまう悔しさは経験しましたね。私って顔に結構ホクロがある方なのですが、10代の頃に受けた広告のお仕事で、写真加工で全部消されていたんですよ。その瞬間、それがすごくショックな自分に気付きました。

――それはしんどいですね……。「広告業界では珍しくないんだろうな」と思ってしまうエピソードです。

この価値観って一体なんなんだろう? ホクロが一つも無くなったら、それは本当に私の顔なんだろうか? それならCGを使えばいいのに……と思いました。

なので、現在はお仕事の際に、よほど作品の意図するキャラクター像やテーマに必要ではない限りは、ホクロを消すのはやめてほしいと伝えています。私にとっては、自分のチャームポイントなので。

――修正されたビジュアルを見た女性たちが、「やっぱりホクロって無い方が良いんだ」と、自分のコンプレックスを深めることもありそうですよね。

私自身がそういうふうに表に出てしまうことで、「嘘をついてる」という気持ちに苛まれたこともありました。

最近は、消費者の方からも美容広告の修正に対して疑義が上がるようになって、良いことだなと思います。

――マイナビウーマン読者の世代は、「歳を重ねる」こととどう向き合えばいいか悩んでいる人も多いようです。太田さん自身はどうですか?

そうですねえ。私の場合、13歳から仕事を始めて、結婚して、21歳で子どもを産んで、離婚もして、すごい速さでいろいろやってしまったので、もはや自分が何歳とか気にしてないかもしれない。

年齢を聞かれると「大体30歳ですね」と答えちゃってるけど、実際は32歳だったり(笑)。年齢の細かい区切りって必要なのかな? 四捨五入でやりません? って気分でいます。

今一番思うのは、自分の娘に対しても「歳をとるのは良いことだ」と思ってほしいってことです。いろいろな経験がその人を作っていくものだから、歳をとるほど得るものがあると思ってほしい。

娘にはみっともないところもたくさん見せてますが(笑)、私という人間が、歳をとっていく中でただ起きていることを見てほしい気持ちもありますね。

その私の人生の中でも、やはりおしゃれや美容は切り離せないものだし、特に洋服が好きってのはずっと変わらないですね。

毎シーズン新しい服を買うということではなくて、洋服のことを一番身近な美術品だと思っているから、「本当に宝の一着を持っていれば、それがその人をきっと輝かせてくれる」という考えです。

だから、そういう一着に出会って新しいことに挑戦するのがライフワークで、その中で自分がどうしたら元気になれるか、ハッピーになれるかが軸。数々の失敗もありますけど……。

――今でも失敗、あるんですか?

あります、あります。この前も、自宅であまりにもまどろんでるから気分を上げようと思って、かなり考えて洋服を選んで、伊勢丹に行ったんです。でも街で自分のコーディネートを見たら「一人サーカス」だなと、途中で恥ずかしくなっちゃって。一緒にいた娘に「ママ、大丈夫かな?」って確認しちゃいました。

人に言われてどうとかじゃないんだけど、「自分のため」だからこそ、自分の“納得がいかないスイッチ”が入ると止まらなくなるという……。

――「一人サーカス」、見たかったです(笑)。今日は、すごく励まされるお話ばかりでした。最後に、太田さんにとってメイクやコスメはどんな存在でしょうか?

自分で自分が「一番良いでしょ?」って状態になるためのサポーターですかね。

ラメがばんばん付いていようが、ものすごくナチュラルだろうが、その人にとって今の自分を肯定するための“自分サポーター”。

失敗して不安になる時もあるけど、それも自分の糧になる。とにかくわがままに、みんながメイクや洋服を楽しめたらいいなと思います。

INFORMATION

『だから私はメイクする』漫画:シバタヒカリ、原案:劇団雌猫

『浪費図鑑』の劇団雌猫が贈る話題書をコミック化!

メイク道を爆進するうちにあだ名が「マリー・アントワネット」になった女、“推しネイル”にハマって猛練習する女、仕事場での“アドバイス?にうんざりしている女など、メイクを通して見えてくる、「社会」や「自意識」と戦う女たちの悲喜こもごも。

「自分がどうありたいか」と向き合う、共感必至のオムニバス・ストーリー!

※この記事は2020年10月21日に公開されたものです

ひらりさ

1989年生まれ、東京都出身。ライター・編集者。女性・お金・BLなどに関わるインタビュー記事やコラムを手掛けるほか、オタク女性4人によるサークル「劇団雌猫」のメンバーとしても活動。主な編著書に『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

ブログ:It all depends on the liver.
Twitter:@sarirahira

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